結ぶと解く   作:ながずぼん

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第187話 財宝と保管

 草津田上から名神に乗って、瀬田ジャンクションで京滋バイパスに入る。

 昨日アメリカでの逃亡の話をしたせいか、滋賀と京都の県境のあたりがアメリカの林の道みたいに感じた。

 大山崎の手前でぐるんぐるんループしてインターを出る。国道を西に走って駅前を右折して線路沿いのコインパーキングに車を停める。

 後部座席のスーツケースの中にリュックの中身を開けて、空のリュックを背負って線路を渡る。住宅地の坂をぐいぐい上り、たしかこっちだったようなと不安を抱えつつ登山道を上っていくと、藪へ入るところを通り過ぎてしまったようで、全く見たことのない景色に気付いて少し戻る。ここだったはずと思った場所から藪に入る。

 息が切れペットボトルの水も調整しないとなくなりそうだった。もう1本持ってくればよかった。そう思いながら坂を一歩一歩上っていく。

 

 いつまで経っても森のドームが出てこないので、こんなに歩いたかなと不安になりながら森の中を進む。

 それでもしばらく行くと、ようやく見覚えのある森のドームに出た。

 

 庭は草が生い茂り、木のテーブルなんかは朽ちていた。小さな家もボロボロで、こんなに短期間にここまで朽ちるか?というほど見る影もなかった。

 もしかしたらアサガオさんの能力で維持していたのかもしれない。

 そもそも玄関のドアは開くのか?と思いつつドアノブに手を掛けるギイイと嫌な音を立てて扉は開いた。中もすっかりボロボロで、ところどころ草が生えている。

 靴を脱ぐ必要はないと思い土足のまま家の中へ。

 

 おれが泊めてもらっていた部屋へ入り、床下ってどこなんだろうと床板を踵で叩きながら部屋の中を歩き回ったが、空洞があるような音は聞こえなかった。

 もっと詳しく聞けばよかったと思いつつ、ベッドを移動させてそこの床板を踏んでみるとやけに軽い音がする場所があった。とはいえ板は一枚で蓋になっている様子はない。

 バールのようなもの、を持ってくれば良かった。

 

 トランス状態になって木の繊維を破壊すれば、とか思ったけれど、ひとまず力任せに踏み抜いてみることにした。思い切り軽い音のする場所を踏み抜くとバキィと折れる音がして板に穴が開いた。スマホのライトで穴の中を照らすと中に水色の手提げ金庫があった。犯人はヤス!犯人はヤス!そんな嬉しさがあった。

 

 割れた蓋の残りをがんがん踏んで穴を広げ、腕を突っ込んで取っ手に手を掛ける。

 持ち上げようとしたらけっこう重い。持てない重さじゃないけど片手だと辛い。

 でも両手は入らないからがんばって引き上げる。取っ手が壊れませんように!

 

 どうにか金庫を持ち上げたとき、ザラザラッというような音がした。

 見ていいと言われていたので一応中身を確認してみる。

 つまみを横にずらすと鍵は掛かってなかったようでバネ式の丁番が勢いよく蓋を跳ね上げる。中にはぎっしり宝石が詰まっていた。8割がたダイヤモンドだと思う。

 5mmあるかないかの透明な粒が砂のように敷き詰められている。残りは赤と緑と青い石だからルビーとエメラルドとサファイアだろうか。

 これ総額でいったい幾らになるんだ?きっと1億2億じゃ済まない額なんだろう。

 

 こいつを何粒か元の世界に持って帰るだけで暮らしは随分楽になるんだろうな。

 いやまて、半分くれるって言ってたし楽になるどころじゃねえな。

 超大金持ちになって豪遊する夢想を繰り広げようと思ったのだけど、1コマも思い浮かばなかった。別にクルーザーとかいらないし、豪邸も自家用ジェットもいらない。いま欲しいものはどこにも売ってない。

 そもそもこんな裸のダイヤを売りに行ったら超怪しまれそうだし。

 

 蓋を閉めてリュックに入れてみる。10kgの米袋といい勝負な重さが肩にかかる。

 いや、なんか不安だからリュックを抱えるように肩紐を通す。下を両手で支えながらボロボロの小屋を出る。森のドームの出口のあたりで、メキメキっと音がして小屋が崩れてしまった。ここまで把握していておれを寄越したのだろうか。

 あの人ならそれもあるかもな、と思いながら思い出の小屋の跡に合掌した。

 

 藪の道を戻ったつもりだったのだけど、登山道に出た場所は分け入った場所と違うところだった。もっと住宅地に近いところだったので、すぐに住宅地に出て坂を下って線路まで出る。誰かに見られたら嫌だなと思いながら線路を渡り、心臓をばくばくさせながら駐車料金を払って急いで車を発進させた。

 

―――――

 

 部屋まで金庫を抱えて戻って来たのはいいが、こいつをアサガオさんが来るまで保管しなければならない。空き巣のような泥棒のことはよく知らないけれど、彼らは素早く事を成さないといけないはずなので、見当がついていても辿り着くのが面倒な場所がいいのだろうな思った。

 この部屋のそんな場所は()()しか思いつかなかった。ほぼ毎日確認できるし。

 

 金庫を預かっている連絡をしようと師匠の携帯に掛けても「お掛けになった電話は電波が届かない場所にあるか~」と合成音声に言われて繋がらなかった。

 

―――――

 

 火曜日に送迎に出て4人を拾う。最初に拾ったユヅキさんに「昨日は誰が送迎してくれたの?」と尋ねると「シズカさんが回ってくれました」と言う。タケちゃんじゃないんだ、なにか送迎に出られない理由でもあったのかな。

 店に着いてタケちゃんに事情を聞くと、彼は車を持ってなくてバイクで通勤しているそうだ。雨の日とか不便じゃないのか尋ねると、元々車はあったのだけど故障続きに嫌気がさして売り払ってバイクにしたそうだ。

 「どんなやつ?」と訊くと「でかいアメ車です」というので納得した。

 

 その日の送り、ギャルたちがどうしてもフライドポテトが食べたいというのでマックに寄ってドライブスルーでポテトを買う。金を払って商品を受け取り窓を閉めようとすると「キュゥゥゥゥ…バキッ」という断末魔が聞こえ運転席の窓がお亡くなりになった。

 幸い、外は暑くもなく寒くもなかったのでオンナのコたちから苦情は出なかったが、その代わり全力で憐みの言葉を掛けられた。

 高速道路を走っているときじゃなくて本当に良かった。がんばったんだなお前。

 

 雨も降りそうになかったのでその日はそのまま駐車場に停めて、翌日車屋さんに入庫して修理を依頼した。ワイヤーの巻き取り機の部品を取り寄せて交換になるので、1週間みてくれと言われた。修理代はだいたい元の世界で払ったのと同じ金額だった。心の準備があったので心のダメージはほぼない。財布は痛いけど。

 代車に軽のワゴン車を貸してくれた。走行距離はすごいけど年式は新しかった。

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