ママさんは種明かしされたことで、めちゃくちゃ狼狽えている。
そりゃそうだよな、一般人には絶対にバレることはないのだから。
とはいえ、おれが犯罪者かどうか確認しようとして能力を使ったのだとしたら、それは別に責める必要はないし、むしろ通用しないおれが異常なだけ。
「あの、誰にも言うつもりないんで。それにおれも似たようなアレなんで」
努めて気さくにフォローを入れてみる。
「あの、私、どうしたら… ハナダさん、ご家族はいらっしゃるの?」
「あー、家族も行方不明です。ていうか、おれが行方不明なんですけどね」
「じゃあじゃあ、お店が終わった後に少しお付き合い頂けますか?」
ママさんがなんだか小娘みたいになっている。
ロバの耳と叫ぶための穴を見つけた気分なんだろう。秘密は抱える方も辛いし。
「いいですよ、どうせやることないし。どうすればいいですか?」
「お泊りになっているホテルの部屋に伺います」
「え?」なにを言い出すんだこの人。口止めの代わりに好きにしてってやつか?
「あ、いえ、差し支えるようでしたら、どこか静かに話ができるところへ」
「ママさん目立つからホテルはやめましょう。すぐ噂になりますよ。店の前にカラオケボックスがあるじゃないですか、あそこでどうです?」
「わかりました。お時間を頂戴いただきありがとうございます。それじゃ1時に」
「はい。じゃあカラオケのフロントに連れが来るって言って先に入っておきます」
「お気遣いありがとうございます。よろしくお願いしますね」
バイトの面接に来たつもりが、なんだか立場が逆転してしまっていた。
ひとまずクスメギに連絡を入れて… んー、ママさんの話聞いてからでいいか。
―――――
ホテルに戻ってシャワーを浴びて約束の時間になるまでごろごろ過ごした。
あんまりちょうどのタイミングで店の前を通ると、また薄ピンクに見つかるかもしれない。ちょっと早めに出てカラオケの部屋で待機することにした。
「後で連れが来くるので、ハナダの名前を言ったら部屋を教えてやってください」
フロントでそう告げて部屋に入る。
一人で歌ってもいいけれど、歌っている最中に入って来られると恥ずかしいからデンモクを操作してどんな機能があるのか確かめたりして時間を潰した。
約束の時間を10分ほど過ぎたあたりでドアがノックされママが入って来た。
「すみません、同伴のお客さんのアフター断るのに手間取ってしまって」
「あの人オープンラストだったんですか、タイミング悪かったですね。おれの方は構いませんよ明日も寝放題なので。なにか飲みますか?」
話し易いようにリラックスムードを醸成するおれはセラピストのつもりだった。
心療内科とか行ったことないけど、海外ドラマとかでよく出てくるし。
おれが悦に浸っている間にママは内線で赤のグラスワインを注文していた。
ワインか… なんとなく長くなるんだろうなと覚悟した。
―――――
予想通り、アヤママの話というのはカミングアウトだった。
彼女は現在39歳、若い頃に結婚していたが旦那さんの浮気で離婚したそうだ。
能力者相手に浮気とか絶対無理だろうと思ったけれど意外と騙せるらしい。
思考を読むというのは情報をダウンロードして自分の脳にコピペするような作業らしく、木を隠すなら森に方式で、大量の「おまえを愛している」の中に「実はあいつも愛している」を紛れ込ませると、なかなか見つけるのは難しいそうだ。
子供の頃から能力が使えたわけではなく、旦那さんの浮気を疑ったのがきっかけで人の思考が読めるようになったらしい。この辺は個人差があるのだろう。
で、そのことについて実家に戻った際に母親に冗談ぽく振ってみたところ、実は…という話になったそうだ。
母親は臨時のパートでたまに働く程度の専業主婦だったそうで、趣味はパチスロ。
ホールで店員の頭を覗き込んで高設定の台に座って小遣いを稼いでいたんだと。
対人麻雀で相手の血まで毟り取ることに比べたらかわいいもんだ。
元々化粧品売り場の美容部員として働いていて、離婚後に復帰したところでダブルワークの同僚に誘われて夜の店でも働くようになった。
客の嗜好が読めるのだからどんどん売れて33歳でチーママになり、3年前に店を譲り受けオーナーママになったそうだ。
前オーナーから店を譲ってもらうために思考操作したのか尋ねると、そんなことはできない覗き見るだけ、とのこと。
そのへんまで話したところで酔いが回ったのか、彼女は眠そうな顔をして「悪いことは本当にしていないからね、それだけは信じて」と何度も繰り返した。
もうそろそろいいのかなと思い、最後に大事な質問をした。
「それで、おれって雇ってもらえるんですか?」
「んふふ、明日の19時にお店に来てください。そこで決めましょう」
これだけ付き合ったのにお預けか。バイトの採用って難しいんだな。