結ぶと解く   作:ながずぼん

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第253話 余談と後編

 用事が済んだら家族でこの街の間違い探しをしようかという話になり、歩いて見て回ろうと思ったら、おれの車はクスメギの会社の社用車として残してあって使っていいと言われたので駐車場まで取りに行って喫茶店の前に車を回す。

 乗り込むときに「あっ、パパの車だけど色が違う」と弟が言うと「せっかくなら壊れない車にすればいいのに」と奥さんは呆れていた。

 

 まずは自宅に行ってみようということで自宅のある場所に行くと、向こうとは違う平屋建ての住宅が建っていてみんな驚いていた。「ママの実家も違う人が住んでた」と言うと「なにそれ気持ち悪い」とお兄ちゃんがこの世界を不気味がっていた。

 他にも目ぼしい差異のある場所を巡って喫茶店に着く頃には夕方になっていた。

 

 店に入ると師匠とクスメギが厨房で晩飯の支度を始めていて、久しぶりに師匠の手料理が食べられるのが嬉しかった。匂いからするにメニューは中華っぽかった。

 家で作れる中華料理の最強版がテーブルに並べられ、総勢8名でそれを食べる。

 奥さんはアヤさんとは話がしやすそうで二人で酒を飲んでお喋りをしている。

 クスメギはお兄ちゃんに歴史は面白いんだというような話をしていて、師匠は弟に科学は小さい頃から興味を持っておくといい、そんなような話をしている。

 

 大丈夫だとは思っていたけれど、家族がこの人たちにすんなり馴染んでくれて嬉しかった。おれの隣でアサガオさんが食卓を囲んでわいわいしている様子を嬉しそうに、でもどこか寂しそうに眺めているのに気付いて「あいつ、ゲートを作ったらどっかいっちゃったけれど、いつか会えたらたまには顔出すように言っておくよ」と言うと「ありがとう。あなたも頭の中が読めるようになったのかしら。うふふ」と笑っていた。

 

 さんざん食べて飲んで、お金は?と尋ねると「孫を連れて来た御礼にごちそうしてあげる」とアサガオさんに言われ「じゃあ金に困ったらこいつらに小遣い貰ってくるように言いますね」と言って素直にごちそうになった。

 

「次に来たときはご家族に我が家を案内するわ。とっても快適だから。あ、そうだ。エルリカの部屋が空いているから泊って行けば?」

 

「ぷっ。泊まらなくてもすぐに来れるんだからまた来ますよ。そのときに二人が泊まりたいって言えばお願いします」

 

「その時が楽しみね。わたし、いろんなこと教えてあげられると思うから。待ってるわ」

 

 みんなそれぞれにお別れをして3階に上がる。じゃあ帰ろうかと言って今度は先におれとお兄ちゃんがワームホールに入り、物置の南京錠を外して扉を開け外にでる。

 すぐに奥さんと弟が黒い穴から出てきた。二人が物置から出たら扉を施錠する。

 「いい人たちだったね」と奥さんが言ってくれたことが一番の収穫だった。

 

――――

 

 向こうへ渡ってから数日後、分解屋で依頼された箱を開けることにした。

 でも万が一呪いのようなものが発動したら怖いので、すぐにお祓いしてもらえるように近所の大き目の神社に持って行って開けることにする。あそこでお祓いの儀式みたいなことしてるのか知らないけど自宅よりはマシだろう。

 

 境内の端っこの石の上に座って御札のあたりをトランス状態で見てみると紙と木の間に煤けた蜘蛛の巣のような網目が木の蓋との間にあるのが見えた。これが糊かな。

 紙の構造に触らないようにそっと網目に触れると、ぶつ、ぶつと結び目が解ける。

 ほとんどの結び目が解かれると、御札はふわっと木の蓋から剥がれた。なんか「成仏した」というか呪われたりしなさそうな気配だった。

 

 通常視界に戻して蓋を開けてみると中には、かなり劣化したゴムで留めた金の束と便箋が入っていた。紙幣はたぶん香港ドル。HONGKONG&SHANGHAI BANKING CORPORATIONと書いてあり500ドル紙幣っぽい。当時のレートでいくらなのかわからないけれど、雰囲気からしていまの数十万~100万円ぐらいはあるんじゃないだろうか。

 便箋の方は中国語、例の粤語(えつじ)ってやつだろうか。全く読めない。

 とくかく特級呪物とか出て来なくてよかった。なんだったのか知りたくなってクスメギに翻訳してもらうために便箋二枚分を携帯のカメラで撮っておいた。

 家に箱を持ち帰り依頼主に送り返す準備をしておく。金が出てきて喜ぶかな。

 

 夏休みが終わり子供たちは学校へ行き始め、奥さんもバイトに出掛けて家に誰もいなくなる。本業も忙しくないし分解屋の依頼も一段落していたので、暇潰しにクスメギに例の便箋の翻訳をしてもらおうと思って向こうに渡る。

 

 ビルの3階の部屋に出たところで連絡をすると「そんなに俺が恋しいか」と言われたので「中国語の先生としてな」と返しておいた。

 喫茶店を覗くときょうは休んでいるようだったのでビルの前で待っているとあいつがやってくる。車に乗り込み早速、箱の中身が便箋と金で呪われてもなさそうだったと説明して、気になるから便箋に書かれていたものを翻訳してくれと頼む。

 

 適当なコンビニに車を停めて「アイスコーヒーでいいよ」と言われ、なんの話なのか最初はわからなかったけれど報酬だと気付いて二つ買って車に戻る。

 アイスコーヒーを渡すと、便せんの写真を見せてくれと言うので携帯を渡す。

 あいつが読みふけっている間、ヒマだったので店に備え付けの灰皿のところへ行って煙草を吸って時間を潰す。吸い終わって車に目を向けるとニヤニヤしながら手招きをしている。

 

「いやあ、世の中にどうしようもない男ってのはいるもんだなあ。クククク」

 

 おれの顔を見るなり笑いながらそう言って来た。

 

「なんだよ、禁煙しろとかそういう話か?タバコなら辞める気ねえぞ」

 

 「そうじゃなくてさ」と言ってクスクス笑いながら便箋の内容を教えてくれた。

 それは香港に住む男性から妻へ宛てた手紙だった。

 中華系香港人同士で結婚していたらしいが男の方がイギリス人女性と道ならぬ恋に落ちて子供が生まれたと。彼女とはそれきり会っておらず生まれた子にも会っていない。

 信じてもらえないかもしれないが自分は妻を心から愛していると、彼女との逢瀬は一度きりだったし運命的なもので抗えなかったと。この金はもし万が一子供が金に困って尋ねて来たときに渡して欲しいと。勝手を言うようだが死んだ今なら許して欲しいと。

 

「どっかで聞いたような話じゃねえか?なあ?」って、嬉しそうだなおい。

 おれは何も言い返せないまま「おつかれ」とだけ言って翻訳業務を労った。

 

 すぐに3階に戻り物置に飛ぶ。しっかり鍵を掛けて家の中に入り、もっと稼がないと残すものも残せないなあとぼんやり思う。貯金かあ…暮らすのに精いっぱいだし、お兄ちゃんや弟が大学へ行くことになれば今より金かかるしなあ…

 

 やっぱり稼ぐなら向こうか…

 何ができるのかわからないけれど、授かったギフトを活かすとすれば向こうの世界ということになるんだろう。一度奥さんに相談してみよう。

 行ったきりにはならず、あくまで向こうに出勤して夕方とかにこっちに戻る。

 毎日この家で寝る。そのルールがあれば納得してくれそうだ。

 

 そのために苦労して帰って来たのだから。

 

 

 完




最終話までお付き合いくださりありがとうございました。
カクヨムまで足を運んでくださった方もいらっしゃったようで大変ありがたく思います。
お読み頂いた方すべてに感謝を申し上げます。


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この『結ぶと解く』とは少し毛色が違いますが
量産型異世界ではない異世界転移もの(17世紀のロードムービー)を
現在カクヨムで連載中です。
『異世界ダイジェスト』
お時間ありましたら是非読んでみてください。
完結したら、また転載しようとおもっています。ずっと先になりそうですが。
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