結ぶと解く   作:ながずぼん

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第18話 雇用と経過

 昼食の後、採血と胸部のレントゲン撮影をして検査は終了した。

 再び護衛に挟まれるように大使館の車の後部座席に乗り込み大使館へ戻る。

 途中、妙な道をわざわざ通ったりしたので大使館に着いてからヨシオカさんに尋ねると、やっぱり尾行されていたらしい。行き先は決まっているのに。

 まだ諦めていない国か組織があるのか、めんどくさいなあもう。

 

 ―――――――

 

 翌週も検査で大学病院へ。前回と同じように護衛付き。

 脳波検査で脳の動きが少し落ち着いてきたそうだ。その結果を見て院長先生はつまらなさそうな顔を見せた。人の頭をなんだと思っているんだこのじじい。

 お昼はまたカフェテリアでチビートをもぐつきながら、パウラさんからお祖母さんの話を聞いた。東北からパラグアイへ一家で移住して、現地で生まれたお母さんが結婚後に旦那さんの仕事の関係で二人でウルグアイへ移住したそうだ。で、お兄さんとパウラさんの二人を生んだとのこと。まあまあ珍しいケースなんだそうだ。

 

 大使館への帰路はまたいくつか道を変えて戻る。

 今回は尾行してくる車はいなかったらしい。アホらしいって気付いたかな。

 

 ―――――――

 

 大使館で保護されて二週間経った頃、未だ在留許可が認められないままだったので、大使の提案で大使館の臨時職員として働くことになった。

 といっても掃除の手伝いや、厨房で仕込みの手伝いする用務員的な仕事。

 タダ飯食らいのヒモ野郎が、住み込みバイトに昇格したような気分だった。

 大使館の外に出られるのは週に一度の検査時に大学病院まで往復するだけだったが、それでも毎日やることがあるのは気が紛れてよかった。

 大学病院との往復時に尾行されることはもうなくなっていた。

 

 ――――――――

 

 ひと月も経てばすっかり用務員暮らしに慣れて各種掃除スキルを手に入れた。

 給料の中から宿泊費と食費が引かれるが、それでも少しは残るよう気遣ってもらっていたので、初月給で中古のノートとモバイルルーターをサクラザワさんに買ってきてもらった。諸々の設定はヨシオカさんにお願いしたので日本語で使えている。

 

 週に2回、パウラさんとサクラザワさんの三者でオンライン日西会話教室をしている。どういうわけだかおれのスペイン語は全然上達しないまま。パウラさんは目を見張るスピードで日本語が上達していった。

 

 週に一度の脳波の検査は続いていて、ほぼ落ち着いているのだけどたまにガンマ波の異常が見られるらしい。鼻血を出して死ぬようなことはない程度だそうだ。

 

 

 ―――――――

 

 

 保護されて三ヶ月経った。ウルグアイの4月は夏も終わり、夜はちょっと涼しくなってきた感じ。

 家族に会いたい気持ちは薄れてないが、一向に在留許可は下りず帰国の目処も立ってないことを考えると理不尽さに気が滅入る。

 なかなか帰国できないことをなるべく思い詰めないようにしている。

 脳波検査でのガンマ波の異常は今月に入って一度も出ていない。そろそろ検査が終了してもおかしくない。

 でも唯一の外出の機会だしパウラさんにも会えるので、終了は辛いかも。

 そんなふうになにも特別じゃないただの用務員のおっさんが異国で引き籠りながら時間を浪費している毎日が続いていた。スペイン語もさほど上達していない。

 

 ある日、厨房で昼食の仕込みを終えたところへヨシオカさんが声を掛けてきた。

 

「ハナダさん、大使からお話がありますので昼食後に応接室へお願いします」

 

「はい。あの、ちなみにおれ、なにかやらかしましたか?」

 

「ははは。いえいえ、そういう話ではないと思いますよ」

 

 もしかしてと期待しそうになるが、違っていたときになかなか落胆してしまうので過度な期待はしないように気を静める。

 教授たちもとっくに帰国してしまったし「特別な存在」の割に放置プレイが長い。

 もしかしたら、もう脳波も通常になったみたいだし特別ではなくなってしまったから日本国籍がないまま大使館から追い出されたりするのか…

 いかんいかん、期待を抑えすぎて逆ブレしている。落ち着けおれ。

 

 昼食後、大使と面談をするため応接室へ。

 中に入ると大使とサクラさんがいた。え?セクハラとかそういう話?

 大使館でも会話教室でも顔を合わせるので、自ずと距離感が縮まってフレンドリーというか馴れ馴れしい感じになってきた自覚はあったけれども、ボディタッチとか性的な話とかはさすがに自重しているから訴えられるようなことはないはずだけど…

 

 緊張するおれを解すように大使は機嫌よさげにソファへ座るよう促した。

 

「ハナダさん、もうすっかりここでの生活に慣れた感じですね。いつも綺麗に掃除してくれていると職員も感謝しています。ありがとう」

 

「はい。いや、まあ、ご配慮いただいてどうにか人並みの暮らしをさせて頂いていますので、せめて掃除ぐらいしっかりやらせてもらっています」

 

「なんでもサクラザワくんと看護師さんにスペイン語を教わっているんだとか」

 

「はい。喋れるようになるところまではいきませんが。徐々にって感じです」

 

 大使は機嫌良さげに世間話をしてくる。こんな話をするために呼び出すか?

 大使の隣に座るサクラさんは逆に神妙な面持ちというか表情が硬い。

 

「こちらの生活にも慣れてきたようですが、ようやく帰国の目処がつきました」

 

 えっ?帰国?

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