ドローンが飛び去ってからどれくらいの時間、浮いているのかわからない。
喉も乾いたし身体も冷えて寒いが、とにかく浮くことだけを意識している。
気まぐれに波が顔にかかるから目を瞑っている。
口もなるべく閉じているが、伸ばした髪が口の周りを撫でて気持ち悪い。
飽きることなく繰り返される、波の音しか聞こえない。
ここは異世界なんかじゃなくて現代のどこかの海だ。
黒い穴がなんだったのかわからないが、排水溝のおばけみたいなもので浜松の先の太平洋まで流されて、気を失っている間に離岸流で沖に流されたのかもしれない。
日が高くなってから漁船が通るかわからないが、なにかしらの船が見つけてくれる可能性はあるはず。静岡は漁港いっぱいあった気がするし。
といっても船影はどこにも見当たらない。
船が来る可能性はあるよね?
だって、トム・ハンクスだってタンカーに救助されてたじゃん!大海原で!
おれにはウイルソンもいないんだから心が折れる前に頼むよ・・・
―――――――
断続的に意識が飛ぶ。
薄く開けた目に海水が沁みて意識が戻り、しばらくすると眠るように意識が飛ぶ。
何度か繰り返して、いよいよ薄目も開けていられなくなってきた。
さっきのドローンも幻だったのかな。
見つけて欲しいっていう願望が脳内再生させた幻の映像だったのかも。
こんなアテもないところ飛んでるわけねえもんな。
つまりあれか、さっきのドローンが走馬灯ってやつか。
もうちょっと色気のあるやつにして欲しかったなあ。
ていうか、こんなわけわからない死に方したくなかった・・・
そんなときだった。
耳に水がかかってはっきり聞こえないが、水を掻きわけるような音が聞こえる。
それは徐々に大きくなってはっきりと聞こえてくる。
ザブザブとした音と共に、ドドドドというエンジン音が聞こえる。
目を開けたかったが、瞼に力が入らない。
でも見なくてもわかる。船だ。あまり大きくない小型のやつ。
船の音はすぐ近くまで来て、止まってしまった。
完全に止まったわけではなくて、エンジンの音だけは聞こえる。
するとドボンとなにか重いものが、勢いよく海の中に落ちる音がした。
ばしゃばしゃと水を叩く音がする。
さっきのドボンは人だ。船から飛び込んだのだ。
ばしゃばしゃする音は泳いでいる音だ。
泳いでこちらに近づいて来てくれている。
音の方へ身体を向けようとするが、うまく力が入らない。
男の叫び声がする。
なにを叫んでいるのかわからないし、力が入らず返事もできない。
男はもうすぐそこまで来ている。
身体の後ろから脇の下にごつい腕が差し込まれて引っ張られる。
きっと船に向かって引っ張ってくれているんだろう。
状況がはっきりとはわからなかったけれど、なんだか安心した。
腕に引っ張られて、後ろ向きにぐいぐい進む。
そのうちに何も考えられなくなった。
―――――――
一瞬、胸のあたりにものすごい激痛が走った。
だけど身体は動かないし目も開けられなかった。
めちゃくちゃ痛かったからか再び気を失った。
―――――――
目を覚ますと、白くてごちゃっとした部屋にいた。
視界はぼんやり靄がかかっている。
いよいよ神様が出てきてチート能力を授けてくれるのかとおもった。
ちょっと期待したが、やっぱり違うらしい。
手の甲に点滴の針が刺してあるようだ。
指先を洗濯バサミのようなものが挟んでいる。
ピッ、ピッ、と機械の音が等間隔で鳴っている。
間違いなくここは病院で、きっと集中治療室だ。
ひとまず、生きていた。
どこの病院か知らないけれど、やり直しはなく人生は続くようだ。
幼少期からのやり直しはめんどくせえからな。
どうせ今と変わらない大人になるんだろうし…
生きていると知り安心したらまた眠りに落ちた。