結ぶと解く   作:ながずぼん

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第十一章【真相編】
第206話 様子と出発


 高速バスに乗ってハワイのことを想像していたらインターに着く頃には眠ってしまっていた。途中休憩も寝たままで、いまは八王子を過ぎて府中競馬場のあたりを走っている。今朝ちょっと寝ただけだったから思ってたより身体は疲れていたみたいだ。

 

 それにしても地元での最後の夜をアオイさんと過ごすことになるなんて思ってなかったな。腕を組んで海沿いを散歩してのお別れだったけれど、絵面と違って恋愛感情がまるでなくて、二人してお別れのお芝居をしているようだった。

 感情をむき出しにすればいいってもんじゃないけど、アオイさんにもいつか考える前に怒ったり泣いたりできる相手が現れるといいなと思った。

 

 バスターミナルに到着したらサクラさんに連絡をする。事務所で待っているというので小田急線で下北沢へ。もう三回目なので迷いもせずにNPOの事務所に着く。

 写真で見たふわふわパーマの彼女はすっかり元気になっているのかと思ったけれど、そうではなかった。ほぼ初対面のおれに対しては笑顔どころか怯えたような表情を向けられ目を合わせてもらえなかった。サクラさんたちには普通だったけど。

 生きる気力を失うほどメンタルがやられていたのだから、回復にも時間がかかるのだろう。イケメン先生ならともかく相手もこんなおじさんだしな。

 

 長居するのも気が引けたので、そろそろ…とサクラさんに声を掛けて事務所を出ようとすると、サクラさんがパーマの彼女の手を引いて玄関まで連れれ来てくれた。

 「ほら」とサクラさんに促されるとパーマの彼女は「あ、ありがとうございました」と言ってがばっと頭を下げた。

 がんばれはダメ。容姿に触れるのもNG。元気でねもプレッシャーなのか?

 じゃあおれなんて声掛ければ…と悩んだ末、「紅茶飲んでくださいね」と唯一おれが知っている彼女のポジティブな要素を口にした。唐突すぎる紅茶推しだけど。

 それを聞いたサクラさんが噴き出し「紅茶って」と笑うと、パーマの彼女も「あははは」と一緒になって笑った後で笑顔のまま「はい」と返事をしてくれた。

 

 駅前のアウトドアショップで店員さんにワイアレアレ山にトレッキングに行くので必要になりそうなものを一式揃えたいと告げると、検索してくれて必要なものをリストアップしてくれた。それら全てを買い込み、防水リュックも買って中に入れた。

 登山グッズの詰まったリュックをスーツケースの中に入れて、井の頭線で渋谷駅まで出たら山手線で蒲田まで行き、そこからはタクシーでホテルへ。

 

 チェックインを済ませて部屋に行きベッドに横になる。まだ19時前だ。

 渋滞なんかで都内に着くのが遅れるのを回避するために、前日のきょう東京に来てみたものの、20時台の飛行機に乗るわけだから明日でもよかったんだなと思った。

 いまから丸一日どうやって暇を潰そうか…

 

―――――

 

 結局、やることもないのでチェックアウトの時間を一時間だけ延長して部屋でごろごろした。ホテルの近くで昼飯を食って空港まで歩いたらあとは空港で過ごした。

 きょうは曇っていて寒かったのでそれほど長い時間は展望デッキで飛行機を眺めていることができなかった。夕食も空港の中の高いラーメン屋で済ませた。

 

 ちょっと早いけどチェックインカウンターで搭乗手続きをすることにした。

 カウンターでスマホの予約画面とパスポートを出してチケットを受け取ろうとすると「ESTAでのご渡航ですね?」と訊ねられる。エスタ?なにそれ?

 「え?」と聞き返すと「ESTAによる渡航には帰国便か第三国行きのチケットが必要となります。ご予約はございますか?」と再度訊ねられる。

 「帰りのチケットがないとダメなんですか?」と訊くと「はい。アメリカへの入国の条件となっておりまして、往路のみですと搭乗手続きを進めることができません」と言われてしまう。そういやヒューストンからメキシコに行くときも成田までのチケットが必要だったことを思い出した。不法滞在をさせないルールか。

 

「チケットってここで買えますか?」と訊ねると「はい、お取りできます。お帰りはいつの便になさいますか?」と言われ、これって何かのフラグなのか?と予感がした。考えすぎなのかもしれないけれど。

 ひとまず「今月末で空席ありますか?」とお願いすると、31日の16時発の便が予約できるということだったので、乗らないだろうけどそれを取ってもらった。

 現金では買えないということだったのでクレジットカードで支払いを済ませた。

 

 銀行口座を空にしてしまっていた。よく考えたらハワイでの買い物はカード払いになるのだから口座を空にしてはいけなかったことに気付いた。

 銀行ATMの場所を聞いていったんカウンターから離れて150万円のうちの50万円を口座に戻した。ついでに両替窓口で50万円をドルに替えると4000ドルになった。

 

 もう一度、チェックインカウンターで搭乗手続きをする。時間ギリギリで間に合ったらしい。飛行機なんかそうそう乗らないものだからいろいろがやばい。

 財布と携帯を入れた小さいバッグだけ手荷物に残してスーツケースを預ける。

 税関カウンターに行き係の人と話をすると手持ちの現金が4000ドルと50万円で、今日のレートだと97万円なので申告不要だと言われた。100万円を超えるとなにか申告しなければならないようだったが、そんなことよりもさっきの両替で3万円取られていたことを知って、両替チョロすぎねえか?と思った。

 

 次は出国審査。「観光です」と言ってパス。真顔で「ラスボスと対決です」と言ったら、あの係員の人どんな顔したのだろう。別室に連れていかれたのかな。

 続いてキンコンゲートの前でベルトも外してトレーに乗せたおかげか鳴らずに通過できた。お土産はいらないと判断して免税店には行かなかった。

 

 時間になり搭乗ゲートから飛行機に乗り込む。2-4-2の右側の通路側の席だった。窓側の搭乗者はまだ来ていない。周りを見ると結構家族連れが多い。正月休みをズラしてハワイで過ごす家族なんだろう。どうも常夏の島というものに興味がないのは貧乏性だからなのだろうか。海辺でただ寝っ転がるだけに大金を注ぎ込む気持ちがわからない。

 そんなことを考えていると隣の席の人が来た。20代後半ぐらいの気の強そうな顔をした女性だった。黙って立って席を開け彼女が窓側に入るのを待つ。

 

 女性が座ったのでおれも自分の席に座ると声を掛けられる「奇遇ですね」と。

 え?と思い女性の顔をまじまじと見ても誰だかわからない。声も聞き覚えがない。

 誤魔化しようがないぐらいに知らない人だ。「すみません、あの、どちらさまでしたか?」と恐縮して尋ねると「お会いしたときには名乗りもしませんでしたものね」と言って彼女はバッグから名刺を差し出してきた。

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