結ぶと解く   作:ながずぼん

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第172話 儀式と記憶

 おれの話が済んだら今度はクスメギの話になる。

 きょうのアズマさんはクスメギに対して一歩踏み込んでいる気がする。

 

「それでクスメギさんは、あのお嬢さんに、その、覗かれたことがありますか?」

 

「いえ。見ていいって言っても頑なに見ないですね。こいつが彼女に『なんでも言え、アサガオさんはそうしてる』って吹き込んでからすごく会話が増えました。だから見なくてもいいそうです」

 

「ははは。確かに彼女は思ったことを口にしてくれますから、こちらが変に気を回さなくても済むことは多いですね。ですがそれでもやっぱり大事なことを言わない時もありますから、その時はあなたが水を向けてあげてください」

 

 なにかこう、二人が女王に仕える執事の先輩と後輩のような関係に見えてきた。

 

「アズマさんはアサガオさんから一度も覗かれたことがないのですか?」

 

「いえ。初めて彼女の家に行ったときに見られているはずです。そうでなければ彼女の家に招かれるなんてことはないでしょうから。そういう意味ではクスメギさん、あなたも一度覗かれた方が良いと思いますよ。きっとお互い理解が深まると思います」

 

「そういうものなんですか。まあ、機会があれば覗いてもらいます。疚しいことはなにもないですからね」

 

 クスメギが言ったその機会はすぐに訪れる。

 アサガオさんがおれの部屋に来て「クスメギさん、あなたアヤちゃんに全部を見られる覚悟はあるかしら?」と訊ねた。

 

「は、はい。不安があるなら覗けばいいと言っていますし、疚しいことは一つもありませんから」

 

「そう?過去に愛した女をどれくらいどんなふうに愛していたのかを知られても?」

 

「ええ。その経験があっていま彼女とどう向き合えばいいのか知ることができていますから。それも否定しようのない俺の一部ですし」

 

「あら?どっかで聞いたようなセリフね。あなたたち似ているのかしら。うふふ」

 

 そう言ってアサガオさんはおれを見て笑った。まあ、似ているのかもしれない。

 どんな境遇になっても自分は自分をやっていくだけ、あいつもそんな感じだ。

 

「じゃあ、下に行ってアヤちゃんとお話してきなさい。彼女が待ってるわ」

 

 そう言われたクスメギは一礼をして緊張した面持ちで部屋を出て行った。

 

「それで、なにをどうしたのか説明する気はあるんですか?」

 

「やあね、わたしそんなに秘密主義じゃなくってよ?アヤちゃんの力の使い方が限定的だったからもうちょっと広範囲に使えるように教えたのよ」

 

「おれでもわかるようにお願いします」催促しておいてわからないのでは意味がないので平易に説明してくれるよう頭を下げてお願いした。

 

 アサガオさんは、アヤママは人の記憶や感情のうち直近のものしか見れておらず、現在なにを考えているかを見ていたそうだ。

 彼女が店でお客さんに使っていたと聞けばそれで充分なんだが、もっと深くその人そのものを理解しようとするなら、別の部分を見る必要があるそうだ。

 直近の思考や感情は前頭前野の活動電位のパターンということになるが、過去の記憶や感情というのは神経細胞ネットワークを全体的に見る必要があるとのこと。

 

 おれの場合は自動防衛システムが働いてしまうので覗かれる側の感覚が全くわからないのだけど、なんか見られてるなっていう感覚はあるのだろうか。

 アサガオさんはアドラさんの頭の中を覗いていたようだけど、特に彼女にリアクションはなかったから気付かないものなのだろうか。

 

「どっちも結ぶ素粒子を持ってたとしたら、覗いている側に覗かれている側が偽の記憶を見せる操作ってできるものですか?」

 

「どうかしらねえ。わたしでも覗かれていることには気付けないと思うから無理じゃないかしら。嘘を見せるのは無理でもプロテクトをかけることはできるかもしれないわね」

 

 アサガオさんでもできない操作を他の能力者ができるわけがない。

 ということはおれの頭の中って相当に特異体質な感じなんだなと思った。

 

「そういえば前にハナザワさんに出力が違いすぎるとおれの頭の中を覗いた人の記憶が真っ白になるかもって言われたんですけど、それってどういうことなんですか?」

 

「あなたを覗こうとするじゃない?するとあなたは無意識に防御するわけだけど、あなたの出力が大きいと解く素粒子を覗く側に逆流させて脳の中身を消してしまうのよ。記憶を覗くっていうのはシナプス同士にリンクを張るってことだから」

 

「出力がでかいから相打ちで余ったやつが結ばれて繋がった状態を逆流して覗こうとした側の記憶を解いちゃうってことですか。この解釈で合ってますか?」

 

「あら?一発で理解したわ。あなたらしくないわね。どういうことなのかしら…」

 

「いや、おれだってちょっとずつ成長してるんですよ。記憶に関しては出番があるかもしれないから興味あるし」

 

「一応言っておくけれど、あなた記憶の消去なんて手を出したらダメよ?下手をしたら頭の中を漂白しちゃうから。消えたものは自然に回復したりしないのだから」

 

 アサガオさんはすごく真面目な顔で、記憶の解除について忠告してきた。

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