結ぶと解く   作:ながずぼん

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第164話 接客と焼香

 付け回しを頼まれ怯んだものの席数が少ないのであんまり難しくなかった。

 機械的にセット終了10分前にオンナのコを移動させていくだけ。

 ていうかオンナのコが場内指名のおねだりをぜんぜんしないんだが。

 そのまま閉店時間になり、全ての客を送り出して戻って来たアオイママに尋ねる。

 

「あの、場内指名を取るようにオンナのコに指導してます?」

 

「ちゃんと言ったことないけど、お金を稼ぎに来ているのだからわかると思って」

 

 あー、これはオンナのコの方の教育係も必要なんじゃないかと思った。

 送迎あるんで片付けまでは手伝えないと告げて、車を取ってからアヤママの店に。

 

 ナオさんがアフターだということで、空いた席にはモエカさんが乗って来る。

 モエカさんは前に送ったときは静かだったけれど、ユイさんやメイさんとは仲が良いみたいで楽しそうに話をしていた。

 ユイさんを降ろし、そろそろ彼女のアパートに着く頃「私もこっちの車がいい」と言い始め「ハナちゃんもっと大きい車にしなよ。バスみたいなやつ」とメイさんが無茶を言ってくる。「トランクに寝て行けばもう一人乗れるよ」と言うと「はあ?」という顔で返された。この無自覚おねだりをアオイさんの店の子に見習って欲しい。

 

 モエカさんの次にユキさんのところを回って、メイさんのマンションに向かう。

 彼女は静かになってしまっていたけれど、一応コンビニの駐車場に停める。

 「寄らなくていいの?」と声を掛けると「あっ、食べる食べる」と言って彼女は車を降りた。久しぶりの夜食はサンドイッチと珈琲。メイさんはビール3缶とサラダっぽい何かを買っていた。寒いから車に戻って食べることにする。

 

 「新しい女の人はどうして嫌いなの?」と気になっていたことを尋ねる

 

「えー、なんか必死なんだもん。すごい客にべたべたするから、同じ席だと客がいいんだって勘違いして乳揉んでくるし。女売りすぎあいつ」

 

「それはとばっちりだねえ。そういう時クスメギは止めに入らないの?」

 

「酷いと来てくれるけど揉まれた後じゃん。手遅れじゃん。わたし揉まれ代もらってないし」

 

「え?お金払ったら揉んでいいの?」

 

「わたしのおっぱい揉みたいの?揉んだら勃つかな?ちょっと揉んでみる?」

 

「い、いや、冗談で言っただけだから。はは…ははは…」

 

 このコの貞操観念が全くわからない。ジェネレーションギャップなのかな。

 

―――――

 

 日曜日なのに8時ぐらいに目が覚めた。時差ボケなのかもしれない。

 喫茶店の営業許可申請のときに図面が必要になるので、店に行ってだいたい測って図面にする。あとは食品衛生管理者講習会の申し込みだが今日は日曜でお休みだから明日の申し込みを忘れないように携帯のアラームにセットした。

 

 図面を描き終えたら店主さんに線香を上げさせて貰うための準備をする。

 店の制服は喪服みたいなものなのでスーツはいいとして黒いネクタイがないので買いにいく。紳士服屋には太いやつしか売ってないので他の店をいくつか回ってセレクトショップのようなところで丁度良さそうなのをようやく見つけられた。

 

 店主さんの娘さんの携帯に連絡をする。日曜なら出てくれるだろうか。

 

「はい。カツラガワです」

 

「あ、あの、お店を譲ってもらったハナダですが、年末からちょっと街を離れていまして、先日戻ってきたら店主さんお亡くなりになったと聞きまして」

 

「はい、なにか海外に行かれているとコマキさんから聞きました。せっかくお見舞いに行っていただいたのに年明けに亡くなりまして。あと、お一人で来られて祈ってくださったって父が言ってました。大変お世話になりました」

 

「いえ、そんな。ほんとうに残念です。お悔み申し上げます。それでお線香を上げさせて頂きたいのですが、ご自宅に伺ってもよろしいですか?」

 

「そんな、お忙しいのに恐れ入ります。父もきっと喜ぶと思います。家はですね…」

 

 いまから来てもいいとのことだった。確認したら仏式で四十九日もまだなので買ってきた熨斗袋に御霊前の紙を挟み、筆ペンで名前を書く。おれは明朝体でロクに字が書けないので筆字なのにゴシック体だ。大人としてどうかと思うがこんな時にしか筆を使わないのだから仕方ない。

 香典を入れて白黒の水引に通す。元の世界での義理事はお返しの負担がお互いに軽くなるようにたくさんお金を入れなかったが、こちらはお返しの心配がないので、多めに入れた。

 

―――――

 

 教えてもらった住所に着く。普通の一軒家だけれど庭木の手入れが綺麗にしてあって、あの店と同じように大事に使っている家なのがわかる。

 チャイムを鳴らして引戸を開け「ごめんください、ハナダです」と声を掛けると、中からパタパタと娘さんがやってくる。「どうぞ」と出されたスリッパを履いて彼女の後について行くと、座敷に仏壇があってその前に座布団が敷いてあった。

 座布団の前に正座をして「お悔み申し上げます」と香典を差し出すと「ご丁寧にありがとうございます」と娘さんに深々と頭を下げられた。

 

 店主さんに線香を上げて目を瞑っていると、暗闇の中にもやもやっとした淡いオレンジ色の光の粒の塊が見えた。その光はもやもやと横や縦に伸びたりして、なにかをこちらに語り掛けているような気がした。

 

 「忘れないで」とサヨさんの声が聞こえた。ような気がした。

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