おれのことは一通り喋ったから今度はこっちが質問する番だ。
「それでおまえ、ハナザワさんに会って話してきたのか?」
「ああ、日曜に行ってきた。それで4月から嘱託扱いになったよ。月に一度若手の指導で出張がある感じだ。あんたが言ってた通り室長にすごい気を遣ってもらってさ、アヤさんにもなるべく無理はさせないって言ってくれたよ。ありがとうな」
「ずっと二人で悩んでいたのに、ハナちゃんが戻ってきたらささっと決着しちゃうんだもの。そんな人がいなくなっちゃうなんて不安もあるけれど、私たちがしっかりしなきゃいけないってことよね」
「あれは、ぜんぜんおれの手柄じゃないですよ。そもそも、そこのポンコツが電話一本掛ければ済む話だったんですから。これから先、お店を会社にしたらそいつも責任背負うんだからママが尻叩かないとだめですよ?」
「うふふ。ありがとう。ハナちゃんがいなくなっても街が盛り上がっていくように、アオイちゃんも一緒にがんばっていきましょうね」
「はい。私だってハナさんが作ってくれたお店をダメにする気はないので」
「アオイさんは会社になって雇われママになるのは抵抗なかったの?」
「はい。自分のお店を持つのは夢だったけれど、やっぱり経験不足だったし全部を自分でやっていたらパンクしちゃうから、お店を任せてもらって一緒にやっていけるのはこちらからお願いしたいぐらいの条件でした」
「そうなんだ。でもお給料制になるわけでしょ?こんだけ稼いだんだからもっと私のお金になってもいいはずなのに、とか思ったりするんじゃない?」
「ハナさんはもう知ってると思いますけど、私、いわゆる実家が太いっていうアレなので、お金はたくさんじゃなくてもいいんです。うふふ」
確かにアオイさんの家はでかい屋敷だった。そこの一人娘とかそんな感じなのか。
アヤママの構想では将来的にもう2店舗ほど出店するつもりらしい。
客の食い合いにならないよう業態を変えて多店舗展開したいようだ。ガールズバーとかカラオケスナックとか、客層に応じた店が必要になるだろうとのこと。
「アオイちゃんにはいずれ、ショータイムがあるようなお店を任せたいと思っているの。キャバレーのようなお店をね。そこもハナちゃんにお店作りをお願いしようと思っていたけれど、流石に年内には無理だからせめて絵だけでも残していってくれないかしら」
「そんなお店を任せてくれるなら私もまたハナさんにお願いしたいです」
「そう言ってくれるのは有難いんですけど、箱の目処はついているんですか?おれ図面は描けますけど、素敵なイラストみたいなのはちょっとセンスが怪しいですよ?」
「うふふ。箱はあるの。うちのお店の3階に、昔ダンスフロアがあったお店があって、あそこならショーのステージを作ってもお客さんたくさん入るから」
そういえば元の世界で若い頃に一度だけ連れて行ってもらったことがある。
ママの店の3階にあるやたら広い店。知らない間に空きテナントになっていたけど、こっちの世界でも同じだったのか。確かにあそこならステージ作れそうだ。
なかなかの宿題を誕生日プレゼントとして最後に贈られた。
そのうちにタイミングを見て、現場を見に行く約束をして二次会はお開きになる。
寿司屋を出たら、3人はそれぞれタクシーに乗って帰って行った。
アヤママとクスメギが別々に帰って行ったのに驚いた。
全員喪服で出迎えてくれたことの方が驚いたけど、誕生日会嬉しかったな。
―――――
4月になってすぐサクラさんから、正式にNPO法人の代表理事になったと連絡があった。彼女は1週間前に帰国して団体の許認可の前からしている活動を手伝っていたそうだ。「そんなわけで東京にいるからこっちに来たら今度こそ天麩羅屋に行きましょう」と快活な感じに言ってくれた。今度は髪型の変化は見逃さないようにする。
「パウラさんとは向こうでお別れしてきたんですか?」
「ええ。聞きましたよ、アメリカで水族館デートしたって。ふふふ」
「ええ、まあ、はい。別れ際にフラれましたけど。あはは」
「えー?そんな感じじゃなかったけどなあ。あと、理由は聞かなかったけれど1,2年は忙しくなるかもって言ってましたよ」
「そうなんですか。彼女との会話はスペイン語ですか?」
「え?そうですよ。普段からスペイン語でしたから。どうかしましたか?」
「えーと、彼女が急に日本語が喋れなくなって。その代わりおれがスペイン語ができるようになって、って感じです」
「なにそれ…、¿Eso pasó debido a tus poderes sobrenaturales?(あなたの不思議な能力でそんなことになったんですか?)」
「Creo que es cierto. Solo me di cuenta de esto después de empezar a hablar español, pero el español de Sakura es increíblemente bueno.(そうだと思います。喋れるようになって初めて知りましたけど、サクラさんのスペイン語、めちゃくちゃ上手ですね)」
「ほんとだ、あんなにダメだったのに喋れるようになってる。そんなことがあるのね…」
ひとまずパウラさんの件はいい感じに説明できたと思う。
おれの時みたいに突然人が変わったようにはならず、サクラさんとはパウラさん本人の意思というか感覚で友達だったことを知った。
変わらない関係でよかったなと思うと同時に、サヨさんやおれは二人にとって部外者みたいな感じがして、ちょっと寂しい気持ちになった。