おれとリョウ君の会話を黙って聞いていたタケちゃんが満を持して口を開く。
「俺がシズカさんに告白するときもアドバイスくださいよ!お願いします」
「おいおい、おれはマッチングアプリじゃねえんだよ。タケちゃんが自分で心に決めて告白でもなんでもすればいいよ。あとさ、おれモテないからね?リョウ君の方が7兆倍ぐらいモテると思うよ?口説き方ならリョウ君に聞きなよ」
熟女好きというタケちゃんはシズカさんに一目惚れのようで、リョウ君に口説き方を教わりに向こうへいってしまった。それにしてもリョウ君かっこいいな。
せっかくの異世界ならおれもあんな顔に生まれ変わりたかった。
その後、全員が一度はおれの隣に来てお祝いの言葉をかけてくれた。
なんというか、義理でおれのところにお詣りをしたら後は好き勝手に飲んでるといったような感じの、生前葬どころか告別式の後の精進落としの遺影の気分だった。
飲み会がお開きになる頃、店長がオンナのコたちの送りは黒服たちが出るからと言ってくれた。店を片付けながらオンナのコたちを送り出すと、アヤママがやってきてこれからクスメギとアオイさんと二次会だといわれた。それで3人は席に来なかったのか。
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片付けが済んだら近くの寿司屋に行く。奥の小上りを予約してくれていたようだ。
テーブルには既に料理が並んでいた。すぐに乾杯になって「おめでとう」と改めて言われたがすでに日付は変わっているので「王様タイムは終わりですよ」と笑った。
「喜んでくれたかしら喪服は。どのコが一番ぐっときたの?やっぱりメイちゃん?」
「心遣いは嬉しかったですけど自分の葬式みたいでしたね。喪服なのに笑ってると恐ろしい感じになるの初めて知りました。でもみんな大人っぽくて綺麗でしたね」
「私は絶対ニットの方がハナさん喜ぶって言ったんですよ。あの打合せの時すごく見られたし」
「確かに。みんながニット着てたら明日が本当に葬式だったかも。あはは」
「じゃあ、来年の誕生日会はみんなでニットを着ようかしらね。うふふ」
クスメギに視線を飛ばす。あいつちょっと悲しそうな顔で頷きやがった。
おまえが寂しがるなよ。強気で親目線のあいつはどこいっちゃったんだ?
時期的にはちょっと早いかなと思ったけど、アヤママもアオイママも守秘義務的なことには慣れているだろうし、言ってもいいかなと思って話すことにした。
「ありがとうアヤさん。でも、その誕生日会におれは出られないんだ。もしかしたら出戻りでいるかもしれないけれど、まあ、その時は恥ずかしいから、やっぱりこの街にはいないかな。おれね、年末ぐらいにみんなとお別れなんだ」
驚くなっていう方が無理な話だけれど、なるべく驚かないで聞いて欲しいと前置きをして、自分がこの世界の人間じゃないことを2人のママに話した。
アヤママはおれが能力者であることは見て聞いて知っていたけれど正体が異世界人?だとは聞いてなかったようで、えっ?と驚いていた。クスメギの口の堅さよ。
アオイさんに至っては変な笑顔が張り付いたまま固まってしまっている。
「そんなわけで来年の1月ぐらいに元の世界に戻るチャンスがあって、だから年末ぐらいにはお別れってことになります。まだ半年以上あるしそれまでは今まで通りでお願いしたいと思ってます」
「初めて会ったときに、会社や家族が行方不明だって言っていたのはそういうことだったのね。意味がわからなかったけれど嘘をついているようには見えなかったの。そういうことなら確かに行方不明って言うしかないものね」
「東京にいればおれの存在がどんなものか知れなかったと思う。地元に戻って、ここはおれの世界じゃないって思ったから帰れるチャンスに辿り着けたのかなって。腰掛けになったけど、あの時、住所不定無職のおれを雇ってくれてありがとうアヤさん」
そうは言うものの、ここにはおれの居場所がある。居心地だってすごくいい。
だけどやっぱり元の世界の人間なんだ。帰る場所が、待ってる人がいるんだ。
そう自分に言い聞かせないと、いつまでもこの世界に留まってしまいそうだった。
「検査期間が終わったらあんたには外事室で事務方のポジションが用意されてたんだよ。でもアズマさんから身の振り方は本人に任せるように言われてな。帰国前からこっちに来るって決めてたみたいだからオファーもしなかったんだよ」
そんな根回しがあったのか。その話に乗ってたらアズマさんはアサガオさんに引き合わせてくれたのかな。戻る意思が足りないって判断になってたかもしれない。
つうか、協力費の600万円がなければ東京で働いてたかもしれない。あの金があったからこっちでもどうにか暮らせると思ってたわけだし。お金は大事だ。
すっかり置き去りになってしまっていたアオイさんがようやく口を開いた。
「あの、ずっと前にメイちゃんからハナさんには会えない子供がいるって聞いていたんですけど、やっとその意味がわかりました。私、酷い理由で離婚して裁判所命令で子供に会えないのかなと思って、でもそんな人に見えないなって思っていたんです」
「まだ店に入ったばかりの頃の送りでメイさんの子供の写真見せて貰ったときに、自分の子供のこと思い出して思わず泣いちゃったんですよ。こんなおじさんが急に泣き出すもんだから、おれ以上にメイさんが慌ててましたね。ははは」
「え、じゃあメイちゃんはハナさんが違う世界の人?で、いなくなっちゃことを知らないんですか?」
「はい。言ってないですよ。この街で知ってるのはいまここにいる3人だけですね」
アオイさんはアヤママに視線を投げると、ママはなんとも微妙な笑みを返した。