結ぶと解く   作:ながずぼん

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第4話 診察と裏側

 意識が戻った。

 自分でもそう思う程に、はっきりと意識が戻った。

 

 起き上がろうとしたら胸のあたりが痛くて大きめの呻き声が出た。

 ああそうだここは病院だ、そう再認識をしていると程なく白い服の女性がぱたぱたと慌てた様子で部屋に入って来た。

 看護師かな。ベッドの脇にある機械の数値を見ている。

 おれを見てなにか言って、再び足早に部屋を出ていった。

 看護師は外国人であろう背の高い褐色のおばさんだった。

 

 少しして、白衣の中年女性を連れて看護師はまた部屋に入ってきた。

 この白衣は誰が見ても医師だろう。この世で一番嫌いなことは時間の無駄、みたいな顔をしている。この怖い女医も外国人だ。

 女医はポケットからペンライトを取り出して、おれの瞳孔と喉の様子を見た。

 軽く頷きながらおれに向かって何かを言っている。どこかで聞き覚えのある言語。

 この人たちは外国人のようだが、いったいここはどこなんだ。

 異世界にしては文明レベルが前世と同じすぎる。おれも若返ったりしていないし。

 

 女医の言葉を聞き流してこの世界の異世界らしさに思いを巡らせていると、手間かけさせんな!という感じで女医が乱暴に丸椅子をベッドの脇に置いて腰かけた。

 怖い顔でおれに向かってなにかを言っている。

 質問しているようだけど言葉がわからないから「わからない」と返す。

 それでもわからない言葉を投げてくるから「アイ ドン ノウ」と答えると「Are you speak English?」と目を丸くして尋ねてきた。

 え?英語は使える感じなの?やっぱり異世界じゃないの?

 

 よし!本気出す!といったテイで女医は「name?」とだけ言った。

 

「ハナァダァ、ミツゥルゥ」

 

 あ、姓と名は逆のほうがよかったか? つか無駄に巻き舌で言ってしまった。

 

「age?」

 

「フォーティーワン」

 

 また謎言語かよ!って感じにめちゃくちゃ嫌そうにされた。眉間の皺がすごい。

 いや、英語通じるんじゃないの?それとも中年なのがいけないの?

 何度か繰り返しつつ徐々に巻き舌具合を増して「フゥォーリィーウォァン」と言ったところで、ああ41ね、って残念な人を見る目を向けられた。

 

 女医は気を取り直して質問を続ける。

 

「Are you from?」

 

「ジャパン」

 

 医師と看護師が二人揃ってツチノコでも発見したような顔をした。

 すぐに看護師は大慌てで部屋を出て行ってしまった。

 どうしてそこまで驚くのか不思議で、逆にこちらから質問してみた。

 

「ウェアー イズ?」

 

 両手で床を指してそう言うと、女医はどうしてそんなことを尋ねるのか理解できないようで、は?おまえなんなの?という目を向けながら短く答えた。

 

「Montevideo、Uruguay」

 

「モン…」復唱しようとして声が詰まる。

 

 ウルグアイだって?

 

 ウルグアイって南米じゃないか!どういうことだよ!

 

 モンテビデオは確か首都だったような…?

 

 薄々気付いていたけど、やっぱり異世界じゃなかった。

 

 しかも南米て…

 

 

 

 絶句しているおれに向かって女医の質問は続く。

 

「How…♭□&×○☆:$%…hear?」

 

 きっと、どうやってここに来たのか尋ねているのだろう。

 どう説明すればいいのだろうか。黒い穴に落ちたと聞いて理解できるのだろうか。

 黒い穴ってブラックホールとしか言いようがないんだが…あれはそうなのか?

 

 イラつく女医に睨まれていると、ノックもなく部屋の扉が開いて看護師が眼鏡のおじいちゃん白衣を連れてきた。

 女医は恭しく場所をおじいちゃんに譲ると、後ろからボソボソと耳打ちをして部屋を出て行った。おじいちゃん先生は偉い人っぽいな。

 おじいちゃんも胸ポケットから取り出したペンライトでおれの瞳孔を確認したあと、手とか足とかを触って来た。

 肩を触られたときに胸が痛んで顔をしかめたのだけれど、そこには全く興味がないのかやたらと指先や爪先を触り続けた。

 何を確認したのかわからないまま、丸椅子に腰かけるとスペイン語でなにか尋ねてきた。いや、尋ねたのか一方的に言い放ったのかよくわからなかった。

 わからないので、さあ?みたいな顔を向けたら鼻を鳴らして立ち上がり、看護師になにか告げて部屋から出て行ってしまった。

 

 最後まで残った看護師は無理に笑顔を作っておれの上に掛けてあるシーツみたいなものをばさっと勢いよくめくった。

 そして浴衣みたいな入院着を開けて、大丈夫ですよーみたいなことを言いながらカテーテルを引き抜いてくれた。一切の躊躇なく。仕事なので。

 ただ、つまんだときに、あらかわいい、みたいなことを言われたような気がして勝手に恥辱にまみれた。

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