結ぶと解く   作:ながずぼん

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最終章【帰還編】
第233話 記憶と下山


 短距離ワームホールの課題をクリアしたら後頭部のダメージのこともあり、一日中ベッドでごろごろしながらエルリカと他愛もないお喋りをして過ごした。

 日もすっかり暮れて夕食の時間になると、エルリカは外で肉と芋を焼いて持って来てくれた。すっかりVIP待遇だがメニューはポンコツのままだ。

 

 飯も食い終わり、もう頭も痛くないということで彼女がおれの記憶を覗くことになった。おれがするのは自動防御を認識してトランス状態になって受け入れること。

 トランス状態になると偏桃体の働きが弱まってセキュリティが弱くなるらしい。

 

 「いつもでいいよ」そう声を掛けてトランス状態になる。エルリカはなんとなく頭の上に手を翳して能力を発動させているっぽい。時折視界に白い光がパチッと弾けることはあるが、作業は概ね順調そうだった。

 記憶を読まれている間ヒマだったので人間を波チャンネルで見たらどうなるのか、試しにエルリカのことを見てみると、人の形をした光の塊だった。

 そしてそこに接続する光の筋がいくつかあって彼女に繋がる太い筋にぐちゃぐちゃに絡まっていた。人間関係とかしがらみとか運命とか、そんなようなものに感じた。

 そうこうしているうちにエルリカの読み取りは終わったようだ。

 

 始める前まで乙女な顔を向けてきていたが、今度は困った笑顔を向けている。

 

「どうした?もしかしてうまくいかなかったのか?」

 

「ふっ。私は恐れていたのだ記憶を全て読み込んだときに深い理解をすると深い愛情が芽生えてしまうのではないかと。独占欲や嫉妬という醜い感情に支配されるのではないかと。だがどうだ、お前の全てを知っても私はなんともないぞ!」

 

 なんだこれ。遠回しに魅力がないって言われてんじゃねえのこれ?

 

「ああ、そうか。それはよかった。お前に愛されても応えられないからな」

 

「ははは。大丈夫だ、安心しろ。お前は大した奴で愛すべき人物だが、罷り間違ってもお前と添い遂げたいなどとは思わないからな!いやあ、よかった」

 

 あの、地味に嫌な気持ちになるんでもうそのへんで止めてもらえますかね…

 

「それで、おれの記憶であっちの世界へ出口の座標は固定できそうなのか?」

 

「初めての操作になるが問題ない。選択的エンタングルメントに必要な情報は十分すぎるほど得られたからな。それでお前はどこから元の世界に戻るつもりなのだ?」

 

「いや、それ相談なんだけど、こっちの世界の地元でワームホールを開くとするじゃん?で、それを行き来できるゲートみたいな感じで固定できないものかなって」

 

「理論上はできるぞ。それも試したことがないが、おそらく可能だ。ということはこちらの世界で日本のおまえが暮らしていた街へ行く必要があるということか?」

 

「ああ、だからアサガオさんに会うことになる。おまえ彼女のこと恨んでるのか?」

 

「は?あの女のことなどどうとも思っていない。血の繋がった他人だ」

 

「そうか。アサガオさんはおまえに会って言いたいことがあるみたいだからさ、話ぐらい聞いてやってくれ」

 

 エルリカは返事をせず小さく頷くだけだった。顔色を覗ってみたけれどよくわからなかった。強いて言えば困惑している感じがしなくもない、という表情だった。

 

 そこでさっきの光の筋の話をした。あれが量子もつれってやつじゃないのかと。

 千切れたんじゃなくて他と絡まっているみたいだけど解くか尋ねると「いや、いい」とそっけない返事だった。本人がそういう言うならこれ以上は何も言うまい。

 

―――――

 

 翌朝、荷物をまとめてリュックを背負い、エルリカの棲み処を後にする。

 秘密の階段がどれほど便利なのか楽しみだ。あっという間に麓に着いたりして。

 

 確かに階段は便利だけど、来たときと同じように足場が悪すぎて思っていたのと違う!木の根っことか捕まりながらじゃないとなかなか降りるのは難しいし、なによりエルリカの容赦ない歩くスピードが酷い。きつくてもヨハンソンやアドラさんに励まされて登って来た往路のほうがよっぽどマシだ。

 

 長い長い階段を降りて踊り場からジャングルの中を歩き、また階段をずっと降りて、湧き水がばしゃばしゃと湧き出ている泥の中を歩き、また長い階段を降りると木の根と転がってきたような岩がごろごろしているところを早足で歩いていく。

 最後に木の枝をかき分けながら獣道を進むと黄色い鉄の柵が見えてくる。あれは植物園の駐車場の先にあった恐竜映画のゲートだったはず。

 

 肩で息を切らしながらエルリカに車はあるのか尋ねると、そんなものはないが誰かが通りかかれば乗せてくれると言う。こいつ貴族がどうとか言ってなかったか?

 

 ひとまず植物園の駐車場で休憩をしてから街まで歩いて移動することにする。

 舗装路を歩き始めると人類の土木工事万歳!というぐらいには歩きやすかった。

 

「なあエルリカ。おれは帰りのチケット持っているけど、おまえどうやって日本まで行くつもりなの?」

 

「いつも通り便宜を図ってもらうつもりだ。一人分ぐらい座席は余っているだろう」

 

 正規の手続きに拘るつもりはないがこういう事例があるからイチカワさんみたいな連中が目くじら立てるんだろう。せめてパスポートぐらい持っておいたほうがいいんじゃないのか。とはいえ今更ドイツで発給してくれるとは思えないけれど。

 ハナザワさんには頼みやすいけどイチカワさんの件もあるし、これ以上日本に魔女を迎え入れるのは難しいかな。

 となると、ヨハンソンかアドラさん経由で政府筋に働きかけてって感じか?

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