結ぶと解く   作:ながずぼん

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第25話 復活と襲撃

「…さん、….さん! …ダさん! ハナダさん!」

 

 激しく肩を揺さぶられて我に返った。

 目の前には真剣な眼差しを向けるサクラさんがいる。

 辺りを見回すと、どうやら桜橋のベンチのようだった。スカイツリーが見える。

 あの家からそう遠くはないが10分以上はかかるはず。

 けれども道中の記憶が全くない。

 

「まったく!なにが『おれしぶといから』ですか!やっぱり耐えられなかったじゃないですか!行くなとは言いませんがもう少し心の準備が必要だったんですよ!」

 

「ごめんなさい。ちょっと混乱してて… だいじょうぶ、すぐに動きますから…」

 

「慌てくなくてもいいですよ。落ち着くまでここで休みましょう?」

 

 そう言って渡された水のボトルを受け取る。川面を眺めながら一口飲む。

 よく冷えた水が喉を通り次第に意識が明確になる。

 水ってこんなに美味かったかな。

 

 

 戸籍がないというのはシステムエラーかなにかで情報がないだけだと思っていた。

 けれども奥さんはおろか、義父さんや義母さんの存在までないとなると、これはもうどう処理していいのか全くわからなくなってしまった。

 こどもやおれの両親の戸籍がないというのも、きっと現実に存在がないのだろう。

 それをまだ孤独に感じられるほど受け止め切れていない。ただ混乱している。

 

 この世界のおれは何者なのだろうか… 闖入者といったところか…

 あの黒い穴はおれの人生になんてことをしてくれたんだ。

 飛ばされた先がアニメのような異世界だったなら一人でも納得できたのに。

 普通すぎるだろうこの世界。おれたち家族以外はそのままだなんて。

 だんだんこの世界に腹が立ってきた。

 

「どうですか?少しは落ち着きましたか?」

 

 おそらくおれの表情の変化を見て声を掛けてくれたのだろう。

 自分でも精気が戻るのを感じる。気分はすぐれないけれども、いつまでもここでぼんやりしているとサクラさんに迷惑だということはわかる。

 

「水、ありがとう。だいぶ落ち着きました。ちょっと衝撃が強すぎたのかな」

 

「まさに抜け殻って顔していましたから。よかったですね、わたしと一緒に来て」

 

「はい、助かりました。一人だったら家の中に無理矢理入っていたかもしれません」

 

「どういう状況なのかわたしもわかりませんけれど、いったん事実として受け入れてそこからまた考えましょう。突撃する前に下調べも必要ですよ」

 

「いろいろ迷惑かけてすみません」

 

 続く言葉が見つからず黙っていると「お腹空きません?」と彼女は言った。

 そうだった。近しい人が次々と亡くなって気持ちが沈んでいたときに気付いたんだった。生きるってことは「食うこと」だって。

 正直水ぐらいしか喉を通らない気分だけど、食べないと元気が出ないのは確かだ。

 ごちそうするので好きなもの言ってください、そう言ってベンチから立ち上がる。

 そういうことなら花やしきの近くの天麩羅屋で、と「えへへ」と笑いながら言うのでタクシーが拾える道まで出ることにした。いまの笑顔にすごく救われた。

 

 

 スポーツセンターの脇を抜けて通りに出る。

 じりじりと言問橋の方へ歩きながらタクシーが通りかかるのを待っていると、十数メートル先に黒いハイエースが急ブレーキをかけて停まった。

 何事だ?と見ていると後部座席のドアが開いて褐色の男たちが飛び出てきた。

 彼等はまっすぐこちらに向かって走って来る。東南アジア?中近東?とにかく顔の濃い連中が3人、猛ダッシュで近づいてくる。

 

 ぼんやり眺めていて気付くのが遅れた。

 あいつらの狙いはおれだ。

 息を潜めていた人攫いの連中がおれを見つけて拉致しに来たんだ。

 

 先頭の男がおれに掴みかかろうとするところへサクラさんが割って入った。

 男は太い腕でサクラさんを横なぎに押し退けるとサクラさんは堪えきれず倒れ込み歩道の植え込みがバキバキと音を立てる。とほぼ同時にパイプの柵へ勢いよく頭を打ち付け、ゴッと鈍い音がした。逃げるんじゃないのかよ!

 次の瞬間、左腕を掴まれる感覚があったが、視線はサクラさんから離せなかった。

 

 男は右腕も掴もうと手を伸ばしてきたが振り回して掴ませないよう抵抗した。

 直後に2人目がおれの後ろに回り込み腰のあたりを両腕で抱えられた。

 もがきながらサクラさんを見ていると打ち付けた頭から血が流れるのが見えた。

 

「サクラさんっ!」

 

 彼女の方へ駆け寄りたかったが、すっかり身体の自由が奪われていた。

 

「てめえらなにしてくれてんだ!」

 

 物凄く頭にきていた。

 襲撃だけの話ではない。このわけのわからない世界に腹が立っていた。

 全ての理不尽さに対して怒りで頭の中がちかちかと明滅している感覚があった。

 

 

 そしてそれは起きた。

 

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