結ぶと解く   作:ながずぼん

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第213話 白状と説得

 激辛サンドを一口食べたイチカワさんは「なんですかこれ!ゲホゲホッ」と涙目で訴えかけている。

 

「え?そんなに?日本の諜報員は辛いものに弱い傾向にあるんですか?」

 

「呆れた…、拷問のつもりですか?別に隠し立てするつもりはありません。私は確かに内閣情報調査室の者です。経緯を説明しますから手荒な真似はしないでください」

 

 そう言って彼女はサンドを皿の端に戻し、水を飲んでから事情を説明してくれた。

 

 彼女がなぜおれの身辺調査をしているのかと言えば、内閣情報調査室として春から外事室が内閣直轄の部署に格上げされる話が寝耳に水だったらしく、ハナザワさん絡みの人間を洗い出しているそうだ。外事室と繋がりのある能力者、つまりアサガオさんやおれが国益になるのか害を成す存在なのか調べていたそうだ。

 

「ホノルル行きの飛行機で隣だったのも偶然じゃないってことですか?」

 

「ええ。チケットが予約された時から隣を確保していました」

 

「もしかして総領事の秘書って肩書もイチカワって名前も嘘なんですか?」

 

「それは本当です。ただしこちらの肩書については伏せていますけれど」

 

 なんだよ。だったら普通に声掛けて話をしてくれればいいのに。

 

「情報室の偉い人はハナザワさんの部署が直轄になるのが面白くないわけ?」

 

「そういうことではなくて、あなた方のような存在が安全保障や法の遵守に影響を及ぼさないか危惧しています。DCで見た能力は最早科学ではなく宗教の域に達しています。国がああいったことに依存し始めたら全てがめちゃくちゃになります!」

 

「あなたが恐れる理由もわからないでもないけど、おれたち犯罪を冒すような悪いことした?外事室で接触のある人達だって悪用してるケースはないよ?理解ができないからって悪者扱いするのはどうかと思うし、正直、国とか組織とかどうでもいいよ」

 

「何かがあってからでは遅いんです!国の秩序が崩壊してしまいます!」

 

「あのさあ、国が国がって言うけど、ハナザワさんたちは国の前に個人の権利を尊重してくれるからおれたちみたいなのに信頼されるわけ。だから犯罪の抑止にもなってるんだと思うよ。クソみたいな縄張り争いしてないで外事室と共存できないの?」

 

 おれたちを脅威とみなしている限り彼女は納得できないだろう。仲良くしてくれる気配が微塵もない。仕方ないのでもう一歩踏み込んだ話をするしかない。

 

「DCで会ったアサガオさんだけど、彼女が本気出したら世界がめちゃめちゃになるんだよね。で、能力的に彼女に唯一抗えるのがおれなんだけど、おれはもうすぐいなくなるから事実上歯止めは効かなくなるよ?そんな彼女が日本の窓口として信頼してるのがハナザワさんたちなわけ。これなら仲良くする気も出してもらえるかな?」

 

「いなくなるってどういうことですか?アメリカに移住するということですか?」

 

「いいや、そのままの意味だよ。おれは明日この世界から旅立つ。それに協力してくれているのがこの二人なわけ。二人とも休暇中で個人的に協力してくれてる」

 

 イチカワさんは納得していないようだったが、これ以上説明のしようがない。

 そこでヨハンソンから能力者に対するアメリカの見解を説明してもらった。彼は能力者を国や組織で縛ろうとしても、そもそも法律がないから対応のしようがないと外事室と同じ基本姿勢であることを説明してくれた。個別対応しかないのだと。

 ここでアドラさんから「イギリスは~」とか言われるとややこしくなるので彼女と目が合ったときに小さく首を横に振っておいた。

 

 一通り説明を聞き終えたイチカワさんは渋々納得してくれたようだった。

 

「くれぐれも能力者を管理しようだなんて思わないことだよ。そんなことしたら総理大臣の首じゃ足りないから。ハナザワさんのところと仲良くしてくださいね」

 

 彼女の去り際にそう忠告すると「上と相談します、お邪魔しました。ご馳走様とは言いませんから」と言って去っていった。

 

 テラスに戻り残ったサンドを3人で食べた。おれは1つ当たりを引いてしまい明日トイレでセンシティブなところが燃えるように熱くなることに恐怖した。

 アドラさんも楊枝の跡のついた当たりを引いているはずなのに平気そうだった。

 普段自炊してないみたいだけど、何を食っているんだろう…

 

 その後、リビングに集まりガイドから聞いてきた登山ルートの説明をヨハンソンから聞いた。地図があるだけで画像があるわけではないので全然イメージがつかなかったが「道がなくなる」、「迷いやすい」、「川の中を進む」、「滝を登る」などの説明が聞こえ、おれの知っている登山とは全然違う行程なことだけはわかった。

 

 いつもの如くにわか仕込みの知識に頼るとロクなことがないので、明日はガイドさんと二人に案内を任せて、後ろから必死に食らいついて行くしかないと思った。

 万全を期すためにビーチ行きは取り止めると、二人は素直に同意してくれた。

 

―――――

 

 こっちの世界での最後の晩餐は買ってきたピザにした。

 よく映画で観るように一枚を半分に畳んで食ってみたいと言ったら一人一枚を畳んで食うことになった。

 二人もそんなふうに食べたことがないというので、3人で畳んだピザを寝転がったりうろうろ歩きながら最高に行儀悪くげらげら笑いながら食べた。

 

 寝る前にもう一度荷物と装備の確認をすると、明日は6時に出発するので21時にはそれぞれ寝室に入った。この日は自重してくれたのかシャワー中の突撃はなかった。

 あれも寂しさ回避のお約束だったのかもしれない。二人には敵わないな。

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