結ぶと解く   作:ながずぼん

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第202話 晩飯と帰還

 2日は午前中からアサガオさんと師匠が部屋に来て、3人でコタツに入ってお喋りをした。「昨夜、帰り際に寂しそうにしてたから」と言われ「それは言っちゃいけないと思ってたけどそりゃ寂しいですよ」と否定しなかったら、師匠は「言われない方も寂しいものですよ」と諭してくれた。

 こうやって甘やかされるから格好つけちゃうんだよ。

 

 エルリカさんはまだハワイ島にいてカウアイ島には渡っていないようだった。

 気付いているのかもしれないけれど、監視の網にしっかりかかったままで、見失うことはないだろうとのこと。

 

 この日の食事は師匠が作ってくれた。昼にはあったかい汁に天麩羅が入っているざるそばを作ってくれた。ガレット用の蕎麦粉を店にある道具を駆使して打ってくれたのだけど、そば打ちは初挑戦だったらしく師匠にしては珍しく及第点だった。

 夕方に3人で買い出しに出て、晩飯は炒飯と餃子と酢豚だった。こっちは慣れてるらしくすごく旨かった。アサガオさん曰く、皮が手作りの餃子はもっとおいしいのだそうだ。市販のでも充分だったけど、それより酢豚がめちゃくちゃ美味かった。

 

 そろそろ寝ると言って二人が帰ったあとクスメギに連絡して新年の営業はいつからなのか訊ねた。明後日から営業再開するとのこと。「なにか夜に用事があるのか?」と訊かれ「いや、別にないけどいつまで休みなのかなって思って」と答えた。

 「明日、うちで晩飯食わないか?」と誘ってくれたので「目の前でイチャイチャしないなら」と言って翌日の予定が決まった。やっぱり自分から連絡取らないとなんにも起きないよなと思った。

 

―――――

 

 翌日、18時半にクスメギたちのマンションに行くとアヤさんが「あけましておめでとう、ハナちゃん。さあ上がって」と玄関のところで出迎えてくれた。

 部屋に上がるとクスメギがエプロンを着けてキッチンで料理をしていた。昨夜のおれの部屋で見た光景みたいだった。女王の執事稼業かくありき、だった。

 アヤさんがジャスミン茶を淹れてくれた。すごくいい匂いがする。

 

 クスメギの作ってくれた晩飯は、炒飯と餃子と酢豚だった。

 

「あんたがアズマさんのこと師匠って呼ぶのに納得したよ。あの人の料理の腕もそれを教える才能も師匠って呼ぶのに相応しいな。これ直伝だから美味いと思うぞ」

 

 自信満々で言うクスメギに、昨夜、本人のものを食べたとは言えなかった。そして奴の酢豚は師匠のそれの偽物だった。餃子も師匠には及ばない。

 だけどあいつの炒飯は師匠のものと別の旨さがあって、おかしなことに涙腺を刺激してきた。泣きはしなかったけれど、なにか言ったら決壊しそうだったから炒飯だけ黙って食べた。炒飯だけを先に食べ終わると「そんなに腹が減ってたのか?」と訊かれたので「おれ三角食べとか苦手なんだよ」と誤魔化した。

 

 残った酢豚と餃子を突きながら楽しそうにビールを飲む二人を見て、鼻の奥がツンとしてくる。炒飯攻撃には耐えたのに。こんな穏やかで楽しい時間が二度とないと思うと自然と目や鼻から水が垂れてしまった。

 声を上げずに少しの間、そのままでいた。

 見ればあいつもアヤさんも赤い目をして寂しそうな顔でこっちを見ている。

 

「ねえ、ハナちゃん、どうしても帰らないとダメなの?間違いなく帰れるの?」

 

「ちゃんと帰れるかはわからない。でも帰る。こんなに都合よくて居心地のいい世界に留まっちゃだめだと思う。ここは夢の中みたいなものだから」

 

「別に都合よくてもいいじゃねえか。あんたがしてきたことでみんなが受け入れているんだから。元の世界とは違うだろうけど、こういう世界もあるってことだろ?」

 

「もし浜松でトラックに撥ねられて病院のベッドで寝てるとしたら、この世界に別れを告げなきゃいつまでも夢の中だ。おれは起きて家族に会わなきゃなんだよ」

 

 改めて翻意はないと知った二人はそれ以上引き止めるようなことは言わなかった。

 ただ、ハワイで失敗したら戻って来るしかないんだけど、その時は再雇用してくれるかアヤさんに訊ねると「どうかしらね、寂しい思いをさせられたから意地悪しちゃうかも。わたしの恨みは根深いのよ。ふふふ」と言って笑った。

 

 ハワイへ行けば必ず帰れるわけではないことを説明するために、二人の目の前で空間を歪ませてみせた。リビングの小物が吸い寄せられそうになったところで止めた。

 ずっとコソ練をしてたから、初めてやったときより疲れなくなってきている。

 目の前で空間が歪んだのを見て「まじか!」とクスメギは心底驚いていた。アヤさんも何を見せられたのかわからないという顔をして口に両手を当てて絶句している。

 

「これのもう一段階上の操作をして帰り道を作るらしい。それはアサガオさんでも説明できないことみたいで、ハワイにいる彼女の最後の娘さんにやり方を聞いてやることになる」

 

「それが、人工ワームホールってことか。その娘さんていうのはどんな人なんだ?」

 

「アサガオさんがアインシュタンの種をゲットして産んだ子らしい。小さい頃から科学の申し子でいま120歳ぐらいだな。アサガオさんとの繋がりを自分で千切るような能力がある。ワームホールでおれをこっちの世界に呼んだのは彼女かもしれない」

 

「ね、ねえ、ハナちゃん。その能力で元の世界への帰り道が作れるなら、向こうからこっちの世界にも道が作れるんじゃないの?行ったり来たりはできないの?」

 

 それはおれも考えていた。二重生活みたいな感じで行ったり来たりができれば、こっちの世界で得た金を向こうで補填できる。こっちの世界ならこのチート能力で金は簡単に稼げそうだし。二人の会社の役員にでもなれば不労所得も夢じゃない。

 

「ワームホールがどんなものかわからないし、そもそも帰れるかどうかだけど、ハワイの彼女に聞いてみてゲートみたいなものが設置できたら最高だよね」

 

 アヤさんの話に乗っかって夢みたいなことを言ったものの、その構想は無理なんだろうなと思っている。もしも科学的に実現可能であるのならアサガオさんからその可能性が示唆されているはずだ。

 だからあくまで夢みたいな話だと自分に言い聞かせている。

 

 しばらく夢みたいな話を3人でして、晩飯の礼を言ってマンションを出た。

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