12月になる。予定通りエルリカさんが見つかればこの世界にいるのもあと1ケ月。
店のみんなとは最後まで一緒にいるけれど、もう会わない人たちとのお別れは済ませてきたつもりだ。ウチヤマ教授の質問メールは届いたら次の日には返している。
ただ、師匠から連絡がないので本当に年明けには旅立てるのか不安になってくる。
アオイさんは星空効果で翌週には復活していた。茶化してきたシズカさんが場所を教えろというので「もう12月なので道路封鎖してますよ。でもタケちゃんには教えたから春になったら彼とタンデムでどうぞ」と返しておいた。がんばれタケちゃん。
そして計画だけ進めていたショータイムのある店の図面が仕上がったのでアオイさんに渡しておいた。ガチの施工図面なのでどこまで伝わったのかわからないけれど、彼女は大事そうにそれを抱えて深々と頭を下げて感謝してくれた。
クスメギたちからは特に連絡はない。あっちの店も忘年会シーズンが始まって忙しいのだろう。メイさんは…、まあ彼女のことだからたぶん元気だろう。きっと。
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12月の2週目、ようやく師匠から連絡があった。次の日曜にこちらへ来るという。
「エルリカさんは見つかったのですか?」と訊ねると「そのあたりも行ってから説明します」とのことだった。
年明けのハワイ行きは誰も手配してくれないので自分で航空券とか買わなくちゃいけない。早めに予定が組めれば準備も進められるのだけど。
土曜日。忘年会流れの客で幕開けから閉店までずっと席が埋まっているほど忙しかった。とはいえ席数も知れているので付け回しはいつもの感じ。氷とおしぼり、灰皿の補充が慌ただしかっただけ。あとグラスとかの洗い物が多かった。
閉店後、送りに出る前にリョウ君が店に来た。なんでもおれの店に来たいらしい。
送ったら連絡するから、場所はタケちゃんに聞いといてと言って送りに出る。
4人を送って車を置いてリョウ君に連絡を入れて喫茶店に行く。
昼間に練習したガレットの片付けをしながら彼が来るのを待っていると、カランとドアベルが鳴り、彼がやってきた。メイさんを連れて。
「いらっしゃい。ひ、ひさしぶりだね。元気にしてた?ちゃんと食べてた?」
「あははは。なにそれ、お母さんみたい」
メイさんは初めて会ったときと同じ薄ピンクのドレスを着ていた。
驚いてキョドっているおれにリョウ君は笑顔を向けているのだけど目が挑むような視線なのはなぜ?おれリョウ君に怒られるようなことしたんだっけ?
「ハナダさん、今月でお店辞めるって本当なんですか?専務から聞いたんですけど」
食ってかかるようにリョウ君に言われると「ちょっと待って、落ち着いてくれよ。いいから、座りなよ」とメイさんが諫めてカウンター席に座るよう促した。
二人が並んで座ったところで「とりあえず飲み物、珈琲しかないんだけど、二人とも大丈夫?」と訊ねると「ええー。まじで?眠れなくなるじゃん。リョウ、コンビニでビール買ってきて」とパシリに振る。てっきり怒るのかと思ったら「いいけど、一人で大丈夫なの?」と意外とリョウ君は献身的だった。
「はあ?なにが?早くいってきて。ハナちゃんとラブラブしとくから」とメイさん。
この状況がぜんぜん飲み込めない。半年ぐらい徹底的に避けられてきたメイさんが突然現れてラブラブするとか言ってるしリョウ君はなんだか怒ってるし。なにこれ?
「ハナちゃん、最近どう?アオイちゃんとチョメってる?」
「なんかさ、話の流れがおかしくないか?チョメってないし。前も今も」
「わたしは毎日食べてるよ。ハナちゃんの炊飯器いいやつだからご飯おいしい」
「そっか。食えてるなら安心だ。あ、そうだ、腹減ってない?おれいまガレットの修行中なんだけど食べる?味に自信はまだないんだけど…」
「うん。食べる。ひさしぶりだね、ハナちゃんとなにか食べるの」
自信はないとは言ったものの、毎日練習をしてきたからそこそこの味にはなっていると思う。生地の仕込みも難しく考えず塩加減と水加減でどうにかなってるはず。
ハムと卵とチーズ、そこにトマトソースのオーソドックスなガレットを焼いていると走って行ってきたのか肩で息をしながらビールを持ったリョウ君が戻ってきた。
「リョウ君もガレット食べる?腹減ってない?」焼きながらそう声を掛けると「えっ、あ、はい。いただきます」と疲れたのか毒気が抜けて素直な返事がくる。
「ハナちゃんの料理おいしいんだよー。食べたことないけど」とメイさんは適当なことを言ってカラカラと笑っている。
まずメイさんの分を出して、リョウ君のやつを焼く。あれ?メイさんて辛いの好きだったかなと思ってタバスコを差し出すと「そういうとこだよ…」と言っている。
リョウ君の分を出したら自分の分を焼いて食べる。二人とも完食してくれた。
メイさんが2本目のビールを飲み終わるまで、アヤさんの店の話をしていた。
「きょうはハナダさんに報告に来たんです。俺たち付き合うことになりました」
「う、うん」それをわざわざ報告しに来たの?なのに怒ってたのはなんで?
「ハナダさん、年内で店を辞めて街からいなくなるって専務から聞いて、メイさんがこっちの店に来たのはそれが理由だって聞いて。酷い奴だと思ったときに、俺この人のこと好きなんだって自覚して。先週、送りのときにコクってオッケー貰って」
「だってさ、ハナちゃんいなくなっちゃうじゃん。悲しいなって思ってたらリョウがコクってきて…子供も好きになるし俺はどこにもいかないって言うから…
勃たないし、いなくなるおじさんと、傍にいてくれるイケメンだったら、イケメンに乳首コリッコリにするしかないじゃん。
だからね、ハナちゃん。わたし大丈夫だよ」
メイさんはべしょべしょに泣きながら笑って大丈夫だと報告してくれた。
「うん。わかった。メイさんの乳首はリョウ君に任せた。リョウ君の乳首も頼むね」
おれは感極まり過ぎて意味のわからないことを泣きながら口走っていた。