結ぶと解く   作:ながずぼん

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第37話 能力と見解

 箱根のあたりに差し掛かっているから景色が山の中っぽい。東名高速といえば日本平のあたりのように太平洋沿いを走るイメージだから変な感じがする。

 

「神戸で養子になってからの親父は最初そこそこ雑な扱いを受けていたみたいだけど、ある時から溺愛されるようになったらしい。それで横浜の大学に入れたようだ」

 

「へえ。それ親父さんから聞いたのか?」

 

「いや、大学生の頃に調べた。バブルが崩壊して親父が勤めていた会社が倒産したんだよ。そのせいで親父おかしくなっちゃって入院するんだけどすぐに死んじまった。で、どんな人だったんだろうっていろんな人から話聞いて、残留孤児のこととか調べているうちに近代史が面白くて歴史の先生になったってわけ」

 

「そんな経緯で歴史の先生になるもんなんだ」

 

「あんたもそうだろうけど、ほら、俺たちの世代って求人票が在学中に激減しただろ?それで公務員かそれに近いやつで就職したかったっていうのもある」

 

「そうか。そんな頃からおまえちゃんと将来のこと考えてたんだな。おれなんか将来は外国に住みたいなーぐらいぼんやりしてたよ」

 

「大学を卒業する前に母親も死んじゃったからな。母さんは癌だったんだけど」

 

 横浜の公園で両親のことを濁したのはそういうことだったのか。両親を一気に亡くせば否が応にもちゃんと将来のことを考えるようになるのかもしれない。身近に頼れる人間がいないのだから。ウチの子供たちはおれの不在で逞しくなるのだろうか。

 

「それで先生やってたんだけど、結婚して割とすぐにハナザワさんにスカウトされたんだ」

 

「は?おまえの転職ってヘッドハンティングだったの?」

 

「ハナザワさんが親父のこと調べていたら、先に調べていた奴がいるってことで俺のところに来て持ってた情報を全部話してくれて、それでな」

 

「なんで親父さんを調べていたんだ?」

 

「死ぬ前に入院していたときに夜中に声が聞こえるって看護師たちの噂になっていたんだよ。ちくしょうちくしょうってな。たぶんテレパシーのような能力だろう」

 

「まじか!」すごいでかい声が出た。ちょっと思考が追い付かない。やっぱりこいつモルダー捜査官だったんじゃないか!

 

「ハナザワさんの話を聞いて、中国でいじめに遭っていたのも、看護師たちの噂も腑に落ちた。もしかしたら養子に行った先で扱いが急に変わったのもそれが原因なのかもしれない。声が届けられるってことは刷り込みもできるってことらしいからな」

 

「すげえな。ハナザワさんはどこからその話を?あ、病院か」

 

「そう。オカルト紛いの案件を調査してるって言っただろ。そういう噂の裏取りをしてると、たまに本物に当たるんだ。主に思考とか記憶とか身体能力じゃないやつな」

 

「親父さんのテレパシーが科学的に証明できるってことか?」

 

「おそらく変異したミトコンドリアが脳内でなにかの物質を吐き出して普通の人間には見られない現象を引き起こしている。ニューロンの発火に関係しているってとこまではわかっているけれど、他人の脳内に思考を届ける理屈が仮説の仮説な段階だな」

 

「確証はないんだ」

 

「理論予測の段階なんだ。ミトコンドリアを採取してそのDNAを調べると普通の人間は一つの型なんだが、変異型の人間は複数が共存しているのが大きな特徴だ。あとは血中に神経伝達や細胞接着に関与する物質が通常より多かったりするんだ。そういった特徴で記憶力が異常だったり心の声が届いたりするんじゃないかってな」

 

 未知の物質を吐き出す変異ミトコンドリアを持っている人間、それがクスメギの親父さんであり他にもいるらしい。おれもそのうちの一人なのかもしれない。

 

「最初にミトコンドリアのこと突き止めたのってどういう経緯なの?」

 

「ハナザワ室長だよ。あの人、40近くの言語が話せるんだ。母親も同じような感じらしくて、遺伝だと思ってたら自分の子供はそれができないってなって、ミトコンドリアを疑ったらしい。それで自分と子供と母親のミトコンドリアを調べたそうだ」

 

「じゃあ、おれのミトコンドリアも調べたんだよな?」

 

「ああ、大学病院で検査するときに調べた。でもさっき言ったような特徴はなかったそうだ。一般人と違う部分はあったみたいだけど、その差がなんなのか判らないみたいだ。古代のミトコンドリアかもしれないって言ってたから、あんた本当に現代に蘇った満州人なんじゃないのか?」

 

 クスメギは笑ってそう言うとウインカーを出して由比パーキングへ入った。

 整然と縦列に駐車している中で、まるで予約でもしていたかのように一つだけ駐車枠が空いていて車を停めることができた。

 

 トイレを済ませて出てくると、クスメギは駐車したところの隣にある階段を数段登った先のフェンスにもたれて太平洋を眺めてる。おれもそこで海を眺める。

 左手には富士山の頭がちょこんと見えている。いい天気だ。

 海を眺めたままクスメギが言う。

 

「あのさ、あんた、この世界の人間じゃないと思うよ」

 

 本線を走る車の音が煩いにも関わらず、その言葉は妙に明瞭に聞き取れた。

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