無事、羽田空港に着陸すると入国審査を抜けたところでエルリカと合流して一緒に荷物を受け取りに向かう。この日はさっと荷物が出てきてひやひやしなくて済んだ。
到着ロビーに出たところで夏服のままではいられなくなったのでお互いトイレで着替えることにした。スーツケースからセーターとパンダのスカジャンを引っ張り出して着る。下はジーンズなので履き替える必要なし。
もう一度エルリカと合流したら例の緑色のレインコートを着ていた。
空港を出たとき21時近かったのでもう高速バスには乗れず、ホテルに泊まって明日帰るのが普通なんだろうけど飛行機で寝てきてそれほど疲れてなかったので、レンタカーを借りて今夜のうちに地元まで移動してしまうことにした。
第2ターミナルまで移動してレンタカー屋へ行き、ワンウェィで借りられるか確認してクルコン付きの車がいいというと、小型には付いていないので付いているもので一番安いのはこれと勧められたのはBMWのセダンだった。
普通に右ハンドルだったのでそれを24時間で借りた。
さっそく荷物を積み込みエルリカを助手席に乗せたら平和島まで走り、あとは環七で北上して永福から首都高4号線に乗る。
オートクルーズコントロールで中央道を快適に移動しながら助手席のエルリカにちらりと目をやるとにグウグウ寝ていた。飛行機で眠れなかったのかな。
23時頃、双葉サービスエリアに寄ってトイレを済ませ、師匠に連絡をする。
まだ起きていたようですぐに繋がった。
「遅くにすみません。不躾で申し訳ないのですがちょっとお願いがありまして」
「お久しぶりです、ご無事でしたか。その様子だと一度日本へ戻られたのですか?」
「ええ、いまエルリカと一緒にそっちへ向かっているんですが、コタツで構わないんで泊めてもらえないかと」
「えっ… ちょ、ちょっとお待ちくださいね、いま電話代わりますから」
師匠はそう言ってごにょごにょとアサガオさんに相談している声が漏れ聞こえる。
「ちょっとあなた!いきなりにも程があるわよ!それでエルリカはここへ来ることを知っているの?まさか説明もせずに連れてきてるんじゃないわよね?」
「あー、グウグウ寝てるんでまだ言えてないです。東京で一泊するより早く顔合わせた方がいいかなと思って。今夜はとりあえずエルリカだけそこで寝かせてもらって、また明日改めておれもお邪魔しようと思ってて」
「あなた、そんな厄介払いみたいな扱い酷いじゃない!それにもしも暴れ始めたら誰が止めてくれるのよ。あの子に雷なんか放れたら相手にならないじゃないの」
アサガオさんの中のエルリカ像がどんなものかだいたい想像できた。あの人にしては心配しすぎなのがおかしくて笑いを堪えられなかった。
「あははは、喧嘩になんかならないですよ。彼女は怒ってないし恨んでもないですよ。その代わり感動の再会にはなりそうもないですけど」
「そ、そうなの?あの子、私のこと嫌ってない?会うなり火の玉で焼かれない?」
「そんなだったら連れて行きませんよ。夜中で申し訳ないですけどゆっくり母娘で話してください。あと1時間半ぐらいで着くと思うんで、よろしくお願いします」
「わかったわ。私とタダヒトさんがコタツで寝て、あの子にベッド使わせるわ。ありがとう、気を付けて来てね」
最後は嬉しそうな声でお礼を言われた。アサガオさんの世話焼きが空回りするのが想像に難くないけれど、エルリカだって少しは歩み寄るかもしれないし。
次にクスメギに連絡をする。まだ店で働いている時間だから忙しくて電話に出てくれないかもしれない。と思ったらすぐに繋がった。
「どうした!?もう元の世界から戻って来たのか?家族に会えたのか?」
おれからの連絡にクスメギは驚きすぎたのか気の早いことを言っている。
「そうじゃねえよ。ハワイの修行が終わったから帰る準備をしてんだよ。で、もうホテル取れないからおまえのマンションに泊めてもらおうと思って連絡したんだよ」
「は?そうなの?別に泊めるのは構わないけど、いまどこにいるんだよ」
「双葉SAだよ。羽田で車借りてそっち向かってる。ちょうど店終わりぐらいに着くけど用事すませてからだから合流できるの1時過ぎるかも」
店の片付けをすれば上りが1時近くになるらしく合流時間も問題ないとのこと。
ひとまず寝る場所は確保できた。あとはエルリカに今夜の説明をして明日の午後からワームホールをどこで繋げるか相談するって言えばいいかな。
車に戻るとエルリカは目を覚まして助手席にちんまり座っていた。
「トイレか?やけに遅かったな」
「ああ、うん。それでさ、今夜寝る場所なんだけどアサガオさんの家に泊めてもらうようにお願いしたから。別に恨みとかないんだよね?」
「前にも言ったがなんとも思っていない。それであの女はそれを了承したのか?」
「うん。おまえに会えるのをすごく楽しみにしているみたいだ。優しくしてあげないと泣いちゃうかもしれないぞ?」
「ふん、勝手に出て行った女が泣こうが喚こうが一向に構わない」
車を発進させながらエルリカの顔色をチラ見してみたが、内心どう思っているのかは窺い知れなかった。でも嫌な奴の家に泊まってもいいなんて思わないだろう。
双葉SAを出て少ししたあたりでエルリカから話し掛けてきた。
「それでお前もあの女の家に泊まるのか?」
「ん?おれは別だよ。100何年ぶりかの再会なんだから恥ずかしがらずに甘えろよ」
「だから…、まあいい。それでワームホールはいつ開くのだ?まだ戻らないのか?」
「あー、それな。ただ戻るだけならワイアレアレでよかったんだけど、ゲートにできそうだって話なら使いやすくて目立たない場所を探さないとだろ?だから明日の午後にそっちに行くから一緒にどこがいいか探すの手伝って欲しいんだよ」
「なるほどな。確かに出口座標に物質がある場合はそれが障壁となって私たちが通れない可能性はある。最悪、情報構造の再構築ができず粒子となって消滅してしまう可能性すらあるな」
「まじか!じゃあ余計に一緒に見て回らないと無理じゃん。それにしても消滅って…さらっと言うなよ。怖いよ」
ゲートを設置するのに相応しい場所が見つかるまでは地元に滞在することになりそうだ。こっちの世界でもあっちの世界でも管理できそうな場所ってどこだ?