結ぶと解く   作:ながずぼん

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第34話 物理と生物

 翌朝、迎えに来たクスメギと歩いて大学まで行った。神経伝達の話をしたら「汁って、あんた…」と笑っていた。「違うのかよ?」と言うと「まあ、それでいいか」と、とりあえずの予備知識としてはそんなものでいいらしかった。

 

 この週から脳や身体の検査は金曜だけになり、月曜から木曜は午前中の研究会議に出席、午後は研究者からの要請がなければ自由だ。とはいえいろんな組織からモテモテの身であるから勝手に街を歩けば最悪死ぬ。部屋で大人しく過ごすしかない。

 そんなわけで午後の時間を生物学の勉強の時間に当てたいと思っている。まあ、ウチヤマさんの都合次第なんだけど。

 

 午前中の会議ではあまり出番はなくほぼオブザーバー参加となっていた。研究者たちは時間が止まる作用の話はとりあえず置いておいて、ワームホール生成に至る過程について議論していた。「エキゾチック物質がー」と言っていたが、東南アジアの香辛料の話ではなさそうだった。おれが理解できる話なんかこれっぽっちもない。

 

 ―――――

 

 午後になりアズマ教授に用事はあるか尋ねると自由にしていいと言われたので、ウチヤマさんのところへ行き、人間の細胞について教えて欲しいとお願いした。

 ウチヤマさんはアズマ教授に事情を説明しておれの講師になることが許可された。

 

「正直専門外ですが、ミトコンドリアについて知りたいということですね?」

 

「ええ、そうなんですが、それに関連するお話も聞けたらと思っています」

 

「じゃあ、まず真核生物と原核生物の違いから説明しましょうか」

 

 そうして生物学一日目の講義が始まった。

 

 ―――――

 

 出来の悪い生徒であるおれに対してウチヤマさんは根気強く教えてくれた。それだけでも感謝が絶えないし良い先生であると断言できる。普段はもっと出来る生徒に教えているのだから歯痒かっただろうなと申し訳ない気持ちになった。

 

「全く興味がなかったことを、その歳で新たに学ぼうとするだけで立派ですよ」

 

 ウチヤマさんは慰めるようにそう褒めてくれた。

 とはいえ今日教えてもらったことを理解したかと言えば理解まではしていない。

 なんとなく知れた、わかったとは言えない、知っただけ。

 

「明日はどうしましょうか。DNAの話をしましょうか」

 

「はい、お任せします。よろしくお願いします」

 

 深々と頭を下げて教室を後にして、クスメギとマンションまで帰る道すがら今日知ったことを披露した。復習というか勘違いしていないかチェックしてもらうつもりで。

 人間は真核生物であり細菌は原核生物。人間は細胞小器官を持っていてミトコンドリアはそれ。核膜の中にDNAがある。とにかく膜があってなにかが詰まっている。

 

「ちゃんと話聞いていたんだな、偉いぞ」

 

 クスメギに褒められた。でもなんかムカつく。

 

 ―――――

 

 翌日の午後はDNAについてウチヤマさんに教えてもらった。

 おそらくわかりやすく説明してくれたはずなのだが、正直よくわからなかった。

 酸と反応して塩を与える物質が塩基で、その四種類が二重螺旋構造で繋がっていて、並び方が設計図になっていて人類のDNAの99%は同じで…クソっよくわかんねえ。

 

「明日もDNAの話をしましょうか。うまく飲み込めなかったみたいですし」

 

 ウチヤマさんにそう提案されているとアズマ教授がやってきて「明日は細胞分裂についての話がいいと思いますよ」とおれたちに告げた。

 ウチヤマさんはちょっと不思議そうな顔をしたが「そうですね、まずは一通りやりましょうか」と言って、明日は細胞分裂について教えてもらうことになった。

 

 ―――――

 

 翌日、ウチヤマ塾には別の研究者が二名参加していた。というかいつもの場所に勝手に座っている。あんたらやることあるんじゃねえの?

 

 細胞分裂の話は、まず染色体の説明があった。

 DNAとタンパク質で構成されていて細胞分裂のときにしか観察できないのが染色体だ。これを確認するために染色液を使うことから染色体と名付けられたそうだ。

 細胞分裂は染色体がコピーされて二つになると核の中で端に動いて、細胞質が分かれてそれぞれの核ができあがる。人間の身体はこれを繰り返して老化に対処している。

 染色体の末端にテロメアっていうのがあってそれが細胞分裂の回数を決めている。

 

「じゃあ、テロメアっていうのが無限に使えたら不老不死になるんじゃないです?」

 

「病気の細胞も無限にしてしまうのでテロメアだけでは不老不死は難しいですね」

 

「それにDNAの劣化もあるから細胞が分裂できればいいってもんじゃないんですよ」

 

「でもこの説明ですぐに不老不死を連想するのは面白いですね」

 

 ゲストの研究者も混ざって不老不死談義に花が咲いた。

 おれでも考え付くようなことはすでに無理筋なことがわかっているのだろうけど、きっと若かりし頃に通過してきたところなのだろう。どうせ小学生の頃とかに。

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