結ぶと解く   作:ながずぼん

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第246話 完成と餞別

 予定通りに図面のアップから一ケ月で改装工事は終わった。最後の最後に造園屋さんが庭にブナの苗木を植えて全ての工事が終わった。

 匠が出てくる番組のようにアサガオさんたちは改装中の現場に一度も見に来なかった。もしかしたら外観すらお楽しみにするために目の前の道は歩かなかったぐらい徹底して情報封鎖していたのかもしれない。おれも工事中一度も会ってないし。

 

 引き渡しの予定の時間に二人は連れ立って新居にやってきた。

 見違えるようになった正面ファサードを見て師匠は「ほおー」と感嘆の声を漏らしていた。アサガオさんの表情から何を思っているのかは窺い知れなかった。

 二人についてきたエルリカも同様で、あいつも何を考えているのかわからない。

 本当は木の玄関ドアにしたかったけれどこの辺りは準防火地域なのでアルミドアに木目の柄が入ったもので妥協した。ぱっと見は木のドアに見えなくもない。

 

 家の中に入るとすぐに天井までの木製建具でLDKとの仕切りにしてある。寒さ対策と訪問者の視線を切るために。それを開けて中に入れば京都の小屋を再現したLDKに。ここでアサガオさんの目が見開かれる。師匠も驚いて口を開けている。

 京都の家のダイニングテーブルはたぶんケヤキだったと思うのだけど、南木曾の工房にお願いしてトチの木でギリギリ6人座れるテーブルを納めてもらった。

 キッチンはハードユース重視で厨房用のステンレス製品にしてある。ちなみにコンロは普通のやつの隣にドラゴンバーナーの超高火力仕様を一つ追加してある。

 風呂はハーフユニットにして桧張り。脱衣側はガラス張り。トイレは最新のやつ。

 寝室は6帖ちょっと欠けるぐらいにクイーンサイズのベッドをどかんと入れた。

 

 LDKの奥行がちょっと狭いけれど、バルコニーも部屋っぽく使えるように落とし込みのパネルと蔀戸を付けてある。ここの解釈が屋内になるのか屋外になるのか微妙なところだけれど、まあ一応屋外ってことで増築には当たらないと判断している。

 バルコニーの手摺の外側には鉄筋を曲げて作ってもらった籠をぐるっと回してとりあえずスクテラリアの鉢植えを2つだけ入れておいた。

 

 階段を降りたところの部屋は大きく2つに間仕切って片方を物置、片方をエルリカの部屋にした。庭に出る掃き出し窓がついている壁以外は黒板塗料を塗り回して好きなだけ数式が書けるようにしておいた。あいつ緑色好きそうだし。

 庭は防草シートを張ろうか悩んだ末、なにか植えるかもしれないと思い直して土のままにした。そしてブナの木を植えた。森の女王の木だから。

 

 ぐるっと家の中を見て回ったらLDKに戻ってダイニングに座って感想を聞く。

 

「ここが二人の最期の家になるかもしれないと思ったけど、たぶんそうじゃないよね。ここの後に海が見える丘の上の家か、森の中の小屋みたいな家に住むと思って、街の中でも京都のあの家っぽい感じにしておいた。気に入らなければ素直に謝るしかないんだけど」

 

「あなたはぼんやりしているようでよく観察しているのね。ものすごく失礼だとは思うけれどこの家はどんな家でも良かったの。最期はあなたの言うように静かなところで幕を下ろそうと思っていたから。でもこんなに素敵なお家にしてもらったら離れられなくなるかもしれないわね。ありがとう。心から感謝するわハナダさん」

 

「そうですね。私もここが離れがたい家になる気がします。あなたが喜ぶ炒飯を振る舞いますからいつでも食べに来てくださいね。ありがとうハナダさん」

 

 二人が気に入ってくれたみたいでバチクソ重かった肩の荷が下りた気がした。

 エルリカは「壁に書いた後消せるのはいいな」と珍しく笑顔だった。

 

 工務店の彼から設備機器や照明、換気設備の説明があり、マニュアル関係は師匠に、最後に玄関の鍵をアサガオさんに渡されて無事に引き渡しが終わった。

 彼は「大変お世話になりました。不具合とかあれば連絡ください」と言って深々と頭を下げた。おれは「お疲れ様でした」と頭を下げ、最後は握手をして「アオイママのお店の方もよろしくお願いします」と言って彼を見送った。

 

 ビルの3階の部屋の荷物はもうまとめてあるらしくすぐに運び入れることになる。

 引っ越し作業はクスメギが手伝いに来てくれた。冷蔵庫と洗濯機は奴が頼りだ。

 おれのポンコツワゴンは積載量だけが自慢の車なので、そいつに積んで三回ぐらい往復したら3階の部屋はガランとした何もない部屋になった。

 家の玄関まで運んだら中での移動はエルリカがやってくれたのですごく助かった。

 

「本来は簡単に済ませる意味のようで出前を取るみたいですが、感謝の気持ちで作りますのでゆっくり召し上がっていってください」

 

 そう言って作務衣姿に豆絞りを頭に巻いた師匠が、真新しいキッチンで蕎麦を打ってくれた。助手のクスメギが天麩羅を揚げてくれて、6人で引っ越し祝いをした。

 遅れて合流したアヤさんが部屋を見て回って「いいなあいいなあ」と言ってくれていたのが嬉しかった。

 

「これでもういつでも帰れるようになったわけだけど、あなたいつ帰るの?」

 

「このまま今夜でもいいんだけど、まあまあ疲れてるんで明日にしようかな。エルリカはいつがいいとかあるの?」

 

「私はいつでもいい。ただ今夜はあの部屋で寝てみたいから明日以降がいいな」

 

「じゃあ、明日だな。つっても夜中になるから日付的には明後日の未明だな」

 

 するとアヤさんからゴルフのカートバッグのようなバッグを渡される。

 持ってみるとそこそこ重い。「これなんですか?餞別?」と尋ねると「ママからの設計料と、私からアオイちゃんのお店のバイト代よ」と言われる。

 中を確認すると諭吉の帯付きが1,2,3,4…10束入っている… え、なにこれ…

 

「いくらなんでもこんなに貰えないですよ!金銭感覚狂うって!」

 

「俺からの車の買い取り料金も入ってる」

「私から呼びつけた迷惑料も含まれている」

「私からは…お小遣いです。あはは」

 

「あなたFBIの人との約束を忘れたの?それはあなたが勝手に使っちゃだめよ。寂しい思いをした家族に使ってあげて。2年分にしたら足りないかもしれないけれど」

 

 「ありがとうございます」と声を絞り出して頭を下げるのが精一杯だった。

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