ヨハンソンたちが乗ってきたレンタカーに乗せてもらいシーフードレストランへ。
立派なコメダ珈琲みたいな外観で、内装も木をふんだんに使った内装のレストランだった。6人は座れそうな席に案内される。メニューを眺めてもよくわからなかったのでヨハンソンにお任せした。アドラさんもエルリカさんも右へ倣えだった。
それぞれに店の定番メニューと思わしき料理が運ばれてきた。ラインナップ的には揚げ物が多かった。おれは魚のフライにマカダミアナッツを砕いたものが乗ってるやつだった。他にはシーフードカレーみたいなやつ、エビフライっぽいもの、紫色のソースがかかったリブステーキ、どれも美味しそうだった。
特にシェアもせずみんな目の前の料理に手を付けるとヨハンソンが口を開く。
「それで、ハナダさんは私のことをどう思っているんですか?」
その問いはおれにではなくエルリカに向けられたものだった。
「お前には敬意と友情そんな感じだな。ただ性的な関係を迫られるのは嫌なようだ」
それを聞いたアドラさんがスプーンをカタンと皿に落とし、その手があったか!という顔でエルリカを見つめている。
「わ、私はどうだ?おい、ミツルは私のことをどう思っているんだ?」
「お前も同じようなものだ敬意と友情。あとほんのり恋心といった感じか」
それを聞いてアドラさんはガタンと音を立てて立ち上り、ヨハンソンに全力でドヤ顔を向けている。彼は思ったよりダメージがでかいようで下を向いてしまった。
「おまえは、おまえ自身のことをミツルはどう思っているんだ?恋心はあるのか?」
「そうだな。崇拝と羨望。そして性的な魅力に抗えずに悶々と自重しているな」
エルリカ様の自画自賛に噴き出してマカダミアナッツが鼻の中に入り込んだ。
すぐに紙ナプキンで鼻をかんで取り出して事なきを得られてよかった。
「全部おまえの作り話じゃねえかよ。よくもいけしゃあしゃあと崇拝と羨望だなんて言えたもんだな。なにが悶々と自重だよ、適当言うのもたいがいにしとけ」
「ふっ。座標のための記憶は確かに見たがそれに付随する感情までは読み取らなかった。この男の感情はなかなかに複雑で絶えず相反しているし、3つ目の感情がある場合もあったから読み取るのが面倒でな。さっきのはたぶんこうだろうなという想定で話したまでだ。あながち間違ってないと思うが?」
「おれのおまえに対する感情は『このババアひたすらめんどくせえな』だよ!ちょっとしおらしくなったと思ったら見栄張りやがって、まったく…。おれのこと面倒くさいって言うおまえもたいがいだからな!」
でもこの一件でヨハンソンもアドラさんもエルリカに対する警戒心が完全に消えたっぽかった。アサガオさんもそうだけど”なんかそういう人”という括りで接すればいいんだという教訓になったようだ。基本的に害意は持っていないし。
食事が済んだら貸別荘までヨハンソンに送ってもらった。二人はホテルを取っているらしく、また明日の朝来るといって帰っていった。
―――――
翌日から4人で海遊びをしたり、別荘の前の川でカヌーに乗ったりして遊んだ。
わかっていたことだけど、おれだけやたら身体能力が低かった。エルリカは様々な面でアドラ軍曹と同じレベルの体力があり、二人はすっかり仲良くなっていた。
また、エルリカがさんざん見てきた武力闘争や暴動の知見からテロリストたちの思考や次の一手に関する話を聞いていて、その点では二人からすっかり先生みたいな扱いを受けていた。
おれはそのへん蚊帳の外だったけれど、二人が出世できるといいなと思って孫を見るじいじの眼差しで様子を眺めていた。
そしていよいよ帰国の日となる。ホノルルから羽田までのエルリカのチケットはヨハンソンの根回しで同じ便を確保できていたので、ひとまずリフエ空港へ向かう。
リフエ空港からホノルル国際空港まではヨハンソンもアドラさんも一緒の便でついてきてくれた。
ホノルル空港に着くと、チェックインカウンターでチケットを受け取り荷物を預ける。その後の保安検査に向かう前にヨハンソンとアドラさんとのお別れになる。
「二人とも、ボルチモアからずっと助けてくれてありがとう。エルリカに聞いたらワームホールは行き来できるゲートにできるみたいだから、またいつか会えると思う。だからさよならじゃなくて、またね、だよ」
そう言うとヨハンソンが前に出てぎゅっとハグをしてきた。
そしていつものように唇を奪いに来るが、ここでおれは避けなかった。
彼の気持ちを一回ぐらい受け取るのが筋だと思った。
避けられるものだと思っていたからなのか、本当に軽いキスだった。
顔が離れたとき、ヨハンソンはめちゃくちゃびっくりした顔をしていた。そしてもう一度ぎゅっとハグをすると耳元で「そういうところですよ」と言われた。
次にアドラさんと向かい合い、照れながらハグをすると頬に軽いキスをされたのでお返しにおれも頬にキスをした。彼女は少し照れた顔をして「次に会えたら私が唇です」と言って笑った。そしてもう一度ぎゅっとハグをしてお別れを済ませた。
エルリカも二人にハグをされて慣れてない感じで背中をぽんぽんしていた。
二人に何度も手を振り保安検査場を通過して搭乗ゲートへ。アメリカ人となったエルリカは係員を見つめることなく真新しいパスポートで検査場を通過していた。
羽田行きの飛行機は2-3-2の座席配置でおれは割と後ろの方の窓際の席だった。エルリカは真ん中あたりの中央の席だった。
飛行機が滑走路を轟音を立てて加速して空中に飛び立ったとき、日本を発つ前にびっしゃびしゃに泣いてお別れきてきたのにバツが悪いなと苦笑いをしながら地元のみんなの顔を思い出していた。永遠のはずが1ケ月ぽっちのお別れになってしまった。
復路では機内食を食べ映画を観て寝て過ごした。到着したら日本は夜だけど向こうで眠れるかな…。まあ、日本だしなんとでもなるか。