結ぶと解く   作:ながずぼん

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第167話 喫茶と変化

 火曜日、送迎はいつもの4人だった。それぞれを拾って店に届ける。

 車を駐車場に戻したらアオイさんの店に行く。

 昨夜のコンドロイチンが効いたのかアオイママの店の雰囲気が変わり始めた。

 ママのレクチャーを受けたオンナのコたちがそれぞれ少しずつドリンクや指名料を稼ぎ始めた。指名が入ると抜くに抜けなくなるからオンナのコが足りなくなる。

 タケちゃんを座らせてお茶を濁すにも限界あるし、あと1人2人欲しい感じ。

 アヤママの店もオンナのコの数カツカツでよく回しているよなあと感心する。

 

 ―――――

 

 松本市へ予約しておいた食品衛生管理者講習会に来ている。

 でかい講堂に大勢集まっていて、ステージのおじさんの講義を聞く。

 カンピロバクターとO-157、ノロウイルスに気を付けろと何度も繰り返す。

 客にせがまれてもレバ刺しとか鳥刺しは提供しちゃダメと言っていた。

 休憩時間になったので喫煙所へ煙草を吸いに行くと、日本人は2割ぐらいしかいなかった。インドかパキスタンの人や、東南アジアの人、中国人ぽい人、とにかく日本語が聞こえてこない。この人たち、さっきの話わかったのかな?と思った。

 

 午後は主に食品加工工場で働く人のための講義で、帳面を付けろとか消毒を徹底しろというような内容だった。関係ないなと思って終了時間まで寝て過ごした。

 寝ていようが終了時間になったら係の人が受講証を渡してくれた。

 送迎に回る時間ギリギリになりそうだったので寄り道しないで真っすぐ帰った。

 

 部屋に戻る時、郵便受けに封筒が入っていた。DMかと思ったらFBIと書かれていた。おれもう日本に戻ってるしいまさら出頭しろとか言われても…と嫌な気持ちになりつつ封を開けると、例の150万円を振り込んだという通知のようだった。何が書いてあるのかわからないが、数字は1,500,000となっているのでそうなのだろう。

 封筒の中にはスミス捜査官の名刺も入っていて裏に『アメリカに来たなら連絡を』とスペイン語で書かれていた。

 

 

 深夜、仕事が終わって部屋に戻ったら、忘れる前に名刺にあったメールアドレスに御礼のメールを送った。

 『あのお金は自分の店のために使いますが、それはいつかこの街のためになると信じています。あなたの善意に感謝します』そんな内容で送っておいた。

 

―――――

 

 保健所へ飲食店営業の許可申請を提出した。

 後日、検査員が衛生設備の検査に来たが、元々ちゃんとしてあったので特に問題なく、トイレの手洗い器のところへ爪の隙間を洗うブラシを置けと言われたぐらいで検査をパスできた。あとは検便の結果で営業許可証が出てくるはず。

 

 部屋で乾かしておいた絵を店に持って行って柱のところへ取り付けた。

 カウンターの中に入って絵の位置を確認すると実によく見える位置で満足だった。

 このまえデザイン事務所で作ってもらったデータを看板屋さんに送ってあるので、店の看板ももうすぐ取り付けできるだろう。

 FBIの金を使ってエスプレッソマシーンを導入した。すごくいいやつ。

 ガレットの具は卵とチーズとハムのやつを定番に据えて、他は気が向いたら。

 本当はソフトクリームの機械を入れたかったけれど、売り切れる状況が想像できないからレディーボーデンのでかいやつにした。これなら日持ちするし。

 ひとまずこれで営業スタートだ。11時から17時まで。不定休ってことにした。

 

―――――

 

 閑散期の2月をなんとか乗り切り、アヤママの店もアオイママの店も年度末の会合から流れてくる団体客が増える時期に突入する。

 

 このタイミングで両方の店に大きな変化があった。

 アヤママの店から独立して個人事業主となったアオイさんだったが、私の城的な考えはないらしく、足りない人員を補填するときはアヤママに相談というかお願いをしていて、おれもアオイさんの店を当たり前のように手伝っていた。

 オンナのコもそういった貸し借りができないかという話になり、じゃあ法人化してグループ店にしちゃった方が話が早いということで、そういう方向に進んでいる。

 

 店の責任者はそれぞれのママになるのだけれど、実際の仕切りは店長がやっているわけで。アオイさんの店の店長にタケちゃんを据えようとしているみたいだけど、いかんせん経験不足なので半年を目処に彼を育てて体制を整えようとしている。

 そんな折、店長候補として粉骨砕身がんばることを約束する対価としてタケちゃんがアオイさんに一つだけ条件を出したらしい。お姉さんを入れてくれと。

 店にお姉さんがいればモチベーションが上がるそうだ。というわけで元々アヤママの店で働いていた退役のお姉さんであるシズカさんがアオイさんの店に入った。

 

 アヤママの店の方はちょっと複雑で、法人化した際にはクスメギとアヤママで共同経営者というか役員になる予定で、そうなるとやり辛かろうとクスメギはニホンマツ店長をアオイママの店の店長になるよう勧めたが彼はそれを固辞。だからタケちゃんを育てるという話になったらしい。

 アヤママに抱いているのは恋愛感情ではなく忠誠なのだ、と言って店長を続けさせるか辞めさせるかママに迫ったらしい。アヤママとしては無論残って欲しいため、クスメギはママの腰巾着みたいなポジションで半年を過ごすことになる。

 

 さらに新卒の超絶イケメンが、夜の店の経営者になるための勉強をしたいといってアヤママの店に黒服として入店してきた。そんなリョウ君は高身長で高学歴で超絶イケメン、しかも礼儀正しくて目上を立てるのが上手い完璧超人だった。

 開店前のミーティングで紹介されたとき、声はなかったが「ザワ…ザワ…ザワワ…」となっていた。そりゃ、あんなのに微笑まれたらトゥンクしちゃうだろう。

 早速メイさんに感想を尋ねると「ああいうのに乳首コリッコリになる季節はもう過ぎ去った」と言っていた。このコの判断基準とワードセンスがまじでわからん。

 

 かくして陣容に微調整が入った夜の店の生活だったが、おれはリョウ君が入ったことでアヤママの店から弾き出され、アオイさんの店の黒服となった。送迎もあっちの店のコたちを担当。そしてなぜかメイさんもアオイさんの店へ転籍してくる。

 アオイさんはタクシー通勤、シズカさんは飲まないので自走、なのでノゾミさん、黒ギャル、白ギャル、メイさんの4人を送迎する。一番遠いのは相変わらずメイさんで、ノゾミさんはナオさんのアパートのあたり、ギャル2名はユイさんとかモエカさんの家の近くだったので、ルート的には今までとあんまり変わらない。

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