結ぶと解く   作:ながずぼん

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第23話 住居と会議

 今夜から寝泊りすることになっている本郷のマンションへ。

 着替え数着とノートPCぐらいしか荷物がないので引っ越し感がまるでない。

 

 昨夜のホテルから想像するにさぞ立派なマンションなのだろうと期待していたが、学生が住んでいそうな1DKの部屋だった。誰でも廊下に入れるし鍵も普通のもの。

 びっくりするほど脆弱なセキュリティレベルをどう解釈すればいいのだろうか。

 部屋に入り一通り設備関係の使い方を教えてもらう。別に特殊なものはない。

 

「説明は以上です。なにかあれば連絡をください。明日の9時にサクラザワが迎えに来ますので一緒に病院まで行ってください。それから今夜もなるべく外出は控えてください。買い出すものがあればこの後サクラザワと一緒にお願いします。では私はこれで」

 

 また面倒事はサクラさんに押付けるように言ってマツモトさんは帰っていった。

 

「ところでサクラさんていつまで日本に滞在するんですか?もしかして世話してくれる人ってサクラさんなんですか?」

 

「わたしではないですよ。今週の金曜まで付き添いで土曜からは有給です。来週の水曜に発つ予定なのでそれまでは都内の実家で過ごします」

 

 顔合わせとか引継ぎとかない感じなのかな。おれ、どういう扱いなんだろうか。

 そんなことより週末は奥さんの実家へ行きたいけれど、あまり知らない人と行くのは気が進まない。かといって一人で出歩くと万が一が怖い。

 

 土曜日に奥さんの実家まで一緒に行って欲しいと伝えると、サクラさんは二つ返事で了承してくれた。上野のあたりで待ち合わせでいいかと思ったが人混みはまずいとのことで、午前中に迎えに来てくれることになった。

 と、ここでお互いの電話番号を知らないことに気が付いて番号を交換した。

 「休日はこっちの番号に」と言ってプライベートの携帯番号も教えてくれたのでそっちも登録した。

 

―――――――

 

 翌朝9時に出かける支度を済ませて迎えを待っているとドアがノックされた。

 覗き穴から確認するとサクラさんがいた。

 ドアを開けて挨拶を交わし、徒歩で大学の理学部へ向かう。

 

「ところでサクラさんて護身術とかそういうの習っていたりするんですか?」

 

「えっ?わたしそういうの何もしていませんよ。そんなふうに見えます?」

 

「えっ?じゃあ暴漢に襲われたりしたらヤバくないですか?」

 

「全力で走って逃げます。逃走経路は頭に入っているので捕まる前に逃げ切ります」

 

 これまじで危ない感じしかしないんだけど。しかも狙われてるのあなたじゃなくおれなんだが。さらにマズいことにおれは足が早い方ではない。

 なんで護衛外したかな。金がかかるからか?

 

 キョロキョロと周囲に怪しい奴がいないか警戒しつつ大学へ到着する。

 昨日行った理学部の教室へ入ると、到着が早かったのか人はまばら。アズマ教授の姿はなかったがウチヤマさんはもう来ていたので挨拶をする。

 

 アズマ教授は病院で昨日の検査結果を確認してからこちらに来るようだ。

 昨日の会議では大して役に立っていないと思ったので、あんな感じで大丈夫なのか尋ねると、おれにとっては些細な情報でも研究者にしてみれば謎を解く鍵になったりもするので体験したことをそのまま伝えてくれればいいと励まされた。

 

「ちなみにいつからワームホールの痕跡を追いかけているんですか?本当におれ以外の人間が通過した形跡もないんです?」

 

「十二年ほど前に最初の痕跡を発見したのがアズマ教授で、それ以来一緒に研究をしています。ハナダさんのような方はこれまでに確認できていません。まず目撃することすら奇跡的ですし、生身で接触して生きている事実がこれまでの理論を覆しています」

 

「えっと、おれの話はさておき、見つけたのは教授だったんですか。最初は偶然発見したってことなんですよね、最初なんだから」

 

「そういえばどんな目的で磁力や放射線を観測していたのかはっきり聞いたことがないですね。観測データから推測するにワームホールのようだけど一緒に検証しないかと誘われて。その頃は助教で大して研究費も獲得できていなかったので補佐することにしました」

 

 師弟関係にしては余所余所しいというか他人行儀な感じはあったが、一人親方がフリーランスに外注した感じだった。なんかアズマ教授ってぼっち感あるもんな。

 

 

 そんなことを喋っているうちにだんだんと人が集まってきて会議が始まる。

 座長のおじいちゃんの仕切りで今日は最初から分科会方式で始まった。

 

 幕開け「出口と入口での『物理定数』に違いはありましたか?」と訊かれ「ごめんなさい、質問の意味がわかりません、理科が苦手で…」と恥を晒すことになる。

 「光速や重力定数など場所によって変わる可能性があるのですが、入る時と出る時でそういったものの違いは?」と丁寧に説明されたが「地上で落ちて出たのが海の中なので体感が違い過ぎてわからないです」と答えた。

 「ああ、光の屈折はどうでしたか」と改めて質問されて「とにかく真っ暗だった」と答えると、違うのかーという感じで学者さんは腕組みをして考え込む。

 

 数十分おきに、あっちに呼ばれこっちに呼ばれ、昨日と似たような話をしているうちに昼になった。

 

 昼食後も午前の続き。一つのグループがホワイトボードに数式を書き始めていた。

 そうなってくるとおれの出番はなく、しばらく手持ち無沙汰な置物になっているところへアズマ教授がやってきて帰っていいと解放してくれた。

 

 これ来週もこんな感じなのかな。おれがいる必要あるのかな。

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