結ぶと解く   作:ながずぼん

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第227話 食事と厨二

  水晶の欠片は後で使うからまとめておくよう言われ、何に使うのかわからないまま拾い集めてテーブルの上に置いておいた。

 

 ようやく食事の時間になる。外は相変わらず曇っていて霧雨のようなものが降っている。というかすっぽり霧というか雲の中なんだけど。

 頭上の暗さからするともうすぐ日が落ちる頃だろう。

 なんとなく肌寒くもあり、温かい煮込み料理とか食べたい気分だ。

 洞窟の入口のあたり、ちょっとしたオーバーハングの下に岩を積み上げたかまどのようなものが作ってあり、傍らにはエルリカが集めてきた小枝や薪が積んである。

 

 彼女がかまどに薪をくべて指先から火を点けるとパチパチと枝が燃える音がする。

 徐々に火を大きくしていき太い薪を放り込んだら、たぶん魔法で平べったく加工したのであろう岩の皿を上に乗せた。さっきの岩のお椀は使わないようだ。

 岩の皿が熱くなったらエルリカは肉を乗せ、塩を振りながら、どうよこの肉?という自信たっぷりな顔を向けてきた。おそらく彼女にとってのごちそうなのだろう。

 付け合わせなのか紫色の芋のようなものもナイフで切って石の上で焼き始めた。

 

「私はこれだけで充分だが、お前は物足りないだろうからこれも買ってきた。ハワイの料理だが日本風にアレンジしてあるものだ」

 

 そう言って惣菜のパックを渡してくれた。中身はアボカドとマグロ?がサイコロ状に切ってあってよくわからない葉っぱとパプリカのようなものも入っている。ポケという料理らしい。日本風なのは味付けが醤油だからだろう。一口食べてみると漬けマグロのアボカドサラダみたいな感じで美味しかった。

 別荘でヨハンソンたちと食べた謎の太巻きよりはるかに旨かった。

 

 焼き肉と焼き芋も食べて腹が膨れたところで、他にどんな食材を買ってきたのか尋ねると、一週間分の肉と芋だけだという。おまえらは病気しないからいいけどこっちは間違いなく具合が悪くなる。不老不死に食事を任せると命が危ない。

 

「おれも詳しいわけじゃないけど、もうちょっと栄養バランスを考えないと病気になりそうだ。おれも買い出しについて行くから明日もう一度行ってくれないか?」

 

「む…、肉と野菜があれば十分だろう。それに明日からの訓練は食い物にうつつを抜かすほど簡単ではないぞ。この食糧が尽きるときにおまえの同行を考えるとしよう」

 

 一日一食、肉と芋だけ生活が確定してしまった。まじでとっとと修行を終えて下山しないとヘロヘロになりそうだ。少し残ったポイをよく味わって最後まで食べた。

 

 食事が済んだら部屋に戻りエルリカの過去について話を聞いた。第二次世界大戦が終わった後の北米、南米、そしてヨーロッパの国々での暮らし。懲りずに紛争を続ける指導者たち。資本主義の拡大、イデオロギーの形骸化、ガチの自由人からすると政治や経済なんてものは「なんか言ってるな」ぐらいの感覚のようだった。

 彼女の話はまるで歴史の講義でも受けているようで、キューバ危機、ベルリンの壁の崩壊、ソビエトの解体にもその場で体験していた。フォレストガンプみたいだ。

 

 21世紀に入り情報が簡単に手に入るようになると世界遺産を見て回ったりもしていたようだ。人工物ではなく主に自然が作る絶景、ここのような場所が好きみたい。

 他にもアイルランドのケリー州やナミビアの砂漠で見た星空は宇宙に手が届きそうだったとうっとりした顔で言っていた。

 

 そして再びここを訪れた14年前に場所の特異性に改めて気付いて、それまでに得た科学知識でもってワームホールの生成にチャレンジし始める。

 2年周期で1月15日あたりにワームホールを開くための条件が整うらしい。ただそれはわずか数秒程度だという。地球は自転、公転、重力場の変動、電磁気圏の乱れなど常に変化してるため、この場が電磁波共鳴場として稀有な場所だとしても、結ぶ素粒子で開くには引力干渉と地殻プレートのゆがみが合致する瞬間しかないそうだ。

 しかもここで生成を行ったところでワームホールの入口と出口はコントロールできないらしく、地球が選んだランダムな点とその対蹠点に現れるのでエルリカ本人にしても、どこに開いたのかは後から知ることになるそうだ。

 

「だとしても、おれが落ちたワームホールの入口は別の地球だったわけじゃないか。なんでこの地球じゃないんだ?」

 

「2年前のあの時、誰かがワームホールに入ることを強くイメージしてみた。境界面にソルベレの波動があることは予測できていたから、入ったその誰かのミトコンドリアが変異すれば循環因果の成立条件が整うと考えたわけだ。そしてお前が来たんだハナダミツル。そしてお前は間違いなく訓練を乗り越えてワームホールを開く」

 

 途中からなにを言っているのかわからなかった。とにかく目の前のこの女がおれをこの場所に呼び寄せたというのはわかった。とんでもないことに巻き込みやがってと文句を言いたいところだったが、なんか訓練を乗り越えられるとか言われたら怒れないじゃないか。それでも一つ気になることがあったから尋ねてみる。

 

「その素粒子の波動っていうのを受ければ誰でもミトコンドリアが変異するのか?」

 

「いや、そういうわけじゃない。量子共鳴しやすい性質がなければ変異は起きない。そもそもミトコンドリアDNAの変異というのは強烈な放射線でも浴びなければ起きない現象で、遺伝子が破壊し尽くされてもおかしくはない。だからもしかすると変異させているのは波動ではないのかもしれないが、まあ、解明するのは難しいな」

 

「そうなのか。で、量子共鳴しやすい性質っていうのはなんだ?おれがそうなのか?」

 

「ああ、未分化な胎児や子供がそれに該当するのだが、お前の精神構造は年齢の割に柔軟だ。お前、常識や現実を土台とせずに自身の仮説と想像で世界を生きているだろう?だからそれが量子共鳴したということだ」

 

「おれの精神年齢が胎児並みで、自分の思い込みだけで生きてるって酷くないか?」

 

「気を悪くしないで聞いて欲しいんだが、お前のような量子共鳴しやすい大人を指し示す言葉を私は知っている。ワナビーとか中二病とか呼ばれている人種だ」

 

 まじか!おれ向こうの世界で唯一の選ばれし中二病だったのか!!

 ぜんぜん誇らしくない!ただただ恥ずかしいだけ!

 いや、まあ自覚がないわけでもないけれど、そんなにかよ…

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