結ぶと解く   作:ながずぼん

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第208話 合流と別荘

 ハンバーガー屋でヨハンソンに近況を尋ねると、去年の秋からNSAに復帰したそうだ。健康上の問題もなく、なによりおれたちの逃亡作戦を立案して遂行し、完璧な形で成し遂げたことで元上司が強く復帰を求めてくれたそうだ。

 あの緊迫した状況でも軽口を叩く余裕があったぐらいなのだから能力的に問題なんかないのだろう。「よかったな」と言うと「それもこれも全てあなたのおかげですよ」とヨハンソンは言ってくれた。

 

 「ハナダさんはどうやって過ごしていたんですか?」と訊ねられたので「飲み屋でボーイとオンナのコの送迎してたよ」と言うと「そのビッチ共から言い寄られたりしてませんよね?」と息巻いているので「してねえし、みんな普通のコでビッチなんかじゃねえよ」と偏見を正しておいた。

 

 時間になったので搭乗ゲートに向かう。ここでもパスポートを見せて飛行機に乗り込む。今度の飛行機は3席が2列で中央が通路になっているやつ。

 窓側がおれの座席で隣がヨハンソン、その隣には向こうの3人のお仲間っぽい中国人らしきおばさんが座る。4人は凄い勢いで喋っていた。どんどん声がでかくなる。

 

 ほどなくして飛行機は飛び立ち一路カウアイ島へ。1時間もしないうちに到着。

 空港から生えている通路ではなくタラップで地面に降りる。

 通路を歩いて空港建物に入り、ターンテーブルでスーツケースを受け取り、到着ロビーへ。ここの空港すごく小さくて移動が楽だった。

 

「それでこの後は?」とヨハンソンに訊ねると「ここにもう一人来るはずなのですが…」と誰かが合流してくると言っている。絶対に彼女だ。でも来てないのはなぜ?

 

 出入口の方を見ていると不意にバチバチッと頭の中に火花が散った。

 何事かと振り向くと、すぐ後ろに驚かそうとして両手を向けた格好の彼女が驚いた表情で固まっていた。

 そして彼女の首から下げたペンダントの透明な石がパキンと音を立てて割れた。

 彼女と目が合うと「は、は、はわわわ…」と顔を真っ赤にして後ずさりしていく。

 羽交い絞めにでもしようとしてたのか、それにしてもあの火花…

 

「ア、アドラ!いつの間に!」とヨハンソンが一拍遅れて驚いている。

 

「久しぶり、元気そうだね。ところでさっきアドラさんが何かしたの?」

 

「ふふっ。私の能力ですよ。ミ、ミツルには通用しなかったけど…」

 

 髪を後ろで束ねた彼女は以前より一層精悍になった気がするが、赤面したままおれを下の名前で呼んだ。どうしてそこまで照れているのかわからない。

 

 積もる話は滞在場所である貸別荘で、ということで空港を出て移動する。

 駐車場に停めてあるジープに乗り込む際、どちらが運転するかで揉めている。

 その間に荷物と一緒に後部座席に乗り込む。すると今度はどっちが後部座席に乗るのかで揉め始めた。いやスーツケースあるから座れないし。

 結局ヨハンソンが運転をして不承不承アドラさんが助手席に乗って走り始める。

 

 「なんだかボルチモアを思い出すね。去年の大晦日は3人で寿司屋に行ったよねえ」と前列の二人に声を掛けるも無視された。えええ、酷くない?

 

 20分ほど海岸沿いを北上して、農場地帯に差し掛かるところで右折してUターンするような向きに走ると、崖上にある2階建ての立派な貸別荘に着く。

 シャッターを開けてガレージに車を入れ、荷物を家の中に運び込む。

 

 LDKの海に面する壁が全面ガラス張りで真ん中のあたりは暖炉になっているが、暖炉の背面もガラス。キッチンは広くバーカウンターがあり、LDKからフラットに出られるテラスの前には芝生。ベンチも単純な構造ながら座面が宙に浮いていておしゃれ。とにかく、ここへ来た目的を忘れてしまうぐらいおしゃれな建物だった。

 

 他の部屋をアドラさんとヨハンソンに案内してもらう。2階のベッドルームは広々としていて海に面した壁はやっぱりガラス張り。その外にバルコニーがある。屋根が迫り出しているこのバルコニーはハワイの言葉でラナイというらしい。

 

 残りの2つのベッドルームは1階にあり、広さもそこそこで海は見えない。

 二人は2階のベッドルームを使うよう勧めてきた。一番身体が小さいのだから小さいベッドの部屋でいいと言うと、二人が1階のベッドルームの取り合いを始めてしまったので、結局一番でかい2階のベッドルームを使うことにした。

 ヨハンソンはいつものことだけどアドラさんまでどうしちゃったんだ。

 

 リビングでスーツケースから中の防水リュックを取り出し、服や装備品に不足しているものがないか確認してもらった。

 概ね足りているそうで、下北沢の店員さんが選んでくれたフェルトタビという滑らない靴というか足袋は普通のトレッキングシューズより明後日の山登りに適しているらしい。頭に付けるライトはヨハンソンの予備のものを借りることにした。

 

 3人ともにこの1年間の積もる話があったので、テラスのベンチに座ってそれぞれ話をすることにした。まずはヨハンソンから。

 

「NSAに復帰したことは2人とも知っていると思いますが、とにかく去年は忙しかったですね、まずは復帰直後の春先から人事管理局がハッキングされて個人情報が流出した件で、2200万人の中から活動中の諜報員をリストアップしていました。夏までずっと」

 

 おれはその事件を知らなかったけれど、2200万人という数を聞いただけで目がシパシパする。分析官ってそういう感じの仕事だったのかと思った。

 

「それが一段落したら秋頃までISの暗号通信関係の分析に回って、メタデータの解析から行動パターンを分析して提言内容をまとめていました。これも骨の折れる仕事でしたがドイツの鉄道爆破が未然に防げたので報われましたね」

 

「ラッカの空爆も拠点を特定したのはNSAの情報があったからでしょ?」

 

「それは私のチームではなかったけれど、1000人以上の民間人まで巻き込んでいるから本当にあれでよかったのか考えてしまうね」

 

 な、なんかポンコツ扱いしてごめん。スケールでかすぎて話について行けない…

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