結ぶと解く   作:ながずぼん

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第27話 退院と聴取

 ICUに一泊して、翌日、脳波検査を行った。

 モンテビデオで初期に見られたような脳の暴走状態だそうだ。自覚症状はない。

 脳の状態が落ち着くまでここで経過観察を続けるそうだ。

 あと、全身の筋肉疲労が激しくあまり身体を動かさないほうがいいと言われた。

 面会謝絶の札が下げられた個室にひとまず金曜までの5日間軟禁状態となる。

 

―――――

 

 水曜日にサクラさんから「夏休みにまた会いましょう」とメッセージが来ていたので「おれの田舎を案内しますよ」と返事をしておいた。

 東京での協力期間が終わったら地元に帰るつもりだ。家もなにもないのだろうけれどそれでもあの街以外に行く当てもない。

 バッキバキだった筋肉痛も随分良くなってきたし予定通り退院できるだろう。

 

 ―――――

 

 退屈すぎる経過観察を終えて退院することになる。マツモトさんではなく知らないおっさんが迎えに来た。無造作な感じの短髪に無精ヒゲ、小動物っぽい顔立ちだが見方によっては冷徹な印象も受ける。年齢不詳だがおそらく年上だろう。これまで見てきた政府系の人間とは全然違う風体だった。

 

 おっさんは「外事室のクスメギだ」と名乗った。すごい低音、イケボだ。

 質問は受け付けないといった態度で助手席に乗るよう指示される。

 ツーマンセルじゃないし後部座席でもない。そもそも外事室って公安警察?

 向かっている先も本郷のマンションじゃない。このおっさんもしや海外の諜報員?

 背中に冷たいものを感じたのに気付いたのかおっさんが口を開く。

 

「退院早々に悪いんだけどこのまま聴取に向かわせてもらうぞ。にしてもあんた見た目と違って喧嘩強いんだな」

 

「いや、よく覚えてないんです。夢中で暴れたらたまたま上手くいっただけで。それで、聴取ってどこに向かっているんです?」

 

「霞が関だよ、所轄でいうと文部科学省だな。おれもそこの人間だから」

 

 は?警察関係じゃなくて文科省?確か協力費出してくれたのって文科省だったか。

 どうして謎だらけみたいな奴しか出てこないんだ。言葉足らずにも程がある。

 

―――――

 

 おっさん同士の会話も弾まず霞が関に到着。ビルの地下駐車場に車を停める。

「すぐだから」と言ってクスメギさんは車を降りて先導する。

 駐車場から1ブロックも歩かない所にある古い茶色のビルに入り4階へ上がる。

 エレベーターを降りるとドアがいくつかあって、そのうちの一つに『科学技術・学術政策局 研究開発戦略課 外事室』とプレートが掲げられていた。

 

 部屋の中はいかにも役所の事務所といった感じで科学技術っぽさは皆無だった。

 おまけに日曜だからか職員らしき人間は2人だけだった。

 

「室長呼んできて」とクスメギさんは若い職員に声をかけると、年季の入った黒い革張りのソファに腰を下ろし対面に座るよう促した。

 かなり尻が沈むソファに腰かけて室長さんを待っていると、てっきりバーコード頭の脂ぎったおじさんが来るのかと思いきや、爽やかなイケおじがやってきた。

 

「退院早々にお呼び立てしてすみません。初めまして外事室長のハナザワです」

 

 若手起業家っぽい格好のイケおじはそう名乗り名刺を差し出してきた。

 名刺を受け取りソファテーブルの上に置く。おれはこのビジネスマナーがなんなのか未だによくわかっていない。名前が覚えられませんと宣言しているように思える。

 

「アズマ教授からお聞きになっていると思いますが」と前置きして軍事科学がどういうものなのか説明があった。

 科学技術、軍事学、文化と歴史、だいたいその3つを合わせたものだそうだ。

 ここは文科省の管轄で科学技術の成果を政策に落とし込む部署で、主に()()()技術を調査研究している部署であるとのこと。

 信用を得るためと思わしき説明が済んだらすぐに本題に入る。

 

 

「先日の襲撃者たちを調べた結果、ISのメンバーであることが判りました。浅草のモスクに潜伏していたようで、ひとまずの治療が済んだら強制送還になります」

 

「そうですか。やはりこの身体は狙われたままなんですね」

 

「はい。今後も注意を払う必要はあります。ですが監視カメラの映像を確認しましたが、ハナダさんを襲撃したところで返り討ちに遭うだけに思えますね。格闘技かなにかされていたのですか?」

 

 ハナザワ室長は意味ありげな台詞と共に爽やかな笑顔をこちらに向けている。

 なんの話だ?とクスメギさんを見ると、彼もまた探るような目で見ている。

 

「あの、それって…」

 

「単刀直入に伺います。襲撃の際、あなたはなにをなさったのですか?」

 

 そんなものこっちが聞きたいぐらいだ。スタンド能力が発現したとでもいえば良いのか。それともトボケて誤魔化したほうがいいのだろうか。

 結局、駆け引きがめんどくさくなって「時間がほぼ止まった」と告げた。

 

 途端にハナザワ室長もクスメギさんも身を乗り出して「「どうやって?」」とメゾソプラノとバリトンの完璧なハーモニーを奏でた。

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