結ぶと解く   作:ながずぼん

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第173話 意思と感情

 知り合いが女性の支援を始めたから、もしも消してしまいたいトラウマ持ちの人がいれば役に立てるのかと思っていた、と告げるとアサガオさんは驚いた顔をする。

 

「あなたなんの予備知識もなしにそれをやろうとしていたの?」

 

「まさか。相談があればアズマさんを通じてあなたに聞こうと思ってましたよ」

 

「じゃあ良かったけれど。そうね、おそらくトラウマにも恐怖とか罪悪感とか、精神的苦痛にもいろいろあるだろうから、その時になったら具体的な話を聞かせてちょうだい?もし連絡がつかなくても絶対に先走っちゃダメよ、約束してね」

 

「ええ、約束します。能力に酔ってるわけでも自慢したいわけでもないので」

 

「ですってタダヒトさん。あの力が宿ったのがこの人で本当によかったわ。ふふふ」

 

「そうですね。むしろ彼だからここまで開花したのかもしれませんね。あなたや彼のような人間に宿ったということになにか意思のようなものを感じます」

 

 脳のどこかにこびりついている恐怖の記憶をちゃちゃっと解けばいいと考えていたのが危険なことだったことを知れてよかった。周到な準備が必要なのは変わらない。能力の操作には慣れてきたけれど知識がないのだから当たり前の話だった。

 

 いつまでもクスメギたちからの連絡がないので二人を部屋に残して様子を見てくることにした。下の階に降りて喫茶店のドアのガラス越しに中を覗くと、テーブル席で二人がめっちゃチューしてる…。他所でやってくれよ…

 勢いよく店の中に突入してやろうかと思ったけれど、なぜか気が引けた。

 

 部屋に戻って二人は取り込み中だと告げると、もうチェックインできる時間になったから荷物を持って一旦ホテルの部屋に入るというので、とりあえずおれがアサガオさんの荷物を持ってそろりそろりと階段を降りていく。

 店を覗いたアサガオさんが嬉しそうに「あらあら、見かけによらず情熱的なのね彼」と小声で言っている。クスメギが燃料投下するとこっちにとばっちりが来るんだよ…

 案の定「あなたはどうなの?お店にいい子はいないの?」と言われたが、聞こえなかったフリをして下まで降りた。

 

 アサガオさんたちをホテルまで送ったとき、夕食は一緒に食べられるかと訊かれ是非にと言うと「この街の名物はなあに?」と言われ「焼肉です」と答えると、じゃあそれでとオーダーされたので、クスメギと行った焼肉屋に電話をして席を予約した。

 

 ホテルから部屋に戻る前にクスメギの携帯を鳴らす。慌てた様子の奴が出る。

 

「あのさ、君たちが幸せになるのは喜ばしいけど、頼むからおれの店でチョメんなよ。続きは家に帰ってからにしてくれ」

 

 一方的に言うだけ言って通話を切った。彼らが退散する時間を考慮してゆっくり歩いて帰った。でも店のあるビルの前には奴の車が停めてあった。どういうこと?

 喫茶店に入ると、テーブル席に二人並んでかしこまった格好で座っている。

 

「あ、あの、ハナちゃ…」

 

「大変申し訳ございませんでした!以後、このようなことのないように致しますので、今回の件に関しては何卒ご容赦のほどお願いいたします…」

 

 しどろもどろのアヤママと、テーブルに頭を擦り付けて大仰に謝罪するクスメギ。

 なんかおれが悪い奴みたいじゃん!謝って欲しいわけじゃないのに。

 どんだけチュッチュしてたのか知らんけど、とにかく着崩れてなくてよかった。

 

「まあいい、珈琲飲むか?機械のやつだけど」と二人にそう問うと「「いただきます」」とハモって言うのでイラっとした。

 

 珈琲を飲みながらアヤママにクスメギの頭を覗いて何がどうなったのかを聞いた。

 アサガオさんの指示に従って力を操作し、クスメギの過去の記憶とそれに結び付く感情を覗いた。それは覗くなんて気軽なものじゃなくて、奴の人生を追体験するようなものだったそうだ。

 両親の死と元妻との出会いと別れ、能力者に対する本心、彼の全てを知り流れ込んでくる彼の感情を受け止め、自分がいま彼の人生を捧げられどれほど愛されているのかを知ったら涙が止まらなくなったそうだ。

 

 そして瞳を見つめ合っているうちに自然と熱いベーゼを交わしてしまっていた。

 なーんだってよ。そこんとこどうでもいいわ!勝手にしろ!他所でな!

 その後も言い訳をしようとするサカリギを制し、アヤママがアサガオさんに何を言われたのかを尋ねる。最初にこの店に来たときの彼女の様子がおかしかったから。

 

「私にはわからなかったけれど、彼女が言うには『近い』らしいの、私が」

 

「近い?あれかな、アサガオさんて100年前から京都だったってことは最後の…違うか。最後の子はドイツだもんな。なにが近いんだろう。後で本人に聞いてみよう」

 

「あのね、最初はその力は怖い?って訊かれたのね。それで正直に、はいって答えたら、その力は『ギフト』なの、どんな存在から贈られたものかわからないけれど、怖がらないでいいのよって。怖がるべきはその力を誇示しようとする自分の弱い心だって」

 

 それでさっき「良かった」って言ってたのか。なるほどな。

 

「それでね、次に自分の力のことを知りたい?って訊かれて、またはいって言ったら、脳科学っていうのかしら、それを彼女に与えられたの。だからサトルさんの考えていることが覗けるだけじゃなくて、過去の記憶やその時の感情までわかるようになったの。ハナちゃんは知識はないけどイメージの力で補ってるって言ってたわ」

 

 確かに。トランス状態を覚えたからイメージさえできれば触れることができて解くことができる。あれにならずに解こうと思ったら物凄い知識が必要になるはずだ。

 

 一通り話を聞き終えて、晩飯は二人と焼肉なんだけど一緒に行きたい?と尋ねると、挨拶もできずに失礼したから是非にとメロメギに言われた。それはおまえがチューチューしてたからだろうが!と言いたかったが僻んでるみたいなのでやめた。

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