どうせこれもなんとか運動とか科学の理屈が付いているのだろうけど、空気の塊が…いてっ、あの野郎、小さくした空気の弾を連発してきやがる。いってーな。
無数の小さなシャボン玉がバラバラに飛んでくる。ちっとは手加減し…いてっ。
何を考えていたのか忘れた。とにかくこの空気弾をどうにか止めないと…とその時、視界の端に光学迷彩をまとった拳大の空気弾がおれの顔面めがけて横方向から飛んでくるのを捕えた。全くの偶然だった。大きく仰け反りそれを躱すと、肘を曲げて拳を目の前に置いてボクサーが顔面をガードする格好になる。
小さいので牽制して本命を横から飛ばすとか、やりすぎじゃね?つうか3人とも気絶したらどうするつもりなんだ?担いで山から降ろしてくれるのか?
まあいい、それより空気弾だ。また小さいやつをばら撒き始めた。受け止める腕がびりびりする。ガードしきれていない頭にもいくつかコンコンぶつかって来る。
空気の塊は素粒子で作ってるはずだけど飛ばすのはどうやってるんだ?押し出す力は操作じゃなくて普通の理屈のような気がする。だとしたら弾の前にある空気がなくなったら弾はどうなるんだ?加速する?減速する?
次の本命が飛んで来たらやってみよう。そう決めてガードを解いて小さい弾に拳を振り回してやけくそモードに見せかける。全然当たらないけど問題なし。いてっ
すると本命のやつが鳩尾に狙いを定めて飛んできた。
空気弾の予測線上、おれの腹の前の空気を「散れ」と言いつつ解いた。おそらくなんちゃって真空状態みたいな感じになったはずだ。
空気弾がそこへ到達すると音もなにもなくスッと消えた。加速でも減速でもなく消滅した。理屈はわからないけれど、とにかく空気弾の処理までは済んだ。
「おい、なんなんだこれ。なにかの試験なのか?だったら休憩しないか」
そう声を掛けると、緑のおばけは少し前に出てきた。
フードの隙間からなんとなく顔が見える。金髪の女だ。若い。20歳ぐらいか?
年齢はまあいい。どうせ100歳超えてるんだし。あいつがエルリカなんだろう。
「おまえがエルリカか?おれはおまえに話があってここまで来た。だから攻撃するのはやめてくれよ」
「日本語は久しいな。お前と私とどっちがリガビス使いとして優秀か確かめたい」
「リガビス?なんだよそれ。話し合いで済むならいくらでも付き合うぞ」
話し合いになるものだと思っていたら違っていた。女は杖をおれに向けて構えた。
杖の先の空気がユラユラッと歪んだ次の瞬間、稲妻が放たれた。
それは音もなくおれの足元に向けて一瞬で到達し、地面を焦がした。
いやいや、まてまてまてまて。無理無理無理無理。
稲妻めっちゃ速い!目で追える代物じゃない。準備している間に黒焦げになる。
「わかった、降参だ!降参!」両手を挙げてこれ以上戦う意思がないことを示す。
なのに女はスチャッと聞こえんばかりに杖を構えてまた稲妻を放ってきた。
鬼だこいつ。上弦の0.5だ。首を刎ねないとおれが死ぬ。
「はあー、どうして話をさせてくれないんだ…」とぼやきながら少し腰を落として雷撃に備える。当てる気はなさそうだけど、動かないと止められそうにないから動き方次第では当たるかもしれない。
女が杖を構えてから、空気がゆらゆらする瞬間を見逃さないように注視する。
やっぱり稲妻が放たれる前の刹那、空気が歪んだ。そして蜘蛛の糸のような雷撃の通り道のようなものが見えた。理屈はさっぱりだけど、どうやらレールを敷いてそこへ沿わせて雷を走らせているっぽい。
おれができそうな対応は、最初に空気が歪んだときに軌道を読んでその先のレールを破壊することだ。
次の雷撃に備える。来た!空気が歪んだ。
このへんを通るはずという予測線上に「どけ!」という意思を乗せた解く素粒子をばら撒く。稲妻の進路にあるナニカを拡散させるイメージ。
パキッといった感触があり稲妻の通り道は破壊され杖の先が光っただけで雷撃を無効化することに成功した。
あいつが次の試験を始める前にこちらから終了を宣言しなきゃならない。
稲妻試験をパスしたらすぐにトランス状態になり、杖の前の空間を歪ませた。
あの杖で魔法みたいな操作をしているっぽいから、あれをどうにかするために。
小石や苔が歪んだ空間に吸い寄せられ始めると女の持っている杖も引っ張られる。
トランス状態を解きながら杖を引っ張られてバランスを崩している女に向かって猛ダッシュで駆け寄ると、杖の先端のコブになっているところにでかい水晶がはめ込まれているのが見えた。
なんだっけ?共鳴が増幅するんだっけ?アドラさんの水晶と同じ原理なんだろう。
だったら杖ごと破壊しなくていいかと思い、石英結晶の六角形を解くイメージをしてケイ素と酸素に分解してやった。杖の先の水晶はバキン!と音を残して割れた。
驚く女の顔がよく見える。金髪で薄緑色をした目の若い女。
彼女がエルリカで間違いないだろう。落ち着いて見ると完全にエルフだな。
殴るつもりもないので、ゆっくり様子を窺いながら歩いて近づいていく。
「おまえの試験は全部クリアしたぞ、もう話を聞いてくれるy…」
言いかけたところでバチバチバチッと強烈な火花が頭の中で散る。
また人の話を途中で遮りやがってどういう教育受けてんだ。親の顔が見てみたい。
つかおまえの母親はなによりも対話を重んじているのになんでなんだよ。
あまりの理不尽さに呆れて説教でもしてやろうと思って彼女の方へ近づいていくと、心底驚いた顔をして杖を落とし棒立ちになっている。
手が届くぐらいの距離まで近付くと、ちょっと嬉しそうにして叫ぶように言った。
「