結ぶと解く   作:ながずぼん

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第47話 黒服と繁盛

 指定の時間に店に行く。通用口がビルの反対側にあるのは知っているが、新参がいきなりそこから入るのもおかしいと思い、店の入口の扉に手を掛けると鍵は開いていた。

 店内ではボーイが掃除機をかけていた。すぐ近くで「おはようございます」と声を掛けると、スタッフルームに行くように指示される。

 

 スタッフルームに入るとアヤママがもう待っていた。

 「おはようございます」と声を掛けると、嬉しそうな笑顔で「おはようございます」と返してきた。どうすればいいのかなと思っていると「それに着替えてもらっていいかしら」と机の上の紙袋を取るよう指示される。

 袋を開けると、黒いスラックスとベスト、ワイシャツ、ネクタイが入っている。

 これボーイの制服じゃん、とアヤママの方を見るとめっちゃニコニコしている。

 

「あの、これ…」

 

「きっと似合うと思うの。とりあえず納車までは黒服として、どう?」

 

「どうって、客としてしかこういう店に来たことないですよ。粗相する気しかないですけど…」

 

「大丈夫よ。店長とボーイくんに頼んであるからすぐに覚えるわよ」

 

 なんにも大丈夫じゃない気がするのだが、ひとまず働いてから無理かどうか考えればいいやと思い着替えてみた。なにごとも経験だし。

 ママが目の届くところにおれを留めておきたい感じなのかもしれないし、後々クスメギに紹介するにしても彼女のことをもう少し理解していた方がスムーズだろう。黒服だとしても断る理由はないな。

 

「ほら、やっぱり似合うじゃない!雰囲気あるわ」

 

「いや、どうでしょう。敬語も怪しいところがあるので…」

 

 その後、店長さんに指示を仰ぎながらテーブルを拭いたりソファをコロコロしたりしていると、オンナのコたちが続々出勤してきた。

 開店十分前に簡易なミーティングがあり「黒服兼ドライバーの」と紹介される。

 なにが納車までだよ、やっぱりボーイとして雇う気まんまんじゃないか。

 上司的なポジションのニホンマツ店長と、ボーイ業務の先輩シンイチ君から挨拶があった。シンイチ君は先輩だけど二十歳だったので「みんなと一緒でシンちゃんでいいっすよ」と言われたが、一兵卒としては君付けぐらいから始めたい。

 

 ミーティングが終わり、オンナのコたちが待機場所にばらける際に薄ピンク改めメイさんが近寄ってきて「仕事見つかってよかったね」と言ってくれた。

 「そうだね」とサムアップを返しておいた。

 

 幕開け、とりあえず誰も来ない。今夜は暇なのかもなーと思っているとぽつぽつと客が入り始め、21時になる頃には半分ぐらい席が埋まり、22時には八割が埋まっていた。

 連休明けの平日でこの盛況っぷりはすごいと思うがそうでもないのかな。

 仕事の方はシンちゃんパイセンから言われたことを無心でこなすマシーンとなっていた。営業開始から「あ、はい」しか言っていない気がする。

 

 23時過ぎ、ちょっと知っているおじさんが来店。目が合ったけれど知らん顔された。そんなことより厨房の洗い場に溜まっているグラスの量がえげつない。

 チャームの皿や灰皿も堆く積まれている。それだけの客が来た証拠ってことか。

 

 前の世界では常連が多いけれどここまで混む店ではなかった記憶だけど、ママの手腕でまるで違う店になっているのだと思った。

 嗜好に合わせて客が喜んでいるからといって高い料金を取っているわけでもない。

 能力と持ち前の才覚による相乗効果なのだろう。

 

 シャツの袖を捲り洗い物の山を片付けることにする。

 食洗器がないからとにかくゴシゴシ洗ってドバーっと並べてぎゃぎゃーんと拭く。

 これで正解なのかわからないけれどグラスは綺麗になったとおもう。

 

 零時以降は客を入れなかったので0時半過ぎに最後の客を送り出して閉店。

 オンナのコたちが続々と退店する中、メイさんが「きょうからハナちゃんが送ってくれるんじゃないの?」と訊いてくるので「納車は二週間後だから車ないよ」と説明する。

「そうなんだ」と言って彼女は送迎車を待つ他のコたちのところへ行った。

 つか、ハナちゃんて。薄々気付いていたけどメイさんはコミュ力おばけだった。

 

 いつ帰っていいのかわからず店長にまだやることあるのか尋ねたら、上がっていいとのことだったので私服に着替える。

 洗濯機もないし毎日コインランドリーに行くわけでもないので、着ていた制服をどうしたらいいか尋ねると、店長はフリーズしてしまった。そこにママがやってきて洗ってきてくれるというのでお願いした。

 

「無理に働いてもらったから、このぐらいしないとバチが当たるわね」

 

 と強引にボーイをやらせた自覚があったようでよかった。

 

 一応、明日も出勤すべきか尋ねると来てくれると嬉しいと言われた。

 あの惨状を見せられては本当に猫の手も借りたいのがわかるので、翌日から黒服として出勤することにした。

 どうせホテルにいてもやることはないし、暇だとロクなことしないし。

「おつかれさっした」と挨拶をしたものの、表のドアの鍵はかけてあるので出方がわからず、パイセンに通用口までの行き方を教えてもらった。

 

 通りに出ると人通りはまばらで、多くの店の灯りが消えていた。

 ホテルに戻り、シャワーを浴びてベッドに横になる。

 客としてしか行ったことのない夜の店だけど、内側から見てると結構面白いもんだった。見た目や金も重要だけど優しくされているのは距離感のいい客だった。

 

 忙しく働いたおかげで疲れていて、それ以上考える間もなく眠りにつけた。

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