結ぶと解く   作:ながずぼん

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第32話 価値と思惑

 中華街からの帰り道、首都高は赤い光が列になって渋滞している。

 

「さっきの連中このまえと違って襲ってくる感じじゃなかったけれど、なんでだ?」

 

「雇い主からあまり傷つけずに攫って来いとでも言われたんじゃないのか。あんたの身体に秘密が眠っているとして、それが脳なのか心臓なのか指先に宿った寄生虫なのかもしれないから、ちゃんと調べたいなら乱暴には扱えないだろ?」

 

「じゃあ、浅草で襲ってきた奴らは調べる気がなかったってことか?その割に殺す気はなかったみたいだけど」

 

「ダメならダメで埋めるだけとかそんな感じなんだろう。結局、あんたのどこに利用価値があるのかって話だよ。ワームホールの鉄砲玉なのか量子ゆらぎを解明したいのか、あるいはもっと別なナニカなのか。ISは鉄砲玉にしたかったんだろうな」

 

「別のナニカってなんだよ。時間を止めるやつはさっきも発動しなかったぞ」

 

「現代にタイムスリップした満州人なのか、とか?」

 

 はぐらかしたのか大して意味はなかったのかクスメギは「別のナニカ」について触れることなくまた髪型を茶化してきた。「あー、はいはい」と返事をしておいた。

 

 今回は丁寧に攫おうとして無事だったわけだが、それでも雑に襲ってくる連中だっているだろう。モンテビデオにいた頃はゴリラと殺し屋がいつもガチガチに張り付いていたのに、日本に帰ってきたら警戒レベルが急激に下がった。

 むさ苦しいよりはマシだけど、頻繁に襲われるようならおちおち外は歩けない。

 そこらんのところをクスメギに尋ねると、彼なりの考察を教えてくれた。

 

 外務省は日本に連れ帰った時点でお役目御免。おれが元で国際問題にでも発展しない限り出番はないと考えているだろうとのこと。なるほど。

 防衛省からすると、おれに絡んだ瞬間に軍事力としてカウントしたと諸外国からみなされてしまうだろうから、外国のちょっかいが相当なレベルにならない限り静観しているだろうと。どこかと連携してモニターはしているはずらしい。

 総務省というか警視庁や公安は、国内に潜伏している海外の諜報員の炙り出しのエサとしか考えてないと思う、と一番酷い。とはいえ警護なんかを付けたら逆に目立つだろうからという配慮もあってのことらしい。

 

「で、文科省が守るしかないってことでおまえが付いてるわけか」

 

 そう尋ねるとクスメギは「ちょっと違うかな」と言葉を探している様子だった。

 これは何か悪いお知らせの予感がするので黙って言葉を待つ。

 

「ウチの部署がちょっと特殊でさ。SFとかオカルト紛いの案件も調査してるのよ」

 

 クスメギは恥ずかしい過去をカミングアウトするようなテイでそう言った。

 国の機関が超常現象や霊能者を追うなんてドラマの世界だけだと思っていた。

 こんな胸アツ案件どうして世間が知らないんだ。なりたい職業ナンバーワンだろ。

 

「なあなあ、それってSPECとかXファイルとかそういう感じのやつ?」

 

「テレビの見過ぎだ、そんなんじゃねえ。科学技術の裏付けができそうな現象を扱うってだけだ。科学で説明できなきゃ因果関係なしで終了だからな」

 

「なんだ、じゃあ超能力者とかいないの?」

 

「あんたは違うのか?地球の裏側に転移したり時間止めたり変な髪型したり」

 

「髪型は関係ねえだろ。おれは超能力じゃねえよ、たぶん。好きに使えないし」

 

 おれが体験したことに科学的な裏付けがあると踏んで一緒にいるのだろう。確証がなくて言えないのか知られると良くないのか、全く説明はしてくれないが。

 だけど気付いたことがある。外事室の『外事』っていうのは国外ってハナザワさんは言っていたけれど、本当は『常識の外』っていう意味なのだろう。

 オカルトやら超能力やらを科学的根拠を伴ったものかどうか調べている部署だから、こいつはおれに付き添って、おれの周りで起きる不思議現象を調べているってことだ。

 その名推理をクスメギに話すと「当たらずとも遠からずだな」と言われた。

 誤魔化している感じではなかったから、もう一枚裏があるのだろうか。

 

 ―――――

 

 大井ジャンクションを都心方面へ向かうと渋滞は緩和した。千葉行きの車が多かったのだろう。車の流れはスムーズになったがクスメギのポンコツは走行車線をちんたら走っている。もしかしたらオーバーヒート気味とか派手にオイルが漏れているとか、ポンコツあるあるかもしれない。

 

 まあ、急ぐわけでもないし止まらなければいいのだけれど。

 

 窓の外がそこまで暗くなったとは思わないが、首都高を走る車たちのセンサーは暗いと判断しているようでヘッドライトを点灯させる車が増えてきた。

 サイドミラーから時折眩しい光がちらちらと目に飛び込んでくる。車間詰めすぎじゃねえのか後ろの車。急いでいるなら右に入れよと思っていたが、そいつは追い抜くわけでもなくポンコツの後ろをずっと張り付いてくる。

 

「おい、後ろの車…」と言いかけたところで「ああ」と、クスメギも気付いているようだった。それでも意に介さず左車線を悠々と進む。

 芝浦を通過したあたりでクスメギはさらにスピードを下げる。たぶんもう80km/hも出ていなくて右の車線を走る車との速度差が大きく開く。これじゃ右に出るに出られず後ろに張り付く車のさらに後ろにヘッドライトがいくつも連なり始めた。

 

 いや、これ本当に白煙噴き上げる寸前なんじゃないの?大丈夫なのかこの車?

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