ケーキ屋を後にしてインテリア雑貨の店に行き、いろいろと買い漁っているのを後ろから付いて回り、テンプレ通りに荷物持ちになる。
アオイさんは少しだけだったけど、アヤさんはやたら小物を買い込んでいた。
「雑貨が好きなんですか?その割に普通のものばっかり買ってたみたいだけど」
「ううん。来月にお引越しするから、細々したものは新しくしようと思って」
「へえ、引っ越すんですか…って、もしかして二人暮らしになるの?」
「うん。お店も会社になるし、これを機に全部一緒にしようって相談して」
アヤさんは少し照れた様子で新しい生活が始まると教えてくれた。
なんだよあのバカ教えろよ。おれにはなんでも報告しろとか言うくせになんでこんな大事なこと言わねえんだよ。後で説教してやる。
「そのことアオイさんは知ってたの?」と尋ねると「いえ、いま初めて知りました。でもなんか、あれ?私、感動しちゃって…」と言って言葉を震わせていると、アヤさんがアオイさんの髪を撫でながら「ありがとう、アオイちゃん」と言ってうるうるしている。
もう一方の薄い本勢が捗る場面なのでは?と思いつつ所在なく立っていた。
そうこうしているとクスメギから連絡が入り、いまから近くまで車で来てくれるというので頃合いを見計らって移動して路駐するクスメギと合流した。
持っていた荷物をさっさとトランクに載せて後部座席に座る。
晩飯のときに問い詰めることにして、それまでは知らなかった顔で過ごすことに。
車はノロノロと骨董通りを進み、高樹町の交差点で六本木通りに入る。首都高渋谷線の下を東へ進み溜池の交差点で、ぐるーんと右折して環二通りへ。虎ノ門のあたりは渋滞していたが、ほどなく流れ始める。
おれがいろいろ予定を聞かないのがいけないのだろうけど、アオイさんはこの後どうなるのか知っているらしく、アヤさんに「楽しみー」と嬉しそうに言っている。
汐先橋の交差点で鋭角に右折し海岸通りに入り、浜離宮の雑木林を左手に見ながら進み、壁面緑化のビルの先を左に入る。竹芝駅からゆりかもめの下を少し走って地下の駐車場に入る。荷物を持って降りるように言われたってことはここに泊まるのか?
すげえ高そうなホテルな気がするけど…どうせ寝るだけなのに。
みんなに続いてフロントへ行き、チェックインを済ませて部屋のキーを貰う。
晩飯もここで食べるそうだ。ラフな格好だと入れてもらえないからジャケットを着てくるように言われる。そもそもジャケット単品でなんて持ってないからアドラさんたちに貰った堂島スーツをネクタイと一緒に持って来てよかった。
あと、アオイさんをエスコートして来いって言われたとき「待ち合わせて一緒に行けばいいんだろ?」と言ったら「ハナちゃんらしいわね」とアヤさんに言われた。
エレベーターで宿泊フロアに上がる。おれとアオイさんは奴らの部屋より下の階なので先に降りる。アオイさんの部屋は隣同士だったので部屋に入る前に「19時から晩飯って言ってたけど10分前にここで待っていればいい?」と言うと「はい。お願いします」と返事があった。「じゃ、後で」と言って部屋に入る。
窓から墨田川の向こうに立ちならぶ銀座あたりのビルやスカイツリーが見える。
ボルチモアのホテルも「映える」景色だったけれど、ここもそんな感じ。
外を歩いて身体も頭もいっぱい汗をかいたからシャワーを浴びることにする。高級ホテルなだけあってシャンプーとか高いやつの匂いがした。
シャワーから出てバスタオルを腰に巻いて涼んでいるうちに寝てしまったようだ。
目を開けると窓の向こうが薄暗くなっているし身体も冷たくなっている。
と、ドアがコンコンとノックされているのに気付く。「アオイさん?」と声を掛けると「はい、そろそろ時間ですよ」とドア越しに聞こえ「ちょっと待って!」と言って急いでパンツだけ履く。廊下で待たせるのも悪いと思ってドアを開けると「キャッ」と短い悲鳴が聞こえた。アドラさんは平気だったけど彼女は違ったみたいだ。
「ごめん。寝ちゃってて。すぐ着替えるから座ってて」と言ってスーツケースから着るものを引っ張り出してスーツに着替える。ネクタイを締めたら髪を縛って完成。
一緒に部屋を出てエレベーターに乗り、6階の夕食会場へ降りていく。
エレベーターの中で「汚いもの見せてごめんね」と謝ると「ちょっとびっくりしました」と笑って許してくれた。6階に着いてエレベーターを降りてそのまま進みそうになったところで袖を引っ張られた。え?と立ち止まるとアオイさんがスッと腕を組んできた。あ、そういうこと?これが作法なの?
レストランの入り口でクスメギとアヤさんが待っていた。普通ならドレスアップしている姿に「へえ!」とかなるんだろうけど、いつも黒服でドレスだから、代わり映えしねえなと可笑しかった。クスメギが受付の人に名前を告げると窓際の席へ案内される。
レインボーブリッジが見えるいい席だった。まだちょっと明るくて夜景とまではいかないけれど、食ってる間にキラキラしてきそうな感じはあった。
かっこつけた感じの食事が運ばれてくると、ボルチモアのレストランのことを思い出した。あのときもみんな着飾ってわいわい楽しく食事をしたなって。このスーツもあの時と同じ。何か大切な瞬間はこうして背伸びをした食事をするのがいいのかも。
その割にどこそこの店はあーだこーだと色気のない会話に終始している。
「そんなことより、おまえなにか報告があるんじゃねえのか?」
「慌てるな、まずは食事を愉しめよ。この後出てくる肉が凄いいい肉なんだから」
奴の予告通りステーキが出てきたのだが、これがまじでめっちゃ柔らかくて牛の尻にかじりついているような美味さだった。肉は偉大だ。報告とかどうでもいい。
デザートと食後の珈琲が運ばれてくると、クスメギが居住まいを正して口を開く。
「もうバレちゃったみたいだけど、来月からアヤさんと一緒に住むことにした。前に言っていた通り店も法人化するし、これまで通り俺たちを支えて欲しい」
クスメギとアヤさんが揃っておれたちに頭を下げた。そんな今更畏まられても。