とりあえず3月の第一週は送別会とか組まれていないのか平和な感じに過ごせた。
目を引いたのはシズカさんとメイさんのお喋りスキルだった。2人ともタイプは違うが会話を回すのが上手で、1人でも3人ぐらいまでならお喋りできてしまう。
夜の店といえば色恋営業みたいなイメージでいた元々の3人にとっては衝撃的だったのか完全に子分みたいになっていた。アオイママがずっと見せてたけどなあ。
色恋営業をかけてボトルやシャンパンで稼ぐのは都会の話で、この街でシャンパンが抜かれるのはよっぽどのお祝いの席だけだ。オンナのコにしても指名料ごときでガチで迫られるリスクがあるから色恋営業は下策なのだ。一人客なんか見ないし。
そうなってくると、そのテーブルでお喋りをいかに回すかが必要なスキルになる。
種火を点けたらあとは客同士で喋らせてたまに燃料を入れる。
言うのは簡単だけど幅広い知識か、確固たる個性がないと苦労する。アオイママやシズカさんは歴戦の兵だけあって話題の幅が広い。メイさんはアレなので話がズレて転がり始める。あれはやろうと思ってできるものではない。
この2人が入って回しがたいぶ楽になった。隣で微笑んでいるだけのカワイ子ちゃんでいいのなら生身のオンナのコでなくてもオリエント工業に発注すればいい。
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翌週の真ん中へんで明日は23時閉店になると言われた。店のクリーニングとか設備点検でも入るのだろう。タケちゃんが嬉しそうにしていたので、なにか早く帰って遊ぶ用事とか彼女とチョメったりするのかなと思った。
送迎に回ったときオンナのコたちが一様に大き目のバッグを抱えて乗り込んでくるので、なんだかデリヘルのドライバーみたいだなと思った。あと、メイさんが無口だった。またなにか悩んでいるのかと思ったけど言って来るまで放っておくことにした。
営業は通常通りで、わちゃわちゃしている間に閉店となり、片付けはいいからアヤママの店に行くようにアオイさんに言われた。全体ミーティングかな?と思いつつアヤママの店に行くと、サプライズが待っていた。
アヤママをはじめ、オンナのコ全員が喪服だった。
慌ただしく過ごしていたことと、エルリカに会って元の世界に戻ることしか考えていなかったので忘れていたが、この日はおれの43歳の誕生日だった。
去年はウルグアイの大使館で用務員として過ごしていて誰にも祝われなかったし。
アオイさんのお店を作るってなったときに話したことをアヤママは覚えていてくれたのがとても嬉しかったが、絵面としては縁起が悪すぎるので苦笑いが出る。
それにしてもアヤママの喪服姿はメーテルだった。あのモコモコの黒い帽子を被ったらみんな機械の身体が欲しくなる程度にはメーテルだった。
「誕生日おめでとう、ハナちゃん。いつもありがとう」
アヤママはそう言ってでかい花束を渡してくれた。みんな拍手をしている。
こんなの泣いちゃう、みたいなことは思わなかった。おれにばかりこんなことをして、他のスタッフの誕生日どうすんだ?毎回やんのかこれ?と、そんなことを考えていた。
「ありがとうございます。喪服のこと覚えていてくれたんですね。ていうかただのバイトなのにみんな残らせて大丈夫なんですか?ほんとは嫌がってたら申し訳ないんだけど…」
「うふふ。本当は店が終わったら4,5人でお祝いしようと思っていたのだけど、どこから洩れたのかみんなでお祝いするってことになったの。誰にも強制はしていないから、そんな心配はしないで?ね?」
店を貸し切り状態で、おれの誕生日パーティーを開いてくれた。
おれの隣に喪服のオンナのコが代わる代わるやってきて、おめでとうございますと言ってくれる。生前葬ってこんな気分なのかな。
ていうかこんななら喪服じゃなくてマイクロビキニが好きだと言えばよかった。
誕生日ということで王様扱いを受けていると、アオイさんの店のコたちも喪服で来てくれた。送迎のときに抱えていた荷物は喪服だったのかとここで気付く。
喪服姿のメイさんがニヤニヤ笑いながら隣に来る。恨まれて死んだ気分だ。
「ハナちゃん、誕生日おめでとう。はいこれ」
そう言って彼女は小さい箱をくれた。開けていいか尋ね、箱を開けるとネクタイピンが入っていた。キラキラした装飾のついた銀色のやつ。ありがとうと御礼を言う。
「あれ?泣かないの?わたし泣いてるところが見たかったのに!」
残念ながら泣かない。きょうは泣かないんだ、ひとつ大人になったから。
「泣かないよ。ていうか、みんなに声を掛けてくれたのメイさんなの?」
「ううん。アヤママが誕生日会やるっていうからサプライズ?って聞いたら喪服でサプライズって言うからちょう面白いじゃん絶対泣くじゃんと思って、ユキちゃんとナオちゃんに言っただけだよ」
その後にやってきたユキさんやナオさんに話を聞くと「喪服で泣かす」というコンセプトが「喪服を見ると泣くらしい」と噂がねじ曲がり、時給もつくので面白半分でみんな参加しているようだった。喪服見ると泣くっておれは中国の泣き女かよ。
少しして、リョウ君とタケちゃんが一緒にやってくる。
「おめでとうございます。ハナダさんて元々ママのお知り合いだったんですか?副店長が、ハナダさんにママを紹介されて東京からこっちに来たって言ってましたけど」
「先に知り合ったのはおれだけどほぼ同時だよ。2人とも好きなくせに言い訳ばっかで煮え切らないからさっさと付き合えって言ったけど。ははは」
「あはは。それでですか。あいつは言いたい放題だから言われた方はその気になりやすいけど、ケツ拭かないから気を付けろって言われました」
「リョウ君にモテすぎて困るみたいな相談されてもおれ何も言えないからね?」
もげろ、としか言えない。