結ぶと解く   作:ながずぼん

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第179話 父性と改心

 アヤママの話を聞き終わり対面のクスメギに目を向けると、あいつ泣きながら寝てやがった。

 むかつきを通り越して呆れた。めちゃくちゃすぎるだろ。こんな奴だったか?

 まったく…、と呆れるおれに気が付いてアヤママがあいつの代わりに謝って来る。

 

「ハナちゃんごめんなさい。サトルさんにはメイちゃんの昔の話をしてあったの。メイちゃんがハナちゃんから離れたがってるって聞いて、きっとハナちゃんは自分に非があると思っているだろうから、謝りついでに本人の口から別れを告げられたらメイちゃんが耐えられないだろうって。だからアオイちゃんに頼んでしばらく距離を置いてもらうって。それが裏目に出たって知って、このところずっとお酒の量が増えてて…」

 

 こいつバカなのか?それを全部おまえが言いに来いよ。間違ってねえじゃん。

 ていうか、おれがこいつに何か知らない?って聞けばよかったんだといま気付いた。おれたちには思考を読む能力がないのに。

 

「こいつ最近本当に頭がお花畑になっちまったと思ったけど、おれもたいがいでした。勝手にみんなと距離取ってたのはおれの方でしたね。心配かけてすみません」

 

「メイちゃんがあなたのこと好きなのは随分前から知っていたけれど引き離すことはできなくて。アオイちゃんの店に移りたいって言われたときもダメって言いたかったのだけれど、アオイちゃんにこれはメイちゃんの恋だからって言われて」

 

 なんだかんだみんなからすごく大切にされているんだなメイさん。

 

「いまはメイさん落ち着いているんですか?」

 

「ええ。ちょっと元気がないときもあるけど、がんばって前を向こうとしているわ」

 

 ここで楽しそうに笑っているメイさんを想像したら、なんだかすごく安心した。

 まるで娘の幸せを願う父親のような気分だった。そういや最初の頃から言われてたっけ。

 

「どうしたの?急に笑ったりして」

 

「いや、まだ店で働き始めたばっかりの頃にメイさん送っていったら、わたしのお父さんになってって言われたことがあって。いま、メイさんがみんなに大事にされてるんだなって嬉しく思ったら、それって父親みたいな気分だなって」

 

「ハナちゃんの距離感って確かに父性を感じるわよね。だからオンナのコたちに人気なのかしら?うふふ」

 

 またそういう。モテない奴にそういうこと言うと勘違い野郎になるからやめて。

 

「話聞けてよかったです。いろいろ腑に落ちたし、なによりいい歳こいて仲間外れにされたって拗ねてた自分がやばいです。アヤさん、ありがとう」

 

「ううん。この1ケ月ぐらいみんなどうしたらいいかわからなくなって、このまえなんてアオイちゃんが、私ハナさんに嫌われたかもーって、ステージのお店もう描いてくれないのかなって泣きながら相談に来たのよ。ちゃんとお話すれば済むのにしてこなかったからね。私も大事なお話をしていなくてごめんなさい」

 

「アオイさんにも明日ごめんて言っておきます。あと、心配しなくていいよって」

 

「うふふ。それじゃあ前から思ってたことをお願いしようかしら。私ね、お仕事が終わったらハナちゃんのお店でお喋りがしたいの。きっとサトルさんもアオイちゃんも、ハナちゃんに話を聞いてもらいたいと思ってるはずよ。毎日じゃなくてもいいから、ね?」

 

 送迎でメイさんがいないことを気遣ってくれているのだろうか。それとも何か別の企みがあるのか。売上のほとんどない喫茶店の収入が生まれるのはありがたいが。

 

「店に来るのはいいけど、おれそんなに聞き上手じゃないですよ。すぐ顔に出るし」

 

「私ね、ハナちゃんがいなくなるって聞いたときから思ってたの。墓場まで持っていく秘密をこの人に預けちゃえばいいんだって。うふふ」

 

「えええ?おれ教会の小さい箱の神父さんじゃないんですよ?秘密抱えてるのがストレスになったらすぐ洩らすと思いますよ?」

 

「あら?私のことサトルさんにしか言わなかったじゃない?そもそも自分のことだって秘密だらけだし。大丈夫ハナちゃんの口の堅さは私が知ってるから。うふふ」

 

 店終わりに迷える子羊が集う喫茶店を開くことになったが、概ね愚痴なんだろう。

 

―――――

 

 翌日、送迎をいつも通りこなして店が開く前にアオイさんに謝った。

 「よそ者は黙ってろって言われたような気分になって」と言うと「ハナさんがよそ者だなんて一度も思ったことないですよ!」とマジギレされてもう一度謝った。

 その後、営業中にオンナのコみんなに「態度悪くてごめんなさい」と謝った。

 タケちゃんに「ハナさん機嫌悪いとまじ反社ですからね。お客さんにやばい店だと思われますから気をつけて下さいね!」と怒られた。

 

 メイさんがいなくなって送迎で一番遠いのは新人のユヅキさんになっていた。

 むしゃくしゃしていたので彼女と喋った記憶がない。家はナビに入っているけど。

 きっとコンビニに寄りたくても言い出せなかったのだろう、あいつの車みたいに。

 

 「あの」と声を掛けると「は、はいっ!」とびっくりした様子で返事が来る。

 

「あはは、いや、コンビニとか寄りたかったら遠慮しないで言ってね」

 

「えっ、いいんですか?じゃ、じゃあ寄りたいです。明日の朝ごはん買いたいです」

 

 どこでもいいというので通りがかりのコンビニに寄る。彼女はタタターとコンビニへ入って行き、またタタターと車へ戻って来て「お待たせしました」と恐縮している。自分がどれだけ態度が悪かったのかと苦笑いが出る。

 

 新しいドライバーさんには気の利くおじさんが入るといいなと思った。

 

 

第九章【浸透編】了

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