19時20分にメイさんのマンションに到着する。姿が見えたのでドアロックを解除すると、彼女は運転席の真後ろの後部座席に乗り込んだ。
「きょうは助手席じゃなくていいの?」
「うん。いつも助手席だとハナちゃんのオンナみたいじゃん。ていうか今日は送迎ダメだったんじゃないの?」
「いや、行けそうだったから店長に連絡したら頼まれて。送りはダメなんだけど」
「ふうん。好きにしたらいいよ」
なんか気まずい、なんだこの空気。
いつものバカ話もなく沈黙が続く中アオイさんの家に到着すると、家から出てきた彼女はあれ?という顔をしながら助手席に乗り込んできた。
「おはようございます。メイさんお休みなのかと思いました」
「そこ、別にわたしの席じゃないから」
後部座席から禍々しい暗黒オーラが発せられ車内を包み込む。重い空気のまま次へ。アオイさんが疑うような目を向けている気がするが運転に集中する。
ユキさんを拾うとやっぱり後部座席のメイさんを見て驚く。ナオさんも同じ。
店の裏に着いてみんなが降りるとき、メイさんがバンッと強めにドアを閉めた。
生理で機嫌が悪いのだろうか。本人が理由を明かさないのなら詮索しないでおこう。首を突っ込んでもロクなことがなさそうだし。
20時にホテルのロビーへ行くと、クスメギはソファに座って待っていた。
辛いものは平気か尋ねると、好物だというのでタイ料理屋に連れて行く。
3品ほど適当に注文をして運ばれてきた料理を食べ始めると、クスメギが「これ辛くてうまいな」と感心したのがイカのサラダ。
彼の料理は全部うまいよと虎の目をした店員に視線を向けると「アジノモトノ、オカゲ。ニホン、スゴイ」とまた言っている。
「なあ、昨日まで愛想のよかったオンナのコが急に不機嫌になる理由ってなんだ?」
「それ俺に訊くのかよ、本人に訊けよ。まあなんか嫌なことでもあったんだろ?」
ダメだこいつ、頭痛が痛いみたいなこと言ってる。相談相手を間違えたっぽい。
その話はモテない中年が雁首並べて悩んだところで解決しそうにないので、外事室が存在を確認した能力者はどういう扱いになるのかと話題を変えた。
周囲の評判とか悪い噂がないか確認して、悪用していなければ相談相手になり、被害や迷惑をかけているようなら捕まえて説教するんだそうだ。割とヌルい。
「悪事を立証する手立てがないし、なにより取り締まる法律もないからな」
「そうか。で、いま把握しているそういう人間て何人ぐらいいるんだ?」
「4人。うち1人はハナザワ室長だけどな。みんな老人で善人だな。徳島のおじいちゃんなんか人の悪意が聞こえるからって仙人みたいな暮らししているぞ」
派手に能力を使って悪事を働くような奴はいないようだ。概ねアヤママのようにこっそり使って交渉事を有利に進めるとかそんな感じなんだろう。
「そもそも、あんた能力者だろって言って、はいって答えるわけ?」
「ああ。誰にも言えずに困ってるケースがほとんどだから、指摘すると素直に認めてくれる。で、実際に思考を読んでもらうなりして確定させる」
アヤママもカミングアウトできてほっとした感じだったもんな。
本当に誰にも言えない秘密っていうのは結構な重荷なんだろうな。
おれもなにかがあるみたいだけど、使いこなせないし説明しても「はあ?」ってなるだけだから、能力のことは重荷には感じていない。むしろ誰でもいいからどんな能力なのか教えてほしいぐらいだ。
「で、能力の仕組みは解明できそうな進展はあるのか?」
「前にも言ったけど生体解剖でもしない限り能力が発現している時の細胞の動きは把握できないからな。そんな被検体は現れないし手荒なことをするつもりがない。集めた事象で理論を検証していくしかないんだよ」
「もしかして、おれみたいな今までに見たことのない能力の出方するやつが現れると事例が増えて仮定が絞られるのか?」
「あれ?あんた物事の理解ができるようになった?立派になったもんだなあ」
だからその親目線なんなんだ。クソッ。
―――――
飲んで食って喋っても2時間が関の山だった。23時までまだ一時間ある。
どうやって時間を潰そうか相談すると、無理に店に入らなくてもおまえの部屋にいればいいと言われたので部屋に行って文字通り時間を潰した。
薄い本に描かれるようなことはなにもない。
主にワニのデスロールとカバが走っている動画を見せ続けた。