夜中にメイさんたちが来た翌日、高速バスで師匠とアサガオさんが来た。
また昼過ぎの到着だったので喫茶店に招き、ガレットを焼いて食べさせた。
「成長したわね、90点よ!」と言われ「なにがダメなんですか?」と訊ねると「伸びしろよ。うふふ」と採点基準に疑問が残る返事があった。
珈琲を飲みながらまったりしているとき、向こうから言うまで聞くまいと心に誓っていたのだけれど我慢ができず「それで、その」と言ったとき「せっかちな男はモテないわよー」と言われてしまう。
どうして勿体ぶるんだ!この世界の住人みんなそうだ!
「わたしたちがミャンマーまで行ったのはね、あの子の子供に会いに行ったからよ」
「え?子供がいたんですか?その子どうやって見つけたんですか?」
「わたしのネットワークと、人探しのプロにお願いしたのよ。それでその組織の人たちに動いてもらうためにまとまったお金が必要だったの」
「ああ、それで。いまここに持ってきますか?」
「ううん。あなたが旅立つときに受け取るわ。それよりあの家、崩れてなかったかしら?」
「ちょうど金庫持って庭に出たところでガシャンて崩れましたよ。あれも魔法で維持してたんですね。あの時の見る影もないほど朽ちてましたよ」
「仕方ないわね。あの家建てたのは最初に日本に来たときだったから400年ぐらい前だったかしらね。100年前に戻ったときも崩れかけてたもの。あはは」
また使うなら直せばいいぐらいに思っているのだろうな。それよりもミャンマーにいるというエルリカさんの子供のことを聞きたい。
「あら、そろそろ着くみたいね」
アサガオさんがそう言うと外でスキール音がしてバタンバタンと車のドアが開閉する音が聞こえた。すっ飛んできたのはあの二人で、アサガオさんが呼んだのかな。
カランカランとドアベルが鳴り、アヤさん、クスメギ、アオイさん?が店に入って来た。なぜアオイさんがこの面子の中に?めちゃくちゃ緊張してるし。
「お久しぶりママ。というほどでもないかしら。昨日電話で話したしたものね」
「そうね。でも会えて嬉しいわ。元気そうでよかった。で、そちらの方は?」
「このコはね」アヤさんの音声はそこで途切れた。アサガオさんと内緒話をしているようだ。決して傍受できないガチの内緒話を。
そして二人して「うふふ」と笑っている。アヤさんの成長っぷりというか魔女っぷりに磨きがかかってきている。怖いな。
「あ、あの、初めまして。ニナガワ、キョウコと申します。今日はアヤさんに誘われてのこのこ来てしまったのですが、お邪魔なようでしたら私はその…」
「そんなことないわよ、アオイちゃん。歓迎するわ。一人余ってふてくされる面倒な人がいるからお相手頼めるかしら?」
「ふてくされてません。あと、アオイさんもコンパニオンじゃないんだから、いつも通りでいいですからね。このおばさんの言う事真に受けないでください」
アヤさんはどういうつもりでアオイさんを連れて来たのだろうか?副官の副官?
ところでクスメギは静かだけどなにしてんだ?と奴を見ると師匠と執事トークに花が咲いているようだった。あいつあんなふうだったかな…
女性陣も話に花が咲いているようなのでカウンターの中に入り片付けをする。
洗い物を片付けて珈琲を機械で淹れて飲みながら店の様子を眺めていると、アサガオさんに「重大発表があるからこっちに来て」と呼ばれる。
「決めたの。わたし、タダヒトさんと一緒にこの街に住むわ」
アヤさんもクスメギも知っていたような笑顔でうんうんと頷いている。
「そういうことなら前から考えていたお願いがあるんです。二人でこの店を貰ってくれませんか?師匠なら評判の喫茶店になると思うし、アサガオさんなら相談相手にうってつけだし。知らない人に渡るの、正直に言えば嫌だったんですよ」
「あら、あなたの方からそう言ってくれるのね。あなたが出て行くときに譲ってもらおうってタダヒトさんと話をしていたのよ。上の部屋も一緒にね」
「実は私がこのお店を気に入りまして彼女に提案したのですよ。設備も整ってるから何でも作れるって。そうしたらすぐに賛成してくれまして。ハハハ」
「ありがとうございます。申し訳ないんですがあの下手クソな絵もそのまま残していきますんで、見えないところでもいいのでどこかに飾ってもらえませんか」
「あそこにはタダヒトさんの描くあなたが追加されるのよ。その後は、クスメギさんが描いたタダヒトさんが追加されるのかしらね。それはまだわからないけれど、そうやって受け継がれていくのよ。誰かの忘れない気持ちを食べ続けられるように」
またそうやって泣かしに来る。こんなおじさん泣かして楽しいのかね。
そのとき、頭の中でパチンと火花が弾けた。
アサガオさんに「そういうのやめてください」と言うと「なにをよ?」と本当に知らない感じだった。
えっ、じゃあいまのは?店の中をきょろきょろ見回しても見えるわけじゃないけれど宙に視線を巡らせているとニマニマしたアヤさんの顔が視界に引っ掛かる。
「まじですか」と問いただすと「ごめんなさい」とアヤさんはテヘペロした。
魔女の母親と魔女の姉ちゃんにからかわれたけれど悪い気分はしなかった。
サヨさんはずっとここにいられるみたいだから。