結ぶと解く   作:ながずぼん

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第二章【東京編】
第21話 帰国と寿司


 アナウンスで何度目かのうたた寝から目覚めベルトを締める。

 ほどなくして降下が始まる。接地の衝撃がほとんど感じられないほど緩やかにおれたちを乗せた旅客機は無事に成田国際空港へ着陸した。

 完全に停止が確認されると乗客たちは次々と機内から出ていったが、他の乗客が降りるまで待つよう指示があり、しばらく機内に留まった。

 

 機内から出ると入国審査に向かう。警護に挟まれ他の乗客と違うレーンへ。

 審査員がおれの顔とパスポートをチラ見してゴリラと殺し屋に向かって「ご苦労様です」と一言。政府関係者扱いのようで、あっけなく入国審査をパスする。

 

 おれの荷物は機内持ち込み分だけだったが、他の人はスーツケースを預けているので手荷物受取のターンテーブルのところまで一緒に行く。

 荷物を受け取ると税関審査へ。申告はないので通過するだけ。

 到着ロビーまでいくと神経質そうな眼鏡の男性がゴリラと殺し屋に挨拶をした。

 

「初めましてハナダさん、私、外務省のマツモトと申します。まずは長旅おつかれさまでした。これから今夜泊まってもらうホテルに向かいます。車中でお渡しするものをお渡しして、ホテルに着きましたら今後についてご説明させて頂きます」

 

 マツモトさんは息継ぎもなくそう言うとスタスタと歩いて黒いバンまで案内する。車に着くと後部座席に乗るよう促した。

 運転席にオオクボさんが乗り込み助手席にカワサキさん、後部座席におれが乗るとその後ろにサクラさん、おれの隣にはマツモトさんが乗った。

 

 都内へ向かっているであろう車中でマツモトさんからおれの名義の預金通帳とキャッシュカードを渡され、一年間の研究協力費として600万円入っていると言われた。

 アズマ教授の手配で文科省の予算から捻出されたそうだ。

 思わず振り向いてサクラさんを見ると、笑顔で小さくガッツポーズをしていた。

 

 

 バンは日比谷の超有名ホテルの前で停まり、ここが今日の宿泊先だと言われる。

「それでは私たちはこれで」と一言挨拶があって警護の二人は乗って来たバンで去ってしまった。

 ずいぶんあっさりしたお別れだなと思いつつ、マツモトさんの後についていきラウンジの一角に座る。コーヒーを注文すると明日以降の説明が始まる。

 

「明日から本郷のマンションに滞在して頂きます。そこから大学病院まで通うことになりますが基本的に送り迎えや身の回りの世話をする人間がつきます。今月末までは、午前中が検査で午後は研究者の会議に参加して頂きます。その後のスケジュールは研究者の方々の都合で決まっていきます」

 

 またしてもマツモトさんは一気に説明をする。せっかちな性格のようだ。

 

「土日は基本的に自由ですがなるべく外出は控えてください。どうしても出掛ける際はご連絡ください。あ、これハナダさん名義になっていますので使ってください。使用料は先ほどお渡しした口座からの引き落としになっていますので、契約内容などは適宜変更して頂いて構いません」

 

 デフォルトのアプリしか入っていない最新のスマホを渡された。

 

「今のところ身分を証明するものがパスポートしかなく不便かと思います。運転免許証は新しい住所が決まり次第、再発行の手続きをしてください。公安には話を通してありますので。ここまでで何か質問はありますか?」

 

「いまのところないです。覚えることが多くて混乱していますし」

 

「では、なにかあればすぐに連絡してください。あと、これが部屋の鍵になります。今夜もできれば外出は控えてください。どうしてもの時はサクラザワがここに泊まりますので彼女に相談を。では明朝9時に迎えに来ますので私はこれで失礼します」

 

 マツモトさんは言うだけ言ってコーヒーには手を付けず去って行ってしまった。

 

 ラウンジに取り残されたおれとサクラさんはポカンと彼の背中を眺めていた。

 ガチガチの警護が急に解かれ放り出されたような状況に困惑しつつ、コーヒーを飲みながら今夜の過ごし方をサクラさんに相談する。

 

「夕飯はどうしたらいいんですかね?外に食べに行くのはやめた方がいいですよね」

 

「なにかあってからでは遅いので、今夜はルームサービスを頼んでください」

 

「でもここの食事って高いですよね。精算のときに怒られませんか?」

 

「不可抗力じゃないですか?こんなホテルを予約した者の責任ですよ」

 

 彼女は仮に度を超えた金額の料理を食べたところで責められる謂れはないのだとエレベーターホールまで歩く短い間に何度も繰り返して言っていた。

 

 エレベーターに乗りカードキーに記載されている部屋へ上がる。

 サクラさんとは部屋が隣同士だった。

 ドアの前で彼女は何かを言い掛けたようだったが「なにかあったら呼んでください」と告げて逃げるように隣の部屋へ入っていった。

 なんだろう。夜這いに来るなとでも言いたかったのだろうか。酷いな。

 

 部屋に入ったらまず奥さんの携帯番号に貰ったスマホで掛けてみた。

 ウルグアイを発つ前に大使から「もし旧知の者に会ったとしても日本から出たことは口外しないように」と言われていたが、奥さんにはなんと説明したものか。

 淡い期待も守秘義務も関係ないと言わんばかりに「お客様のお掛けになった電話番号は~」という機械の音声が流れた。何度か試したが結果は同じだった。

 

 むしゃくしゃしたので一番高い寿司を頼んで食べてやった。

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