結ぶと解く   作:ながずぼん

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第226話 解くと補填

 水滴を解くことぐらいどうってことないと思っていた。触り方をちょっとやさしくしてやればいいんじゃないかと根拠のない理屈すら携えていた。

 しかし何度やっても水滴は空気になってしまい霧にはならなかった。

 途中で激しめの雨に降られて洞窟に退避したとき以外は自分でも驚くほどに根気よく水滴と向かい合っていたのだけど、ぜんぜん霧にできないので嫌になってきた。

 

 エルリカはなんて言っていたのか思い出してみる。

 「よく観察して解くという意味を理解しろ」みたいなことを言っていた気がする。

 これはヒントなのか?水滴をちゃんと目で追ってるし解くイメージだってある。

 どういうことだ?遠回しに言わないでそのものズバリを教えてくれてもいいのに。

 

 そこでふと気が付く。これあれか?トランス状態で見ろってことか?

 ひとまずそういうことだと思って意識を世界に溶かす。自我が曖昧になり見えなかったものが見え始める。

 

 雨粒の中の大きな粒と小さな粒が見える。小さな粒の周りの黄色い光に触れると、ふわっと解けて、そこらじゅうの大きいのと小さいのがバラバラになる。

 これは失敗だということがわかる。気体になってしまっている。

 と、そこで気付く。霧ってことは水の粒を小さく分けるってことだと。

 

 見えている範囲をズームアウトさせる要領で水滴を見てみると、白く光る粒から黄色の触手みたいなものがウネウネと伸びて白い粒同士を連結させて編み目のようになっている。しかも触手は動き続けあちこちの白い粒に触れたり離したりしている。

 もしかしてこの触手を解いて白い粒だけにすると霧になるんじゃないのか?

 

 おれは今まで「解く」という行為を「解消」するものだと思い込んでいたが、文字通り「解く」ように黄色い触手が白い粒に触れている繋がりを「解いて」みた。

 すると白い粒も黄色い触手も消滅せず、ただ繋がりを断つことができた。

 あとはこれを連鎖反応みたいな感じで一斉にやれば霧になるはずだと思い「この繋がりを全て断て」とイメージしながら接続部分に触れると、編み目はなくなり白い粒だけがふわふわと宙に浮いたようになった。

 一旦、目をぎゅっと閉じてまた開く感じでトランス状態を抜けて確認すると、目の前には小さな小さな霧がゆっくりと降下しながら宙に浮いていた。

 

 おれはここで()()という行為についてようやく理解した気がする。

 サヨさんの自己認識がパウラさんのものと繋がっていたのを解いたときのことを思い返せば()()ということはできていた。なのに触れるものがみんな壊れたり消滅したりするイメージがあったのは出力のコントロールができていなかったからだ。

 操作する対象の適切なイメージと出力のコントロール、この情報が電気信号となって脳内を走り、例の素粒子がそれを現実世界での物理現象として結果を出す。

 ちゃんとイメージできればちゃんと結果が出せる。水滴を霧にする訓練はこの感覚を身に着けるものだったのかもしれない。

 

 しばらく無心で水滴を霧に変えているとエルリカがでかい袋を背負って崖上に戻ってきた。

 

「その様子からすると、精密操作には慣れたみたいだな」

 

 不敵に笑う彼女が下山する前よりちょっと大人っぽく見えた。それは彼女を師匠というか教官としておれ自身が認めたからなのかもしれない。

 

「イメージと意思の力で()()ってことがようやく理解できたよ。このまま次の段階に入ってもいいけど、やるか?」

 

「ふっ。きょうは基礎を復習したに過ぎない。出来て当然だ。食糧も調達できたし続きは明日からでもいいだろう。それよりやってもらいたいことがある。お前には責任を取ってもらわないといけないからな」

 

 責任を取るだって?おれが何をしたっていうんだ。まさか昨夜なにもしなかったことでプライドを傷つけたとか?そんなわけねえか。

 なにをさせられるのか知らないけれど、とにかくエルリカの後について洞窟へ。

 

 荷物を部屋に降ろしたら薪拾いに出るという。それならそうと言ってくれれば戻らずに外で薪を探したのに。そう思っているとエルリカからでかい水晶を渡される。

 

「おまえに石英を破壊されてしまったからな。入れ替えるからこの杖にきっちり嵌るように調整してくれ。気体に分解するのはダメだ。結晶を維持したまま解いてくれ」

 

 そう言って今度は立てかけてあった杖も渡される。先端のコブになっているところに洞なのか穴が開いていて前はそこに水晶が嵌められていたがおれが壊したからか今は空洞になっている。もう片方の手で持っている水晶を取り合えず当ててみると確かに周りを削らないと嵌らない。これ、結晶構造を解いて大きさを調整しろってことか。

 確かにおれが責任を取るべき案件なのかもしれない。けどあのままだったら雷撃を食らって黒焦げになってたわけだし、おれのせいばかりではないような。

 

 とにかく向きを決めて端の方から削るように水晶を小さくしていくことにする。

 おおよその位置を決めてトランス状態になり六角形の結晶の境界を解くと欠片は残らず気体になってしまう。これもズームアウトしてやんなきゃだめなやつだ。

 視点を切り替えると欠片を残しながら水晶を分解することができた。

 

 途中でエルリカが戻ってきてベッドに座り、どうやっているのか知らないけれど岩の塊を削っている。もちろん道具なんか使わない。岩を人差し指でなぞる部分が削られるように剥がれ落ちて変形していく。器用なんてもんじゃない。全く意味がわからない。

 

 様子を眺めていると「お前も手を動かせ」と言われ水晶の調整に戻る。

 バラバラにしてしまいそうで怖かったけれど、エルリカの真似をして通常視界で水晶を見ながら分離させる部分に人差し指を当てて線を引くように結晶を解いてみる。

 意外と簡単に思い通りのカットができた。ぐりぐりと杖に押し当てながらさっきより早く削る作業を進める。しばらく続けたらおおよそ洞に嵌る形状にできた。

 

 「できた」と言って水晶と杖をエルリカに渡すと、彼女は水晶を洞に嵌め込みながら最終調整だと言わんばかりに洞の形を整え、振り回しても外れない程度にがっちりと水晶は一体化した。まじで何をどう操作しているのかわからない。

 おそらく木の繊維かなにかをいじっているのだろうけど、あれを指す言葉は魔法以外に見当たらない。

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