結ぶと解く   作:ながずぼん

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第39話 現場と帰郷

 浜松のファミレスに到着し、通用口側の駐車スペースへ向かう。

 おれが停めた場所にそのまま車が残っているかもと少し期待したけれどそこに車はなく、白線に囲まれた舗装面がことさら何もないことを強調しているように思えた。

 置き去りにされた車は店からの通報があれば警察署へレッカー移動され、一ケ月の引き取り期間を経て売却または廃棄される。

 警察署へ連絡してそういう車の履歴がないか確認してもいいのだけれど、確認できなければ別世界であることを強化してしまうように思えて連絡する気にならなかった。

 どれだけ説得されてもワンチャンこの世界で家族に会える可能性を残したい…

 

 ポンコツをおれの車があったはずの場所へ停めてワームホールが出現した地面をよく見てみた。ここももしかしたら黒い穴が開いたままだったりして、というような期待?があったのだけれど、なんの痕跡もなく至って普通の舗装された地面だった。

 

 一通り確認を済ませたら「ここで食べてもいいか?」とクスメギに尋ねると「構わない」という返事だったので二人で店に入った。連休だからなのか店内は混雑しており、案内された席は打合せのときに座った席とは離れたボックス席だった。

 ハンバーグのセットを注文し、ドリンクバーでアイスコーヒーを汲んで席に戻ると、クスメギが入れ替わりでドリンクバーへ飲み物を取りに行った。

 

「なにかわかったことはあるか?」席に戻って来たクスメギにそう尋ねられた。

「いや、なにもねえな」アイスコーヒーを飲みながら乱暴に返事をした。

 

 ハンバーグを食べ終わりアイスコーヒーのおかわりをして店内を見回す。

 家族連れが楽しそうに食事をしている。それぞれがスマホを操作して会話もなく楽しくなさそうな家族もいるけれど、概ね楽しそうな雰囲気はある。

 特別なんのシーンを思い出すわけでもないが、子供たちと一緒に飯を食って笑い合っていた感覚を思い出して胸が詰まる。きついなあこれ。

 

 会計を済ませて車に戻るとき、トラックが音もなくバックしてくるのではと辺りを見回してみたが、きょうはトラックの陰も形もなかった。

 

 助手席に乗り込みシートベルトを締めながら「遠回りさせてすまなかったな」と謝ると「ピザ屋に行けばいいんだっけ?」と尋ねられた。

 これ以上この世界は違う世界であるという現実を突きつけられるのがしんどかったから「いや、もういい」と地元へ帰るようお願いした。

 

 ―――――

 

 来た道を戻って給油をして、浜松西インターから東名高速に乗る。

 名古屋方面へ向かい豊田ジャンクションで東海環状へ入り、岐阜方面へ北上する。

 景色はすっかり山の風景になっていく。

 土岐ジャンクションで中央道に入り、少し走って屏風山パーキングで休憩する。

 

「あんまりこっち方面に来たことないけど、よくあんなスピードで曲がっていくな」

 

「浜松から作りかけの高速使って国道で帰る方法もあったけれど、それ聞いたら高速で来てよかったと思う。あっちまじでグネグネだから」

 

「あんまり足回りに負担かけるとタイヤ取れちまうよ」

 

 浜松を出てから他愛のない会話をしてここまで来た。クスメギもおれの緊張を察してか微妙な距離感での会話をしてくれている。

 そうやって覚悟を持つ時間を作ってくれているのだろうけど、最寄りのインターが近づくにつれ緊張は高まるばかりだ。

 

「それで、覚悟はできたのか?まだ少しぐらいなら寄り道するけど」

 

 全て見透かされていたように気を使われて情けなくなった。

 そして、こんな自分ではいたくないという思いがふつふつと沸き上がり、うじうじと悩んでも仕方ないと腹を決めた。

 この目で確かめたら、後はとっとと元の世界へ帰ることを考えるだけだ。

 

「おまえに優しくされて覚悟が決まったよ。おれはおまえが思うより強い」

 

「児童心理かよ。まあ気を使わなくていいならこっちも楽だ」

 

 車に乗り込むとパーキングを出て、アップダウンと下りの急カーブで少し緊張しているクスメギをからかいながら中央道を北上する。

 恵那山トンネルを抜けて坂を下り、飯田インターで高速を降りる。

 遂に地元に帰って来た。打合せに浜松へ向かってからここまで長すぎる出張だった。

 

 高速を降りたら、まず自宅があるはずの場所へ向かってもらった。

 車窓から記憶と違う建物なんかがあるか確認しながら眺めていたが、どこも至って以前のままだった。

 だが、家の近くまで来たところで違和感が飛び込んで来た。

 以前に仕事をさせてもらった店舗の色合いが違っていた。改装工事で外壁をグレーに塗装したのだけれどそこが茶色だった。

 

 それを目にした瞬間、背筋が凍りつくようなヒヤッとした感覚があった。

 おれがこの世界の人間じゃなくても強く生きると心に決めたものの、やっぱり記憶と違うものを見せられると息苦しさを感じる。

 クスメギはおれの様子に気付いてはいるようだけれど、特に態度に変化はなく淡々と自宅があるはずの場所に向けて運転をしている。

 

 そして到着した。自宅があったはずの場所へ。

 

 

 第二章【東京編】了

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