4月から職が変わった人がもう一人。ウチヤマ教授からメールが届いた。
教授になったことと、京都に来ることがあれば声を掛けてと書かれていた。
日本を発つ前にみんなに会いに行くのも悪くないなと思った。
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4月の半ば過ぎ、アズマ教授改めアズマさんから連絡が入る。
もうエルリカさんが見つかったのかと思ったがそうではなかった。
アサガオさんと一緒にこの街とおれの様子を見に来るということだった。
ホテルの手配はもう済ませており次の日曜に来るという話で、慌てて部屋と喫茶店の掃除を念入りにした。なんかアサガオさんに言われそうだと思ったから。
予定通りに日曜の昼過ぎ、駅前のバス停で二人を出迎えた。
「もっとなんにもないところかと思ったけれど、意外と建物があるのね」
この街のファーストインプレッションはそんな感じらしい。
まだチェックインまで時間があるので、ひとまず喫茶店に案内した。
ちゃんとお昼を食べてないが然程お腹は空いていないそうだった。
「ふーん、ここがあなたのお店なのね。とてもいい雰囲気ね」
店に入るとカウンター席を掠めながら窓際のテーブル席に座り、アサガオさんはそう言ってくれた。
この雰囲気を作っているのは店主さんがここを大事に使ってきた時間だ。
クスメギも雰囲気あると言っていたが、そういうのは伝わるんだなと思った。
「アメリカに行っているときに、ここの店主さんは癌で亡くなったんです。こっちを発つ前に譲ってもらう話はついてたんですけど、先月やっと開店できました」
「あら?あの絵はなにかしら?元からあったの?」
癌の話には触れず、柱に掛けた油絵に興味津々という顔で尋ねられる。
「おれが描きました。油絵なんてやったことなかったけど、この店に必要だと思って」
「そう。やっぱりあなたが描いた絵だったのね。ロマンチックねえ。うふふ」
「ああ、なるほど。あれはその彼女なんですね。あと店主さんも、でしょうか」
ただの黒い背景に点があるだけの絵なのにここまでわかるものなのか。
全くこの二人には敵う気がしない。さすがおれの母親と父親だ。
その後、おれの焼いたガレットを試食してもらった。
忖度なしのアサガオさんの評価は、なかなか辛辣だったけれど、見かねたアズマさんが作り方を教えてくれて、上手に焼けるようになった。特に生地が段違いに美味しくなった。あと生地に使う蕎麦粉は殻が少し入ったものを用意するように言われた。
食後には珈琲を淹れたのだが、これもアサガオさんは「機械の味って感じね」と厳しいことを言われ、アズマさんが淹れ直したものを飲んで満足していた。
前に買って残っていた豆で珈琲の淹れ方も教えてもらった。
フレンチローストの豆は手で挽いて別の価格で提供することにした。
ガレットを食べた頃からアサガオさんがどことなく落ち着かない様子だったのでトイレかなと思っていたのだけど、トイレには行かないしそうじゃないみたいだった。
「なにか気になることでもあるんですか?」
「ねえ、この街にわたしの娘がいるの?二人いると思うのだけど。あなた知らない?」
あれ?アヤママのことって言ってなかったんだっけ?
「呼んでみますか?」と尋ねると、「知り合いなの?」と訊かれ、おれの雇用主ですよと笑って答えた。
クスメギに連絡をして、いまアサガオさんとアズマさんが店に来てるから、アヤママを連れて来るように言うと「そういうの言えよ!すぐ行くから!」と言われた。
アサガオさんに「すぐ来てくれるみたい」と言うと「あら、社長を呼びつけるなんて横柄な部下ね。うふふ」と笑っていた。遠回しに呼べって言ったのあんたじゃん。
ほどなくしてスキール音が聞こえるぐらいの勢いでビルの下に車が着いて、クスメギとアヤママが店に来た。「お久しぶりです、またお会いできて嬉しいです」と奴が挨拶するとアサガオさんは「あなた、わたしの娘に手を出すなんて許し難い男ね。うふふ」と冗談にならない冗談を言って奴を凍り付かせていた。
「わたしの娘」と言われたアヤママはなにかに気が付いているような様子で茫然とアサガオさんを見ていた。そして彼女と目が合った瞬間に「あっ」という顔をした。
「はじめまして、アヤさん。わかるかしら?わたしが遠い遠いおばあさんだってこと」
「はい。感じます。どう言えばわかりませんけれど、あなたと繋がっていることがわかります。あなたを介して母とも同じ繋がりを感じます。これって一体…」
「そうね、1時間ちょうだい。ちょっと駆け足になるけど説明するわ。申し訳ないんだけど殿方は席を外してくださるかしら?」
アサガオさんに退出を促されて3人でおれの部屋に上がる。
ひとまずアズマさんにおれやクスメギの近況を話す。まずはおれの話から。
「では、能力者のお嬢さんだけでなく、一般の方にもあなたの出自や元の世界に戻ることを話したのですね」
「はい。話さない方がよかったですか?」
「いえいえ。それはあなたが決めることです。話したということはあなたがそれだけ信頼している証拠でしょう。よかったですねそういう人たちがいて」
アズマさんは相変わらずジイジの笑顔でおれの境遇をよかったと言ってくれた。