結ぶと解く   作:ながずぼん

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第52話 送迎と蕎麦

 昼前に起きて洗濯機を回し、部屋着のまま二階の喫茶店へ。

 店に入りいつものテーブル席へ座り、日替わりとフレンチコーヒーを注文。

 この店の日替わりとは『日替わりガレット』のことで、これが大変にうまい。

 毎日具材が変わるので飽きないし、思ったより腹が膨れるので昼飯にちょうどいい。 週の半分ぐらいはここで昼飯を食べている。

 

 初めてメニューに気付いたときに、店主にどうしてガレットを提供しているのか尋ねたら、蕎麦屋をやってみたかったんだが思うような物が作れず仕入れてしまった大量の蕎麦粉を捌くために始めたんだと照れながら教えてくれた。

 きょうは四種きのことベーコン、クリームチーズのガレットだった。

 食べ終わったら珈琲を飲みながら煙草を一本だけ吸って部屋に戻る。そうすると部屋を出る前に回した洗濯が終わっている。

 

 夕方まで旧知の会社のリストを作って現存しているのかネットで調べたり、実際に記憶にある会社のところまで行ってみたりしている。アヤママに頼むかは思案中。

 

 18時過ぎに店のグループラインに出勤情報が流れてきた。

 昨夜送った4人の名前がそのままあるので、メイさんから順番に拾って店に届けることになる。彼女のマンションを19時20分に出れば50分には店に着けるだろう。

 ということは、ここを19時か少し前に出る必要がある。

 割と時間がないなと思いながら部屋で制服に着替える。19時10分前に部屋を出て駐車場へ行き、メイさんのマンションへ向かう。

 

 少し早く着いてしまい、マンションの駐車場の隅に停めてエンジンを切る。

 勝手に出てくるんだよな?とちょっと不安に思っていると、ドレスを着たメイさんがもう一人妙齢の女性とやってきた。エンジンを掛けてドアロックを解除する。

 助手席のドアを開けて「おはようございまーす」と挨拶をする彼女の肩口からメイさんと同じというか画像加工で少し加齢させたような顔の女性が顔を覗かせている。

 

「おはようございます、あの、もしかしてメイさんのお母さんですか?」

 

「はい。娘に挨拶するよう言われまして、娘のことよろしくお願いします」

 

「え、ああ、ええ、安全運転で送迎させてもらいます」

 

 なんだか含みのある言い方をされたような気がして若干キョドってしまった。

 

「じゃあ、いってきます。チヒロとソウスケのことお願いね」

 

 メイさんはそう言ってドアを閉めた。

 

 次に乗せるのはアオイさん。屋敷はでかいのだが道はそんなに広くないから路駐すると邪魔になりそうだなと思っていると「いままでは中で待ってたよ」とメイさんが教えてくれた。敷地の中に車を入れるとすぐにアオイさんが家から出てきた。

 次はユキさん。アパートの駐車場にすでに出ていた。「お待たせしました。すみません」と謝ると「いえ、ぜんぜん」と気にしていない様子だった。

 最後にナオさん。彼女もアパートの前に出ていてみんなきちんとしているんだなあと感心した。するとナオさんが「明日から向こうのセブンで拾ってもらえますか、ここ道狭いので」と言うので了解する。待つ側もコンビニの方がいいのかもしれない。

 

 四人を乗せて店の裏まで行き、全員降りたら駐車場に車を戻す。

 残り香なんて可愛いもんじゃないデパートの化粧品売り場ぐらい様々な香りが車内に充満していたので、あとでファブリーズしておこうと思った。

 

 営業中はいつも通りの賑やかさと忙しさで、特に変わったことはなかった。

 途中でアヤママに「送迎はどう?」と訊かれたが「特に問題ないです」と答えた。

 

 この日はアオイさんがアフターに行くそうで送りの南方面は3人だったが、代わりに東の方向のユイさんを最初に送ることになった。

 最初に店に来たときの水色のコだ。彼女を迎えに行くパターンもあると店長に言われたので、家まで送ったら地点登録しておいた。

 南方面の3人は少し遠回りになったけれど特に不満そうな素振りはなかった。

 

 ナオさんとユキさんを送ったら、メイさんが「きょうも公園で食べよう」と誘ってきた。腹も減っているしそれはいいんだが、毎晩こんなことをしていたら浮き輪肉がむくむくと育ってしまう。なにかいい方法はないものか。

 そう思いつつ、昨夜と同じコンビニでレンチンの天麩羅そばを買ってしまう。

 だけど飲み物は脂肪燃焼と謳い文句のついた黒烏龍茶にしておいた。差引ゼロだ。

 ていうか昼も蕎麦で夜も蕎麦だ。意外と摂取カロリー大したことないかもしれない。

 メイさんはビール二本と野菜スティックを買っていた。

 

 そんなわけで児童公園の東屋で夜食の会が二夜連続開催される。

 

「今夜はビールなんだ。お腹は空いてないの?」

 

「きょうのお客さんみんな飲ませてくれなかったから。お腹はふつうだよ」

 

「そうなんだ。ドリンク断るのって強い気持ちがないと無理だなあ」

 

「飲みに来てコスパとか言ってる奴、全員スマホの画面バッキバキになればいいのにっておもうよ」

 

 急にキレ始めた。ストレスの溜まる仕事だとは思うけれど余程だったのかな。

 

「じゃあわたしもお時給のコスパ考慮して雑な接客でいいんですかって」

 

「ああ、うん、そうだねえ」

 

 小一時間メイさんの愚痴を聞いてから彼女を送り届けた。

 これが日課になったらおれが病むかもしれない。

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