結ぶと解く   作:ながずぼん

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第240話 一宿と相談

 マンションの駐車場はクスメギのセダンが停めてあるから少し離れたところの大きめの病院の第二駐車場へ車を停めることにして3人でおれの車で移動する。2人を先に降ろしたら車を停めて歩いてマンションに向かう。通報されないことを祈る。

 部屋のインターフォンを押したら「どうぞー」とアヤさんの声がして中に入る。

 クスメギはすでにキッチンに立っていて「適当に座って待ってろ」と言われ、リビングのソファに座ると、部屋着に着替えたアヤさんがやって来て隣に座った。

 

「私だけ先に聞いちゃうと同じ話をすることになるかもしれないけれど、それでどうなの?帰れそうなの?その、元の世界には」

 

 クスメギを気遣ってかアヤさんは小声でそう尋ねてきた。

 

「うん。2週間ぐらい絶望してたけど、なんとかなりそうだよ。実験も成功したみたいだったし。今回は向こうと繋げる場所を探しに来たんだよ」

 

「そう、よかった。寂しくなるけどハナちゃんを待ってる家族がいるのだもんね」

 

「それがそうでもないっていうか、まあ、後で言うけど、寂しくはならないと思う」

 

 そう言うとアヤさんは頭の上に?マークを乗っけて次の言葉を待っていたが「そこはあいつと一緒に聞いてもらいたいから」と言ってゲート化のことは一旦伏せた。

 少しして「出来たぞ」と声がかかり、3人で至高の手料理を囲む。

 

 さっと作った割にはまあまあ立派な夜食が始まる。メインの麻婆豆腐を一口食べたときに、こいつ短期間で腕を上げてやがる!と驚くぐらいには美味かった。

 

「それでハワイの修行はどうだったんだ?海の水を干上がらせたって言われても驚かねえけどな。そもそもマルチバース同士を繋げちまうんだから」

 

「あー、まあそういう意味じゃ、エルリカの方がよっぽど大魔法使いだったな」

 

 そう前置きをしてエルリカとの魔法バトルの話を聞かせるとクスメギがめちゃくちゃ興奮して「まじか!」と連呼していた。訳知り顔のこいつにも男の子なところが残っていたようだ。アヤさんは「そんなことができるのね」と感心するだけだった。

 その後で情報構造とか干渉縞とかの話をしたのだけれど、全部を理解しているわけではないので「とにかくそういうことらしい」としか言えなかった。

 空間の情報構造がずっと見えずに自暴自棄になりかけていたと言うと「だろうな。俺だってよくわからねえよ」とクスメギでも理解できない話だったらしく、当たり前に見えるだろと言ってきたエルリカのことをダメな先生だと言った。

 

 「それで、さっきの寂しくないっていうのはどういうことなの?」とアヤさんに訊かれ「どうやらワームホールはゲート化できるらしいんだよね」と返すと、クスメギは「それ本当なのか?」とすぐ反応していたがアヤさんは意味がわからないみたいだったので「行ったり来たりできる扉が設置できるみたいなんだ」と補足すると「えっ!」とめちゃくちゃ驚いた顔をしていた。

 

「じゃあいつでも会えるってことになるの?私たちももう一つの世界へ行けるのかしら… あっ、でも向こうにもう一人の私がいたらどうしたら…」

 

「ワームホールは設置できる目処はついたけど、中に入って移動するのはこれからだから、誰でも簡単に渡れるのかはわからないんだ。おれは一回経験してるから大丈夫な気がするけど他の人までは。明日またエルリカに会うから聞いてみるよ」

 

「それで、どこから元の世界に戻るんだ?ゲートを開けたままにするなら人目のつかないところに設置することになるんだろうけど」

 

「それなんだよ。全然いい案が浮かばなくてさ。それの相談をしようと思ってとりあえず戻ってきたんだよ。どこかいい所知らない?人が寄り付かないような場所。あんまり山の中だと向こうに出てからが大変だから、できれば近くがいいんだけど」

 

「うーん、俺はこの土地のことまだよく知らないからなあ」

 

「そうねえ。人が来ないけど街に近い場所ってなると難しいわね」

 

「なんか思いついたら教えてよ。決まるまではホテルに泊まっているからさ」

 

 夜食を食べながらひとしきり人気のない場所について1時間ぐらいしたところで寝ることになる。普段、二人は別々のベッドで寝ているらしいのだが、クスメギの使っているベッドのマットレスと布団を借りてリビングに運び込んだ。

 突然押し掛けて申し訳ない気持ちがあったのだが、二人が妙にソワソワした空気を醸し出しているので謝る気になれなかった。好きにすればいいけどお願いだからギイギイ音を立てないで欲しい。飛行機で寝ちゃってるからあんまり眠くないし。

 

―――――

 

 妙な物音も声も聞こえることもなく、おまけに布団に入ったらすんなり眠れた。

 カタカタと食器の擦れる音が聞こえて目が覚める。

 ジューとなにかが焼ける音も聞こえ、朝食かなにかを作っているようだった。

 起き上がってキッチンの方を見るとすっぴんのアヤさんと目が合った。メーテルは化粧を落としてもメーテルだった。

 

 「おはよう、ハナちゃん。珈琲飲む?」と尋ねられ「あ、いただきます」と返事をしてベッドから起き出してダイニングに座る。珈琲を渡されたときに「なにか食べる?」と訊かれたが昨夜の麻婆豆腐が消化しきれていない感じだったので遠慮した。

 クスメギはいつももう1時間ぐらい起きて来ないらしい。

 

「ねえハナちゃん、そのワームホール?っていうのは時間も好きにできるものなの?ほら、あなたはこっちの世界で2年暮らしていたじゃない?あっちの世界に戻ったときにも2年経過しているのかしら?それとも元の時間に戻れるの?」

 

「それはできないって聞いた。ただ場所と場所を繋ぐものだから時間の流れはいじれないみたい。働けなくなったときにすぐに事務所の土地と建物を処分できるように奥さんの名義にしてあるから、会社を解散させてそれで食い繋いでくれてると思う」

 

 とはいえ3人で2年間も生活できるほどの金にはならない。苦労しているはずだ。

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