結ぶと解く   作:ながずぼん

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第182話 限界と対処

 おれの話が終わるとクスメギからハナザワさんに近況報告があった。

 アサガオさんからアヤさんに能力の使い方が授けられたこと、DNAが近いと言われたことを聞いたハナザワさんは「おそらく彼女たちが接触したことで繋がりが強化されたようなところもあるのでしょうね」と言っていた。

 

「君がアヤさんに付いていてもらわなければ知り得ない情報だったね。残ってくれて感謝するよ。引き続き彼女に寄り添ってあげてください」

 

「いえ、俺はただ初めて会ったときから彼女に惹かれていただけで。改めて我儘を聞いてくださってありがとうございます」

 

 駆け落ちしたお花畑先輩と言っていたハヤセ君が鼻を啜ってうるうるしている。

 よかったな、ただのお花畑先輩じゃなく仕事のできるお花畑先輩に昇格して。

 だいたいの報告が済んだところでクスメギは涙ぐむハヤセ君に資料の見方を教えるために部屋から出て行った。

 

「体調の方はどうですか?頭痛や鼻血など、見た感じ問題なさそうですけど」

 

「そうですね。そもそも能力を使う場面もないのでそっちの心配は忘れてました。あ、そういえば辛い記憶、例えばPTSDみたいなのを解きたいってなった場合は脳内のイメージをしっかりするのは当然として、何に注意すべきですか?」

 

「なにかそういう予定でもあるのですか?」

 

「予定があるわけじゃないんですけど、頼られるかもしれなくて」

 

 ハナザワさんはアサガオさんと同じような説明をしてくれた。精神障害の種類によって触る部位が違うのだと。さらに、記憶をどうこうするというより負の感情との結びつきの回路を断ち切るような作業になるそうだ。それでトラウマ解消になると。

 

「ただ、回路を解いただけでは抜け殻のような状態になりますので、新しく感情と結びつけるためにセラピーが必要になるでしょう。私は専門外ですから、具体的な方法は依頼をしてこられる方を通じて専門家と相談してください。ある程度の期間、継続的なリハビリが必要になると思いますよ」

 

 おれの能力の限界を明確に示してくれたおかげで、生半可な覚悟で請け負っちゃいけないことがよくわかった。おれが操作してサクラさんに任せるだけでも足らない。

 普通に治療するのと同じように専門家の診立てが必要になるということだった。

 

「お話聞けてよかったです。ありがとうございます」

 

「結ぶ素粒子で記憶の植え付けができればそれだけなんですけどね。私はそれができないのでお力になれず申し訳ない」

 

 いかにアサガオさんの能力がとんでもないことなのかよくわかった。自分には通用しないからって彼女をナメてたわけじゃないけど、本当に物凄い能力なんだなって改めて思う。そりゃそうだその気になれば60億人の教祖にだってなれるんだから。

 

 話もだいたい終わり、ハナザワさんと一緒に部屋を出てクスメギに声をかける。

 あいつは夕方までハヤセくんの面倒を見るそうで先に女性陣と合流するように言われる。改めてハナザワさんにお礼を言って事務所を出ようとすると呼び止められた。

 

「これ、お姉さま方に。きっと喜ばれると思いますよ」とハナザワさんが紅白のグレンチェック柄の紙袋に入ったお土産をくれた。資生堂パーラーのロゴがある。

「手土産までありがとうございます」と礼を言って事務所を出る。

 

 事務所を出たところでアオイさんに連絡すると表参道のあたりにいるという。

 ひとまず駅に着いたら電話すると言って通話を終える。それにしても8月の東京はクソ暑いな…、一瞬で汗が噴き出てくる。

 

 霞が関駅から丸ノ内線に乗って赤坂見附へ。駅に着いたら反対側のホームの銀座線に乗り換える。

 

 渋谷行の銀座線がホームに入ってくる。ドアが開いて電車に乗り込むとドアの隣のポケットになっているところが空いていたのでそこへ。

 地下鉄が動き始めるとガラスに映っている反対側のドアの前に立っていた女性がストンとしゃがみ込んだ。様子がおかしいと思い振り向くと肩で息をしている。

 なんかやばくないか?と思っていると近くに座っていたアラサーぐらいのスーツの男性が彼女に駆け寄り声をかけている。「ここにいます」と言っている。

 

 車内の乗客がみんなで様子を見守っていると彼が「どなたか袋のようなものをお持ちじゃないでしょうか」と声を掛けた。ここにあるよね、と思い、「これでいいですか?」とさっき貰った紙袋を差し出すと「ありがとうございます!」と彼は受け取り、しゃがんでいる彼女の顔の前に袋を当てた。ああ、あれは過呼吸だったのか。

 

 電車から降ろせないのかいくつか駅を通過する間ずっと「大丈夫、大丈夫」と声を掛けながら背中をさすっている。手慣れたもんだなと眺めていると、彼女が落ち着くのと同時に表参道駅に到着する。

 

 黄色い箱のチーズケーキ?を持ったまま歩いてたら、この暑さで腐っちゃうだろうなと思い「これはお兄さんが食べるために貰ったみたい」と言って処置をしてた彼の傍に箱を置く。彼は何かを言い掛けたがもう発車しそうだったので、急いで電車を降りた。

 アヤさんやアオイさんにはチーズケーキの件は黙っておけばいいだろう。

 

 表参道駅から地上に出てアオイさんに連絡すると、いまアヤさんとケーキ屋さんでお茶をし終わって出るところだという。やっぱりあのチーズケーキはあのお兄さんの元へ行く運命だったのだなと思った。

 待ち合わせしてもよくわからないからとケーキ屋まで来るよう言われたので地図アプリで調べてそこまで歩いていく。

 

 合流すると2人ともケーキおいしかったと乙女な顔で言っていた。

 あ、これもしかして悔しがらないといけない場面かなと思い「おれも食べたかったなー」と言うと「じゃあおかわりする?」と相談し始めたので「嘘です、お昼にデザート食べたし」と言うと残念そうな顔をされた。

 だったら中で待ってりゃよかったのに。なんで出て来ちゃったんだ。

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