結ぶと解く   作:ながずぼん

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第243話 往復と出口

 アサガオさんからの無茶振りをエルリカは拒否するものだと思っていたが…

 

「そのぐらいの協力はしてやろう。お前がこちらへ来る原因となったのは私なのだから説明責任も果たす義務があるだろう。娘のことは黙っておいてやるから感謝しろ」

 

 平気で能力を使おうとしてるし、一番やべえやつの頭から燃料ぶっかけているし。

 

「娘?ねえねえ娘ってどういうこと?彼に娘がいるの?こっちの世界に?誰の子?」

 

 ほらほらぼんぼん燃えてるよ…。つうかクスメギがちょうニヤニヤしているのがむかつく。おまえこの面子に囲まれるとすっかりモブのくせに!

 ナポリタンを食べる手を止めて、一言「ボルチモアのときの子です」と白状した。

 アサガオさんにはそれで充分だった。あらー、とすごくいやらしい顔をしている。

 

「娘のことはさておき、向こうの世界の出口を考えなくちゃいけないんですよ。こっちの世界の入口はどこでもいいっていうか、もしゲート化するにしてもここの誰かに管理してもらえばいいと思ってるんだけど、あっちは人に見られたら詰むんで」

 

「あんたそんなふうに考えていたのか。だったらこっちの入口はうちの会社で適当な倉庫かなにか用意してやるよ」

 

「ねえ、それだったら一回向こうに渡って、それからあなたが管理できる場所からもう一度、その倉庫に繋げてそれをゲート化すればいいじゃない」

 

 確かに。そのやり方なら向こうでおれしか知らない場所に入口が設置できる。こっちの出口もエルリカが把握していれば座標設定は容易なはず。ただ、そんなにほいほいワームホールって開けられるもんなのか?あの光の樹氷みたいなのに頻繁に溶けるの危ない気がするんだけど…

 

「あの空間の情報構造に溶けるの戻って来れるのか心配になるんだけど、そんな何回もやって大丈夫だと思うか?実験のときもまあまあ怪しい感じだったけど」

 

「私が全力で引き戻してやる。あの状態は自動防御が甘くはなっているが完全に停止しているわけではないからな。偏桃体に危機であると認識させれば自我が戻るだろう」

 

「ねえ、せっかくクスメギさんが倉庫を用意してくれるってお話に水を差すようで申し訳ないのだけど、私からも一つ提案してもいいかしら」

 

 アサガオさんがそう言って切り出したのは、彼女たちの引っ越し先にゲートを設置するというものだった。曰く、やっぱり歳を取った状態で3階までの階段の上り下りはしんどいらしく、平屋の戸建てに引っ越しを検討しているのだそうだ。

 喫茶店営業は続けたいみたいなので、徒歩通勤圏内の平屋をここ最近は見て回っているらしい。それにエルリカが滞在できるような部屋も欲しいと今朝思ったそうで。

 

「でしたら住むところはいい所を探してもらって、ここの3階はうちの会社で借りるというのはどうです?そこにゲートがあれば普段お二人はここにいるわけだし」

 

 クスメギがさらに妙案を出してきて皆が賛成する。こいつモブじゃなかった!

 

 お昼ご飯を食べ終わったら皆で片付けをして三手に別れてそれぞれの手配をする。

 おれとエルリカは車に乗って、ひとまずの出口になる場所をロケハンする。

 クスメギとアヤさんはビルの大家さんに賃貸契約の変更手続きの下話を。

 アサガオさんと師匠は不動産屋へ行き引っ越し先を探す。この二人が納得できる物件がすんなり見つかればいいのだけど、そうそう条件に合うところはないかも。

 

―――――

 

 車で自宅から西北方面の山へ向かい道が終わる手前にある神社まで行く。神社とはいってもちょっとした広場に小屋のようなものがあるだけ。ここに人が来てなにかをしている覚えがない。歩きだと自宅まで1時間程度かかるが、向こうの世界に出現するには民家からこのぐらいの距離は離れておきたい。

 あとは不思議現象を目撃されても神社とか宗教施設の周りなら誤魔化せそうだし。

 

「どうだ?ここの神社、出口座標に使えそうか?」

 

「いや、ちょっと記憶が曖昧だな。もう少し印象深い場所はないのか」

 

 この程度の記憶の強さでは厳しいようだったので、もう少し馴染みのあるというか何度か行っているような場所の方が良さそうだった。車に乗り込み移動する。

 次の候補として向かったのはもう少し大きい神社。初詣にも何回か行ったし小学校や中学校からも近くて家に近い。夜なら誰にも見られないはずなのでいけるはず。

 だがここも印象が薄くて座標設定は難しいようだった。

 そんな程度の記憶ではダメだということなら、もっと頻繁に行ったことのある場所へ行くしかない。見られるリスクは上がるけれどいまさら記憶は強化できないし。

 

 よく行ったスーパーの屋上駐車場や高速バスの停留所の下のボックスの中、何度かBBQをした芝生の公園、ガソリンスタンドに併設する洗車場の拭き取りスペース、こっちの世界でも行った美術博物館の屋上、そのどれもが記憶が曖昧らしい。

 すっかり陽も傾いてあと1箇所ぐらいしか回れそうになかったので自宅へ向かう。

 

 自宅の隣にある材木置き場の駐車スペースへ車を停め、ここならどうかと尋ねると間違いなく特定できるとのことだった。ワイアレアレ山でワームホールを開いたときに発光したり空間が裂けるような衝撃音のようなものは出たのか確認すると、音もなく黒い穴が出現したということだったので、多少のリスクはあるけれど深夜に自宅の隣へワームホールで帰還することにした。

 

 それぞれの進捗を報告するために喫茶店に戻るとすでに皆は揃っていた。

 クスメギたちは大家さんに会えて何の問題もなく契約の変更ができそうだということだった。

 アサガオさんたちは歩いて5分程度のところに既に物件を見つけていたらしく、さっき内覧をしてきて明日、売買契約を交わすことになったそうだ。資料を見せてもらうと、両側を4階建てのビルに挟まれる格好のその家は道から見れば平屋だけど、家の裏側の地面が一段下がっているから実際は2階建てという庭付き一戸建てだった。

 みんなの話を先に聞いて報告が最後になったおれは、自宅付近以外に選択肢がないようだから決行は夜中になると言うと、目処が立ってよかったと言ってくれた。

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