結ぶと解く   作:ながずぼん

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第177話 移籍と本気

 翌日、メイさんのアパートへ迎えに行くと、いつも通りだった。

 いつも通りに助手席に乗ってきていつも通りの世間話。いい炊飯器で炊いた米はうまいと言ってくれた。ノゾミさんを拾い、舎弟ギャル2名を拾う。ギャルたちはメイさんとネイルを見せ合い「ノゾミちゃんもやんなよー」とか言ってた。

 

 仕事中はほとんど彼女とは目が合わなかった。いつもこんな感じだったかなと思いつつあんまり意識するのも中学生みたいだなと気にしないようにした。

 なのにタケちゃんには「メイさんとなにかあったんですか?」と尋ねられた。

 「なにもないけど」とトボケたが「そっすかあ?」とにやにやされた。

 どうしてこういうことに敏感なの?芸能レポーター目指してるの?

 

 営業終了になり送りに向かおうとするとシズカさんに「姫様はお寿司喜んでた?」と訊かれ「ベロベロすぎて座ってすぐ寝ちゃいましたよ」と言うと「へえ、その割に機嫌がいいよね」と探るような目を向けられた。「食べた記憶でもあるんじゃないですか」と笑って誤魔化しそそくさと店を出る。あいつらなんなんだ、こわいこわい。

 

 ギャル2名を送り、ノゾミさんを降ろし、メイさんだけになる。さっきまで煩いぐらいの車内が急に静かになる。えーと、なにか話題を…とぐるぐる考えていると「コンビニ寄らなくていいよ」と言われる。そのままほぼ無言でマンションに着く。

 「おつかれさまでした」と声を掛けると彼女は前を向いたまま、

 「ハナちゃん、……… やっぱいい。おつかれさま」そう言って車を降りた。

 

 これ昨夜のこと絶対覚えてるやつじゃん!言い掛けて止めるの余計気になる!

 酔った勢いだから忘れてくれとでも言いたかったのだろうか。

 

―――――

 

 6月になり、アヤママの店の家賃が上がった。

 クスメギ曰く「しっかり準備できたから混乱はない」とのことだった。

 どちらの店も相変わらずな感じで、暇で暇でという日はなく忙しく過ごしている。

 メイさんは前に比べて距離がある気もするが、おれが近くに感じたかっただけかもしれないので、こんなもんだったのかなと思うようにしている。世間話はするし。

 

 昼の店は新しいもの好きなおばさんたちが1度来店して2度目はない感じ。リピートしたときには閉まっているパターンもあるのかもしれない。

 自分の昼用に開店前に一枚焼いてみて、こりゃ無理だなと思ったら店は開けない。

 アサガオさんはおれのガレットを条件が整えば100点だと言ってくれたが、自分で食ってみて良くて80点、アベレージなら70点な感じだった。

 

―――――

 

 6月末、開店前のミーティング時に、きょうでメイさんがアヤママの店に戻るとアオイさんから告げられる。え?と驚いたのはおれだけだった。おれだけが聞かされてなかったようだ。アオイさんはそれを無視して明日から新人バイトのコが入ると話を続けた。

 

 店が始まってもモヤモヤした気分のまま働いて、閉店を迎える。

 おれの態度が気に入らないのかと思い、帰り支度をするメイさんに訊こうとするとアオイさんに呼び止められる。

 

「ママから聞いたんですけど、その、ハナさんのお店?でお話できませんか?」

 

 人に聞かれたくない話があるのだろうか。送りから戻ったら連絡すると言って車を取ってきて店に戻ると、メイさんはシズカさんが送るから先に出たと白ギャルに言われた。

 そこまで避けられてるのかとドンヨリした気分で3人を送り、駐車場に着いたらアオイさんに連絡を入れて喫茶店に行く。すぐにアオイさんはやって来た。

 

「へえ、ここがハナさんのお店なんですね。すごく落ち着くいいお店ですね」

 

 カウンターのスツールに座り、店の中をきょろきょろと見回しながら彼女は言う。

 微笑んでそう言っているけど、腹の中に抱えているものは重そうに見える。

 注文も聞かず珈琲を出す。アオイさんは一口飲んで、ふぅーっと一息ついたら「きょうここへ来たのはメイちゃんのことなんです」と話始めた。

 

「ハナさん、メイちゃんとなにがあったのか正直に話してもらえませんか?」

 

 結構怖い顔で言われた。あの夜の出来事は店的には許容しかねるのだろうか。

 店側が容認したり指示があって色恋管理でもしていなければ黒服とキャストが深い仲になるのは許されないだろうけど、あれは「はずみ」みたいなものじゃないのか?

 だから正直にあの夜のことを全部話した。照れつつもチューしたことも言った。

 

「あのねハナさん。メイちゃん突然お店辞めたいって言ってきたんです。それでどうしてって訊ねたら、ハナさんと一緒にいられないって泣いちゃって。そこからは無理とかダメだからとしか言ってくれなくて。ママに相談してひとまず向こうの店に残ってもらうことにしたんです。落ち着いたら戻って来られるようにって」

 

「酔った勢いでやらかした相手と毎日顔合わせるのが耐えられないってこと?」

 

「もう!どこまでバカなんですか!メイちゃんはずっと前からハナさんのこと好きだったんですよ!だから辛いんじゃないですか…私、メイちゃんが急に捨てられたって思わないように、ハナさんは年末でいなくなるって教えたから、彼女はきっと想いを伝えたくて…言わないほうが良かったのかなあ…」

 

 その話を聞いて自分を誤魔化そうとしたけど、いろんなメイさんとのやり取りがフラッシュバックしてくる。思えば彼女がこっちの世界で一番長い時間一緒にいる人だったように思う。戻るって決めてなかったらもっと惹かれていたのかもしれない。

 

「それで、きょうはお願いに来たんです」

 

「うん。なにをすればいい?言ってくれればおれにできることならなんでもするよ」

 

「ハナさんには悪いと思ってますけど、何もしないでください」

 

 いまはお互いに時間が必要だろうから何もしないでくれと言われた。

 よそ者は黙ってろと言われたような気がして急に孤独になった気分だった。

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