ドライバーはバイト扱いで時給が良かった。待機時間が長そうだったが前の仕事を再稼働させるための補助としてならアリだなと思った。
連絡先は店長さんの番号のようだったのでスマホにその番号を登録した。
店の前で電話するのはどうかと思ったし、身分を証明するものを何も持っていない。
そういや帰国してすぐに、住所が決まったら免許証を再発行してくれるってマツモトさんが言っていたなと思い出して、引っ越したらすぐに警察署に行くようスマホのスケジュールに登録した。なんならアラームまで鳴るように登録した。
さてホテルに帰ろうと思ったら向こうからおじさん二人と女性二人がこちらに歩いてくる。もうすぐ20時だし同伴かなと思い視線を逸らしてすれ違おうとした。
「あー、無職のおにいさんじゃん」と聞き覚えのある声で呼び止められた。
声の方へ視線を向けると薄ピンクがにこにこしていた。
「おにいさん、飲みに来たの?仕事見つかった?」
「いや、まだなんだけど、ここのドライバーはどうかなとおもって」
「えー!おにいさんが送ってくれるんだ。ねえ、ママに面接してもらいなよ」
そう言って薄ピンクが腕を掴んで引っ張って来たのはメーテルだった。
いや、まじでメーテルとしか形容できない妙齢の美人だった。
「ちょっとメイちゃん。お客さんに失礼でしょう。先にお店に入ってて」
メーテルは薄ピンクにそう言って、同伴の客にごめんなさいねと謝った。
そしてこちらに向き直り「中でお話しましょう」と店の中に案内された。
採用は店長の仕事じゃないの?と思いつつメーテルの後に続いて階段を降りた。
おれの知っているこの店の採用なんかは部長さんがやっていたはず。
チーママが何人か入れ替わっていたがママは見たことがない。店長は若い男の子だった気がする。いまはこのママがオーナーママということなのだろうか。
とにかく店の作りはそのままでも人間がごっそり入れ替わっている。
メーテルにスタッフルームへ案内され、小さいテーブルに会い向かいに座った。
「ここのママをしています、アヤです」と差し出された名刺は、カマボコぐらいなら切れるんじゃないかという程にブ厚く固い紙だった。
それを受け取り「あ、ハナダです」と名乗る。
「メイちゃんとは、お店で?それとも元々のお知り合いかなにか?」
「先週、隣についてくれたのが彼女です。あの、お客さんいいんですか?」
「後で謝っておきます。それよりもドライバーさん足りなくて困っているのよ」
「そうなんですか。是非お願いしたいのですが、納車が二週間後で」
明日からでも働いて欲しそうだったが車がないのでは仕方がない。
ママさんが二週間どうにか回せば楽になると思ってくれればいいのだけれど。
「さっきメイちゃんが無職のって言ってましたけど、お仕事は?」
「えーと、とても複雑な事情で現在無職です。以前は内装デザインの会社を自分でやっていました。倒産したわけじゃないんですが会社が行方不明で…」
「うふふ。なんだか事情がおありなんですね。ところでお住まいはどちら?」
「いやー、それもあのー、いまはホテル暮らしで。来週末に引っ越しなんですが」
胃がキリキリする。別に断られても大したダメージはないが、現状ではどこへ行こうがこんな返事にしかならない。せめて引っ越しが済むまで仕事は見つからないかも。
ママさんは笑顔でいるものの怪しい奴を見る目でおれを見ている気がする。
「正直に教えて欲しいんですけど、なにか後ろ暗いことはないのかしら?」
「はい。そういう話ではないんです。事故に巻き込まれたというか」
「そう、わかりました。じゃあ最後に私の目を見てもらっていいですか?」
「え?目を見ればいいんですか?」
なんだろうこの感じ、前にも経験したことがあるような。
そう思いつつママの目を見る。
次の瞬間、バチィッと目の前で火花が散った感覚があった。
おれもびっくりしていたが、それ以上にママがびっくりしている。
驚いているというより狼狽えている。触れちゃいけないものに触れたような。
「あなた…なんなんですか…? 弾かれた…?」
「いや、あの、ママさん?大丈夫ですか?」
「あ、ああ、失礼しました。私、嘘を見抜くおまじないが使えるんですが…」
それ知ってる。パウラさんがやってたやつ…ていうかそれって…
変異ミトコンドリアの思考を読むやつ!
てことはパウラさんも?つか目の前のメーテルも?どんだけいるんだ…
「あの、もしかしてママさんのお母さんも同じおまじない使えませんか?」
「えっ?」
そのリアクションで確定した。この人、能力者だ。