結ぶと解く   作:ながずぼん

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第215話 出発と渡渉

 時間になり、もろもろの装備と荷物を積んだジープで別荘を出発する。日の出まではまだ時間があり、辺りはまだ薄暗いのでライトを点けて走る。

 きょうはおれが助手席。運転するアドラさんは刷り込みレベルで機嫌がいい。追手がいないので気楽なドライブだ。「トイレも止まり放題だね」と笑い合った。

 空港の方へ向かって走り、ワイルアビーチの交差点を右折して内陸へ向かう。

 山肌がむき出しになっているような丘を掘り割った道を緩やかに登っていくと、谷の向こうに滝のようなものが見えた。

 

 しばらく民家が並ぶ街っぽいところを走り、民家が途切れると一気に道の両脇がもしゃもしゃの草とか木が生えた道になる。それはだんだんと鬱蒼とした林になっていき、登り勾配もだんだんきつくなっていく。

 急に開けた場所に出たと思ったらその先の道が水没している。水没というか沢に橋も架けずに強引に道を作った感じで、ばしゃーんと大きな水しぶきを上げながらそこを渡ってすぐ先の駐車場に到着する。ここでガイドの到着を待つ。

 

 森が深くて目指す山頂が見えないが、離れた場所から山頂を見ても年中雲がかかっていて見えないらしい。そんな話をしていると一台の車が駐車場にやってくる。

 車から降りて来たのはTHEハワイのおじさんといった風体のガイドさんだった。

 おじさんはおれを見てヨハンソンになにか尋ね「へえ」と驚いている。

 「揉め事じゃないよね?」と確認すると「ここへ来る日本人は珍しいそうですよ」と教えてくれた。

 

 おじさんの車にヨハンソンが乗り込み2台で行ける限界のところまで行く。

 先導するおじさんの4WDは泥を跳ね上げながらゆっくりと進んでいく。完全に森の中の泥の道なのでスタックする可能性も高い。アドラさんもあまりアクセルを強く踏み込まず慎重に進んでいく。水たまりもいくつかあって車はすっかり泥だらけだ。

 石が飛び出ているところは腹を擦らないように、大きい石を跨がないようにギリギリまで避けて進む。倒木が心配だったみたいだけどきょうは大丈夫そうだった。

 

 やがて草むらのような場所に出ると、ここが目印のゲートなのだと教えてくれた。

 ゲートというが何もなく以前に恐竜映画のロケで使われたゲートがあった場所だそうで、この山へ登る人たちが「ゲート」と呼んでいる目印らしい。

 ゲートを過ぎて少し進むと今度は「dam」という場所に出た。遂に道がなくなる。

 

 ここが車で到達できる最奥らしく、車を降りて歩き始める準備をする。

 とはいえ目の前にはでかい石がごろごろしている川しかなくて道らしいものは確認できない。「どこを行くの?」とアドラさんに訊ねると「この川を登ります」とのことだった。ヤッケを着るよう言われ、頭にライトを付けたら準備完了。

 

 ガイドのおじさんに続いて川を渡って右岸へ。足元が滑りやすいから気を付けるよう言われ慎重に進む。水嵩が深いところで膝下ぐらいだったが多いときは腰まで浸かるぐらいあるそうだ。岩に足を掛けて登ったりもするのだけど、ここでフェルトタビの威力が発揮されていることを実感する。まじで滑らない。怪しいなと思ってもギリギリで足の裏が踏ん張ってくれる。下北の店員さんに感謝だ。

 

 川を渡り切ったら獣道のようなところを進む。人食い大蛇とか出てきてもおかしくない茂みをガイドのおじさんがおれたちを気に掛けながら先導してくれる。

 獣道は平らじゃなくてそこそこアップダウンしている。その上、足元が悪くグラグラする石の上を歩いたり、崩れかけているところを降りたりしなきゃならない。

 

 おじさんは遅れがちなおれを気遣ってか、途中で足を止めて隊列を維持してくれているし、後ろからはヨハンソンが「大丈夫ですよ、焦らないで慎重に」と声を掛けてくれている。アドラさんもたまに振り向いておれの様子を確認してくれる。

 完全にパーティのお荷物なのだが、ここで焦ると本物の荷物になりかねないので遅くなるのを気にするのはやめた。

 

 おじさんが立ったまましばらく動かなかったのでアドラさんに「休憩ですか?」と訊ねると「ルートを確認しているのだと思う」と教えてくれた。

 木の幹に目印のリボンを巻き付けてあったりするのだけど、雨や風で飛んで行ってしまっていることが多々あるらしい。おじさんが迷ったらアウトじゃんと思ったら、なにかの目印を見つけたようで再び移動を始めた。

 

 下を流れる川が曲がり始めS字カーブになったところで先の獣道は途切れ対岸に渡ることになる。水嵩はさっき渡ったときとそんなに差がないように思うが、水の中の石に注意するようおじさんの指示がヨハンソンに翻訳される。

 石と石の間に足が挟まると抜けなくなるそうだ。さっきより慎重に足裏の感覚に集中しながら川を渡る。一度グラつく石に足を取られそうになったがすぐ後ろにいたヨハンソンに支えてもらって事なきを得た。

 「ふふふ。ご褒美が楽しみです」と冗談めかして彼は言うけれど、こんなところで流されでもしたら洒落にならなかった。「性的なもの以外で頼む」と返しておいた。

 

 左岸のブッシュを少し進むと鬱蒼としていた渓谷が少し開けてくる。

 倒木が増え、倒れた木の上には苔が蒸している。足元は泥だらけでフェルトタビとはいえ少し滑る。でかい倒木は跨げないのでよじ登るようにして超えて行く。

 結構急なドロドロの斜面を降りるとき、アドラさんが「受け止めますから」といって手を繋いでくれた。カニ歩きみたいな格好でちょっと滑りながら斜面を降りて「ありがとう」とお礼を言うと彼女は微笑んで「楽しいですね」と言ってくれた。

 やがてザーっという音が遠くから聞こえてくる。進行方向は音のする方だった。

 

 最初の難関が目の前にある。滝だ。Guardian Fallsというそうだ。

 

 何を守護しているのか知らないが、侵入者を拒む役割はしっかり果たしている。

 滝と言っても20mも30mもあるようなものではないが、ぱっと見て3階建てぐらいだから10mぐらいか?崖は垂直ではなく階段状になっている。

 滝つぼはプールのようになっていて、水浴びにはもってこいな感じだった。

 ガイドのおじさんはプールの端まで行ったかと思ったらそのままザブザブと腰ぐらいの深さのプールを渡り始めた。ここ渡るんだ…

 

 いちおうリュックは防水だし、中のスマホも防水ケースには入れてあるけれど、あれだけ水に浸かるとなると心配だったので、頭の上にリュックを乗せてプールを渡り始める。心臓が止まるかと思うぐらい水が冷たい。足元が全然見えないけれど長く水に浸かっているとやばい感じがしたので気持ち急ぎ気味でプールを渡り切る。

 

 一度靴を脱いで中の水を捨てる。そのついでに足をバシバシ叩いて血流を促す。

 こんなところに観光目的で喜んで来る人たちがいるというのだから世界は広い。

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