結ぶと解く   作:ながずぼん

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第196話 来店と星空

 東京で悪い言葉が他人の中でループすることがどれだけ厄介なことかと思い知ったので地元に帰ってからはなるべく丁寧な言葉遣いを心掛け、人には優しくするようにしていたのだが「気持ち悪い」だとか「気味が悪い」だとか挙句には「綺麗なジャイアンみたい」とか言われて1週間も続かなかった。

 おれの周り雑な奴しかいなかった。

 

 もうすぐ12月になる頃、土曜の夜の店終わりにアオイさんの店のみんなで喫茶店に来ることになった。この日のアオイさんは珍しく酔っていて「みんなで悩みをぶつけにいくぞー!」とか訳の分からないテンションで嫌な予感しかなかった。

 店から従業員一同がぞろぞろと歩いて喫茶店に向かい、ギャルたちはコンビニで酒を調達してきたので少し遅れて店に来た。

 初めて店に来る人はほぼほぼ「へえー」みたいな声を漏らしていた。

 

 首謀者のアオイさんはカウンターに座ると突っ伏して寝てしまう。

 それを見たシズカさんが意味ありげな笑みを浮かべている。デジャヴなんだが…

 しばらくカウンターにいてアオイさんの様子を気にしてたけれど、起きそうにないのでテーブル席でタケちゃんの隣に座ってみんなの会話に混じることにする。

 

 テーブル席では白ギャルのモモさんと黒ギャルのジュンさんが「男女に友情はあるか」という話で言い合いのようになっている。黒ギャルのジュンさんは「友達だと思っててもすぐワンチャン狙ってくるから友情なんてない」という主張をし白ギャルのモモさんは「元彼ピなんかたまにチョメるけど友達」という主張。

 黒ギャルの方が貞操観念強いっぽい、とにかく真逆な二人。

 昔からこのディベートのテーマあるけど、どうして友情の話をしているのにセックスの話になるのか不思議でならない。そんなだから話がズレていくんだろ。

 

 「シズカ姐さんは男と友情あると思うっすか」とジュンさんがシズカさんに振ると「ないね。そもそも私は身体の関係は抜きにしても男を信用してない」と固唾を飲んで聞き耳を立てていたタケちゃんの首を刎ねた。タケちゃんに合掌。

 「でもでも、困った時に助けてくれるメンズ必要なくないっすか?」とモモさんが食い下がると「私が困ったときに頼れるのは自分自身と娘だね。男はアテにならないよ」とシズカさんが返す。やめて!もうタケちゃんのライフはマイナス7兆万点よ!

 

 これだけ煩いのにジュンさんの隣ではユヅキさんが座ったまま寝ている。その対面に座るノゾミさんは我関せずといったテイで珈琲を啜っている。優雅さすらある。

 対面でゾンビ化したタケちゃんに襲われないように気を付けながら話を聞いてるとジュンさんが「ハナっちは男女の友情ある派っすか?」と振ってきた。

 皆が一斉におれを見る。つうかユヅキさんなんで起きてんの?寝たふりしてたの?

 

「ふつうにあるんじゃないの?つうか友情って条件付きの限定的な愛情だと思ってるからあるなしってのはセックスが条件に入るか入らないかの違いじゃねえの?」

 

「てことは、あたしはセックスなしでモモはセックスありってこと?」

 

「さっきから二人でそう言ってたじゃん。二人の話は男女に友情はあるかって話じゃなくて友達とセックスできるかって話に聞こえてたけど?」

 

「へえ、ちなみにハナダくんは友情の条件にセックスは入るの?入らないの?」

 

 シズカさんが意地悪い笑みを浮かべて尋ねてくる。まあだいたい想像はつくけど。

 

「そうですねえ、それでしか解決できないならセックスしますね。おれにそんな需要があるとは思えませんけど。あははは」

 

「ふうん。じゃあ、アオイはハナダくんに任せて私たちは帰ろうかね。オンナのコは乗せてくけど、タケは自分で帰んな」

 

 なにかあって酷く酔っぱらったアオイさんの面倒を見ろってことなのか。

 それにしてもタケちゃんの扱い…心折れちゃわないといいんだけど。

 

 テーブルの上のカップやらを流しに放り込み、部屋からハウルのコートを取ってきて駐車場へ行き車を店の前まで回す。今夜は新月で星の奥の空が真っ黒だ。

 店に戻ってアオイさんの肩を揺すって声を掛けて起こす。

 

「お客さん、起きてください。もう閉店なんで帰ってもらっていいですか」

 

「んんー、ハナさん…来たばっかりなのにもう帰れだなんて…酷いよ…」

 

「寄り道して送っていくからとりあえず車に乗ってよ。車で寝てていから」

 

「やだ、どこへ寄り道していくのかしら?メイちゃんに怒られちゃうなー」

 

 口ではそう言うものの迷惑はかけたくないと思っているのがわかる。

 アオイさんはすごく寂しそうに笑っているけど、今夜が新月で晴れていて12月になっていないあなたはとてもラッキーなんだよと思った。

 

 アオイさんを助手席に乗せて車を走らせる。アオイさんの家は南だけど向かっているのは南西。インターを通り過ぎてそのまま国道を走る。しばらく走るとラブホ街があるのでアオイさんから緊張が伝わってくる。

 だけど彼女もおれもそれを望んでいない。気晴らしにすらならないだろう。

 ラブホ街を通り過ぎると「どこへ連れて行くの?」とようやくアオイさんが口を開いた。「私の悩みなんてちっぽけなものね!ってなるところだよ」と答えた。

 

 峠に入る前のローソンで温かい飲み物を買ってさらに南西へ。坂をどんどん上りゴルフ場を通過してまた坂を登ってスキー場も通過。かっこいいトンネルを抜けて坂を下る途中で細い道に入り、ぐねぐねする坂道をどんどん上る。

 途中、野兎と鹿を見た。鹿ちょうでかい。

 小高い山の上の駐車場に着くと、他には誰もいなかった。

 

「着いたよ」と言って車を降りて丘の上のベンチまで歩く。足元が暗くてよく見えないから携帯のライトで照らしながら手を引いて坂を登る。丘の上に着いたらライトを消して「30秒ぐらいで目が慣れるはずだよ」と言って二人でベンチに座る。

 空を見上げると星の明かりがどんどん目に飛び込んでくる。視界いっぱいに広がる本物の宇宙がそこにある。暗くてアオイさんの表情はわからないが彼女の空気というか温度が上がった気がした。

 寒かったけれど文字通りの満天の星空を見上げて黙っていると、流れ星がピューっと流れて消えるのを何度も見た。

 

 アオイさんはお付き合いしていた人と別れたそうだ。

 「星の数ほどって言うけど、こんなにいたら選べないですね」と言って笑った。

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