結ぶと解く   作:ながずぼん

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第222話 貴族と出産

 路銀を得て南アフリカへ渡ると暴動こそ収まっているものの白人労働者の小競り合いはあったようだ。ここで抗争に巻き込まれてせっかく拾ったダイヤを奪われないために足早に北上していったそうだ。

 南アフリカはイギリス、東アフリカはポルトガルと宗主国の違いで国境越えが面倒だったからイギリスの支配下の国を通って北へ移動していくとケニアのあたりでまた暴動があったそうで、とにかくアフリカは欧州各国の支配下からの独立の機運が高まっていたらしい。それでも独立に至るのはまだ先の話だったみたいだけど。

 

「そういや国境を超えるときのパスポートはどうしてたんだ?」

 

「それは人間がチェックしている限り問題はない。私を信じてもらうだけだ」

 

 いやいや、普通に不法入国で不法滞在だろ。信じるってなにをだよ。

 

「あ、あのさ、買い物とかするときにレジ係をちょろまかしたりしてないよな?」

 

「ふん、馬鹿にするな。私は国籍がない状態だから出入国のときに便宜を図ってもらっているだけで、人の物を盗んだり金品を騙し取るような下劣な行為はしない。罷り間違っても私は貴族の出だからな」

 

 それ便宜って言わないだろう。でも貴族だっていう気位は未だに持ってるんだな。

 なんだかバランスがめちゃくちゃだけど、ちょっと面白いなこいつ。

 

 エジプトから紅海を船で渡りヒジャーズ王国へ。今のサウジアラビアは反乱が多発していてここでものんびりはしていられず、さりとて陸路は過酷すぎたようで再び船でイラクに渡るも、イラクあたりも宗教・部族の対立があって逃げたり思考操作したりと落ち着かない日々だったそうだ。

 

 イラクのバスラ港からインドのムンバイへ船で渡ると、インドではガンジーさんに率いられた民衆の不服従運動でイギリス政府に反抗していたそうだ。ガンジーさんは非暴力を掲げていたから、それまで見てきた暴力的な反抗とは違って、塩の行進という大規模なデモ行進みたいなものだったらしい。

 とはいえ、そこかしこで警官隊との睨み合いは起きていて、インドでも落ち着かない日々を過ごして、早々にビルマへ移動することになったようだ。

 

 インドから東へ進み、ちょうどインド帝国からイギリスによって分割されたビルマに入国。しかし時期が悪くシッタン川沿いで反英の農民の反乱が起きており、マレーシアへ向けての即時南下は取り止め、シャム王国に近い山間の村に滞在して反乱が収まるのを待つことにしたらしい。

 とはいえ若い白人女性は相変わらず目立ちすぎるので、村人たちとの接触がある場面では認識阻害を発動しながらの暮らしだったそうだ。

 

 適当な森の中に小屋を建てて狩猟採取のような生活をしているところに何度も一人の男が尋ねてきたそうだ。エルリカ本人は記憶に残らずとも小屋は記憶に残る。

 思考操作で追い返すこともできたがどうせ暇だったということで男との交流が始まったそうだ。さらには暇潰しに男との間に子供を作ってみたという。

 

「そのときの子供がミャンマーのおばあさんってことか。ずいぶんその男の人のことを気に入ったんだな」

 

「気に入るもなにも暇潰しだと言っただろう。誰でもよかったんだがちょうどその男が目の前にいたからそうしただけだ。それなりに歳を取っていたから子供が生まれて1年も経たずに死んでしまったし」

 

「え?じゃあ子供はおまえが一人で育てたのか?ずっと村にいたってこと?」

 

「いいや。私にとって出産経験は”こんなものか”程度のことだった。生まれた子供にも特別興味がなかったから、1年ほど育ててみたが男も死んでしまっていたので宝石と一緒に寺に預けて旅を再開した。反乱も鎮まっていたことだしな」

 

 いや、まじかこの女。産み散らかしたアサガオさんの方がマシに思える。

 戦争をさんざん見てきて命の尊さを学んだんじゃないのかよ。暇潰しって…

 

 ビルマからシャム王国に入り、シンガポール経由でインドネシアへ。

 ここらへんの治安はそれほど悪くなく、特にシンガポールで久しぶりに安全な時間を数日満喫したそうだ。バタビア、現在のジャカルタまで船で移動し、その先の東の島々へも船で渡りパプアニューギニアへ。

 パプア南岸のポートモレスビーからオーストラリアのブリスベンへ船で渡る。

 さらに船でニュージーランドへ渡る頃、ヨーロッパで第二次世界大戦が勃発する。

 太平洋にはまだ戦線は拡大しておらず、サモアやフィジーなどの南太平洋の島国を経由してハワイへ向かったそうだ。

 オアフ島に到着するとすぐに船でこのカウアイ島に渡り長旅は一旦終わる。

 

「それって例の伝承を確かめるためにこの島を目指してたってことか?」

 

「ポリハレの伝承の地がどんな場所なのか知るためにな。確かめたら父に会いにアメリカに渡るつもりだったが難しくなった。そして父が亡くなった後でもう一度訪れたんだ。北の海岸から先祖の世界へ渡るということになっているからな。私は本当の父に聞きたいことがいっぱいあった。だから禁忌とされている崖下の海へ入った。だが行けなかった。なぜだかわかるか?」

 

 そりゃ伝承だからだろ?という言葉を飲み込んで「海に入ってみておまえはわかったのか?」と質問に質問で返した。

 

「私が生身の身体だったからだ。あそこから先祖の世界へ行けるのは魂だけだから」

 

 少し寂しそうに笑ってエルリカはそう言う。本気で残念そうにそう言っていた。

 

「アメリカにはどうして行けなくなったんだ?親父さんに会うために行きたかったんだろ?その頃のハワイはもうアメリカの州だったはずだし」

 

 そう訊ねると「お前は日本人として自覚がなさすぎる。あと、不勉強にも程があるぞ。もっと歴史を学べ」と言われた。

 そこで気が付いて「あ…」と声が出た。なんだか申し訳ない気持ちになった。

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