送迎の前にアオイさんに連絡する。車を修理に出したから5人乗りが4人乗りになったというと、調整してくれるというので返事を待つ。
車が戻って来るまでノゾミさんはシズカさんが拾って送ってくれることになった。
開店前にシズカさんに「おれのポンコツがご迷惑をおかけしてすみません」と声を掛けると「わたしの元旦那も壊れる車ばっかり乗って苦労させられた」と割とまじのトーンで言われ返す言葉もなかった。
って、あれ?タケちゃんが車売ったのってもしや…
「その話、タケちゃんは知っているんですか?」と尋ねると「え?あ、ああ、言ったかもしれないね」とトボケられた。おやおやおや?
その日は送迎終わりにアヤママとクスメギが店に来るというので、深夜喫茶を開業したのだが、単に車が壊れたことを聞きつけたクスメギが厭味を言いに来ただけだった。心の準備があったからノーダメージだけどな。
「そういうお前のポンコツはどうなってんの?もしかして放置車両なわけ?」
「は?あれは然るべき所に預かってもらってて、然るべき時に復活させるんだよ」
「だそうですよ奥さん。旦那がロクでもない趣味を持つと苦労しますね」
「私はサトルさんの、あの小さい車に乗ったことがないから、いつかあれに乗って2人でのんびり旅をしてみたいなって思うわ。かわいいじゃないあの水色の車」
帰れ、帰れ帰れ。おまえらもう家帰ってチュッチュして寝ろ。
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ミーのカーが復活。そもそもあんなの故障のうちに入らない。走って曲がって止まれば壊れていないと言えるわけで、窓なんて飾りです、偉い人にはわからんのですよ。
アオイさんに車が戻った連絡をしてシズカさんにその旨を伝えてもらう。
送迎はいつもの4人に戻り「こんなに広かったっけ?」とギャルが感動していた。
また開店前にシズカさんに「ノゾミさんの送迎ありがとうございました」と声を掛けると「あれはあれで話ができて楽しかったから気にしないで」と言ってくれた。
ついでに「シズカさんてバイクで旅がしたいとか思います?」とぶっこんでみると「え?なんで?」と睨まれたのでやべえと思って「いや、おれバイクの免許ないから憧れみたいなところあって」と誤魔化すと「ふうん、男の子なんですね」と言われ、怒られるのを回避できた。タケちゃんは悩ませるところまで漕ぎつけているっぽかった。
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10月に入り、いよいよこっちの世界の暮らしも残り3カ月ぐらいになった。
特に心残りになっているようなことはないが、ぼちぼちキャバレーのような店の図面に手を付けておいた方が良さそうだと思ってアヤさんに連絡をする。
ビルのオーナーに頼んで鍵を借りてくれたので、アヤさん、クスメギ、アオイさんの4人で店を見に行く。が、電気が止められているので真っ暗でなにも見えない。
「店に懐中電灯があったはず」とクスメギが取りに行ってくれて、なんとなくではあるが、店の全容を把握することができた。
ほとんどアヤさんの店と同じ広さで、水廻りの位置もだいたい同じだった。
ただ、動線的に変な位置にカウンターがあって、そこにステージを持ってくるといろいろ使いやすそうだけど、給排水の取り回しに工事費が嵩みそうで悩むところ。
凡そスケールで測って、スマホのライトでノートを照らしながら形を描いていく。そこに給排水の位置を描き込んだら、この時点でここでやれることはなくなった。
4人で喫茶店に移動してアオイさんからヒアリングをする。
やっぱり「飲むぞ!って来て酔っぱらって帰る店」がいいとのこと。
ダンサーはどうするのか尋ねると、踊りたいオンナのコがいれば踊らせてあげたいけど、基本的には週一でもいいから専門のダンサーのショーがいいらしい。
その意見にはアヤさんもクスメギも賛成していた。学芸会レベルでは金は取れないとのこと。
「最後に、店の名前、なにかイメージあります?」
「はい。それだけはあって『シルエット』がいいなと思ってます」
舞台の上で演者が影だけになって踊っている場面の映像が浮かぶ。
広さ的に袖を両側には作れないだろうから…なんとなく店内の配置が決まった気がする。だからあそこにカウンターだったのかと腑に落ちる。前任者の苦心を感じた。
「寸法とかは正確じゃないかもしれないけど、ほぼほぼの図面は描けると思う。11月の半ばまでには仕上げるようにしますね」
「ハナちゃん、デザイン料はいくらぐらい用意すればいいかしら?」
「いらないですよ。こっちの金持って帰るつもりないから。その分は新生アオイママのワガママ代に充てて内装を贅沢しちゃってください」
勤めて明るく振舞ってはいるけれど自分で言ってておれも胃が重くなるのを感じている。あんまり帰る帰る言いたくないな…なにか逃げてるみたいだし。
「それはダメだろ。あんたの描く絵は趣味なのか?だったら無料で貰うけど、責任のある仕事として描くなら金は受け取ってくれ。いい加減なことをするとか手を抜くだなんて思っちゃいない。ただ、俺たちが箱に値段ていうか価値を付けたいんだよ」
クスメギの言うことはごもっともだった。遊び半分なら無料でもいいけど、図面を見れば見積りも工事もできるものを出すのであれば、その責任を負うために金は受け取るべきだと思った。例えいなくなるとしても、こっちの世界にいるうちは最後の最後まで真っ当に生きろと言われているような気がした。
「そうだな。おれも遊び半分でやるわけじゃないから、ちゃんと報酬を貰うようすにるよ。デザイン料の見積書作ってアヤさんに持っていくようにします」
アヤさんは納得した表情で「よろしくね」と改めてお願いしてくれた。