結ぶと解く   作:ながずぼん

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第220話 会話と送別

 ようやく会話ができそうな状況になると真っ先に一番大事な質問から始める。

 

「二年に一度、ここでワームホールを作っているのはおまえか?」

 

「ああそうだ。あれでお前を呼んだのは私だ」

 

 最重要情報があっさりと開示され、強張っていた力が抜けた。

 とんだ迷惑を掛けられていたけれど怒る気にならなかった。こいつに悪気がないとかそういう問題じゃなく、こっちの世界で大切な人たちに出会えたからだ。

 かといって感謝を告げるのではなくやっぱり文句は言いたい。一言謝って欲しい。

 

「おれはハナダミツル、元の世界の日本から来た。おまえに黒い穴に落とされてな」

 

「私はエルリカ・フォン・ザクセン。ドイツ生まれだ。初対面なのにファーストネームで呼ばれるのは心外だが、ハナダ、おまえなら特別に許そう」

 

「なにが特別に許そうだよ。おまえのせいでめちゃくちゃ苦労したんだからな!」

 

「そうか、それは大変だったな。その分も含めてエルリカと呼ぶことを許そう」

 

 こいつ…ノーダメージにも程がある。エルリカ呼びにどんだけ価値があるんだ。

 つうかこの感じ、初期のアドラさんみたいだなと思って、ふと彼女たちの方を見ると、ヨハンソンもアドラさんもまだ寝ている。どのくらいで気が付くんだろう。

 

「エルリカ、おまえが気絶させたあの二人、起こしてきていいか?このままじゃ風邪ひいちゃうだろ」

 

「起こした後でもしも私に危害を加えようとするなら容赦はしないぞ。それから、二人をここに長居をさせるつもりはない。起こしたらさっさと下山させろ」

 

「暗くなる前に下山はしたほうがいいと思うけど、置いて行かれたらおれ一人じゃ下山できねえぞ。おまえがどうにかしてくれるのか?」

 

「ふっ。お前、私と少し話をしたぐらいで全てが理解できるのか?新しい人生を始めずここまで辿り着いたということは、ここでやることがあるのだろう?」

 

「ああそうだ。アサガオさんからおまえにワームホールの作り方を教えてもらえって言われている。おまえわかるんだろう?」

 

「だから言ったじゃないか。お前は私の言葉を瞬時に理解できるのかと。水の操作は得意なようだが、他の対応を見るとしばらくはここで過ごすことになると思うがな」

 

 え、しばらくってどのくらい?アサガオさんの時みたいにまた謎課題出されて意味がわからないまま何日もぼんやり過ごすってこと?まじで?

 

「も、もしかして、ここで修行しないと帰れない感じ?」

 

「ああ、早くて1週間、長ければ数カ月かかるだろうな。まあ、私は1年でも2年でも構わないがな、ははは。がんばって成長してくれよ、ハナダミツル」

 

 ようやくここまで、こいつに辿り着いたのに、こっからまた修行なのか…

 ここで挫けるわけにもいかないしやるしかないわけだが。ひとまずヨハンソンとアドラさんに状況を説明してお別れをしよう。それが第一歩目だ。

 

 二人の方へ近づいていくとエルリカも後ろを付いてきた。即応するためだろうか。

 とりあえず血の気の少なさそうなヨハンソンから起こすことにする。彼の傍らにしゃがみ込んで肩を揺らして名前を呼ぶ。何度かそうすると、ううぅ…と呻き声を上げてヨハンソンは目を覚ました。そして抱き着いてきた。目を開けた瞬間に少しニヤっとしたのをおれは見逃さなかったから両腕を跳ねのけた。

 

「あ、酷い。ここは感動の目覚めシーンじゃないですか。ハグぐらい許してくれても…というかそちらの方がエルリカさんですか?私、彼女にあっという間に締め落とされたんですが、手懐けちゃったんですか?さすがお兄ちゃんですね」

 

 ヨハンソンは上体を起こしてエルリカに笑顔を向けながらおれを褒めてきた。

 顔は笑っているけれど「手懐けた」と言うあたり、ムカついているのだろう。

 だがエルリカは眉も動かない程度に動じていない。相変わらずノーダメージだ。

 

 ヨハンソンが立ち上がり、フラついていないことを確認したらアドラさんの傍らへ行き、彼と同じように肩を揺すって名前を呼ぶ。何度か繰り返していると長い睫毛がピクリと動いた気がした。でも目は開かない。

 もう2,3回揺すってみると顎が上がり心なしか少し唇を尖らせているように見える。危ない。ギャラリーがいなければ王子ムーブでチューするところだ。

 肩を揺するのをやめてデコピンをすると彼女は目を開いた。

 

「痛いです。魔女に眠らされたら王子のキスで目覚めるのは定番ですよミツr…」

 

 そこまで言いかけておれの後ろにいるエルリカに襲い掛かる勢いで起き上がろうとしたので腕ごと全力で抱きしめた。これは不可抗力。

 そしてそのまま耳元で「話はついた。もう戦わなくていい」と諭すように告げた。

 その瞬間へなへなと力が抜けて「わかりました」と微笑んでくれた。

 妹のような存在だと思っているにも関わらず破壊力がすごい。インド美人やばい。

 

 アドラさんも立ち上がり、足元がしっかりしているのを確認したら二人に暗くならないうちに下山するように伝える。想定していたが二人はそれを嫌がった。

 ワームホールに入っていくところまで見届けるのだと言うとエルリカが口を開く。

 

「お前たちは勘違いをしているようだ。私一人であればこの場所で二年に一度のタイミングを待つ必要があるが、ハナダの能力なら場所も時期も関係ない。それに現時点ではハナダがすぐに時空を操れるとは思えない。待っている間に餓死するぞ。ふふ」

 

 それを聞いて二人の視線がおれに集まる。おれは情けないと思いつつ頷いた。

 

「そういうわけだから、準備ができたら連絡するよ」そう言って二人が元来た洞窟へ入っていくのを見送った。二人は何度も何度も振り返って手を振ってくれた。

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